Wi-Fi 6Eが登場してから約半年。さまざまなメーカーから対応製品が登場したり、対応PCが登場したりと、以前に比べて身近な存在になってきた。本稿では、Wi-Fi 6Eのメリットを紹介しながら、今買うべきかを再検討する。
6GHz帯をめぐる現在の状況
Wi-Fi 6Eは、従来のWi-Fi 6の基本的な仕様を引き継ぎつつ、利用可能な帯域として新たに6GHz帯を追加した規格だ。
海外では先行して6GHz帯を利用可能なWi-Fiルーターが販売されていたが、国内では2022年9月の省令で6GHz帯の利用が可能になったことを受け、バッファローやNECプラットフォームズなどからも対応Wi-Fiルーターが販売された。
当初は、対応するPCやスマートフォンなどの端末が存在しなかったが、昨年末からNEC PCやVAIOなどを中心に既存のWi-Fi 6E対応PCのアップデートが提供されたほか、IntelからもWi-Fi 6E対応モジュールIntel AX211向けに6GHz帯を利用可能にするドライバーが配布されている。
また、スマートフォンは、GoogleのPixel 7シリーズが昨年末に配布されたアップデートでWi-Fi 6Eに対応したり、ソニーXperia 1 IVやXperia 5 IVなども最新のアップデートで6GHz帯に対応したりするなど、一部の機種から徐々に対応が始まっている。
こうした状況から、Wi-Fi 6Eの環境は昨年の登場当初に比べると、かなり導入のハードルが下がってきた印象がある。
Wi-Fi 6Eのメリット
Wi-Fi 6Eを利用するメリットは、何といっても「空いている」6GHz帯を活用できる点だ。
従来のWi-Fi 6までは、2.4GHz帯と5GHz帯の2つの周波数帯しか利用できなかった。2.4GHz帯は、電子レンジなどの家電でも利用される帯域となる上、チャネルの配置密度が高く、もはや干渉を避けることが難しいほど混雑している。
一方、5GHz帯は、2.4GHz帯に比べれば空いているといえるが、最近ではWi-Fiの接続先一覧に5GHz帯らしき近隣のアクセスポイントが表示される頻度が増え、こちらも混雑が始まりつつある状況だ。
特に5GHz帯は、160MHz幅を利用して最大2402Mbps通信を実現する機種が増えている。160MHz幅は、チャネル数で言うと8chをまとめて確保する必要があるが、5GHz帯は全部で20チャネルしか存在しないため、160MHz幅を近隣と干渉しないように配置しようとすると2系統しか確保できない。
要するに、近隣で160MHz幅を使う端末がある場合、これとの干渉が発生する可能性が高くなるわけだ。
一方、6GHz帯は、5925~6425MHzの500MHz分が解放されており、ここに20MHz幅単位で合計24ch分の帯域を利用できる。このため、160MHz幅で利用した場合でも、干渉しないように3系統分の帯域を確保できる。
このため、5GHz帯と比べて近隣と干渉する可能性が低い。しかも、現状、Wi-Fi 6Eのアクセスポイントを利用しているユーザーはまだ少ないため、事実上、近隣で6GHz帯が利用されている可能性は極めて低く、ガラガラに空いている帯域を占有できる。
また、DFSを利用しなくていいメリットも大きい。既存の5GHz帯のうち、W53(52~64ch)とW56(100~144ch)の帯域は、気象レーダーなどほかのシステムとの干渉を避けるために、起動時に一定時間干渉がないかを確認する待ち時間が発生したり、干渉を検知した場合にチャネルを変更したりしなければならないことが定められている。
6GHz帯は、DFSが不要のため、こうした待ち時間やチャネル変更もなく、快適に利用できるのもメリットだ。
各メーカーからWi-Fi 6E対応ルーターが登場
では、具体的にどのような製品が現在発売されているのだろうか。2023年3月時点で発売されている主な機種を紹介しよう。なお、メーカーや製品によっては、同等製品でも特定販路向けなどとして型番が異なるケースがあるのでご了承いただきたい。
バッファロー WNR-5400XE6
2402(6GHz)+2402(5GHz)+574(2.4GHz)Mbps対応というトライバンドWi-Fi 6Eルーター。2.5Gbps対応の有線LANポートも搭載する。メッシュWi-Fiの標準規格である「Wi-Fi EasyMesh」にも対応し、ペアリング済みの2台セットも販売されている。シンプルかつ機能的なデザインも魅力的。
NECプラットフォームズ Aterm WX11000T12
4804(6GHz)+4804(5GHz)+1147(2.4GHz)Mbps対応のトライバンドWi-Fi 6Eルーターで、しかも有線もWAN/LANともに10Gbps×1ずつ搭載するハイスペックモデル。とにかく性能を重視する人向けに最適な製品。
NECプラットフォームズ Aterm WX7800T8
2402(6GHz)+4804(5GHz)+574(2.4GHz)Mbps対応のトライバンドWi-Fi 6Eルーター。同社としてはミドルレンジに当たるモデルで、有線は1Gbps対応。サイズや価格も手ごろで購入しやすい。
ネットギア Orbi 9 RBKE963(3台セット)
4804(6GHz)+2402(5GHz)+2402(5GHz)+1147(2.4GHz)Mbpsと、クアッドバンド対応となる世界初のWi-Fi 6EメッシュWi-Fiルーター。有線LANも10Gbps×1、2.5Gbps×3と妥協なしだが、価格も3台セットで約25万円と超ド級。
TP-Link Deco XE75
2402(6GHz)+2402(5GHz)+574(2.4GHz)Mbps対応のトライバンドメッシュWi-Fiルーター。メッシュ間のバックホール(2台のアクセスポイント同士をつなぐ無線の基幹接続)に6GHzも使えるため、他の電波の干渉を避けた安定した運用がしやすい。
メッシュが多いがハイエンドモデルでの採用が増える方向に
このように、現状、Wi-Fi 6E対応製品は、主にメッシュや中継などの複数台を組み合わせた構成での利用を想定した製品が多い。
しかしながら、前述したようにクライアント側の環境も整い始めていることから、TP-LinkのArcher AXE75などのように単体での利用を想定した製品も登場しつつあり、通常のWi-Fiルーターとしての選択肢としても魅力的になりつつある。
また、バッファローが今春に4804(6GHz)+4804(5GHz)+1147(2.4GHz)Mbps対応で10Gbps有線(WAN/LAN)対応のフラグシップモデルの登場を予告している。既発売のNECプラットフォームズAterm WX11000T12と競合する製品で、今後は「Wi-Fi 6E=高性能モデル」という位置づけが加速しそうだ。
世間的には次世代のWi-Fi 7にも注目が集まっているが、現状見えている情報ではかなり高価格帯であり、また、法的な整備の必要性から、クライアント側も含めて日本での本格導入にはまだ間があると予想される。
「空いている6GHz帯」を堪能するなら、今の段階で対応Wi-Fiルーターを手に入れるメリットは大きいだろう。