国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と住友電気工業株式会社(住友電工)は3月15日、標準外径のマルチコア光ファイバーで世界最多コア数となる結合型19コア光ファイバーを開発し、毎秒1.7ペタビット(Pbps)、63.5kmの伝送実験に成功したと発表した。
今回の実験では、標準外径マルチコア光ファイバーの伝送容量世界記録に加え、毎秒1ペタビット級の伝送実験において63.5kmという最長距離も更新した。
NICTでは、標準外径光ファイバーを用いた伝送実験において、非結合型マルチコア光ファイバーでは毎秒1.02ペタビット、マルチモード光ファイバーでは毎秒1.53ペタビット、結合型マルチコア光ファイバーでは毎秒0.17ペタビットの伝送容量を達成していた。
だが、非結合型マルチコア光ファイバーを使った場合は、コア間の信号干渉抑制のためコア数が制限され、さらなる大容量化が困難となる。マルチモード光ファイバーではモードごとの伝搬特性の差が大きく、長距離化に課題がある。今回の結合型マルチコア光ファイバーについては、高精度なコア配置が必要なことから、0.125mmの標準外径ではこれまで最大12コアだった。
今回の実験は、住友電工が標準外径の結合型19コア光ファイバーの設計・製造を担当、NICTが性能を最大限に引き出す伝送システムの構築を担当して実施。統合型マルチコア光ファイバーでは信号干渉のためコアごとの伝送特性の評価が不可能なため、全コアの信号を同時受信し、一括でMIMO処理による復調も行っているという。
NICTでは商用の波長帯域(C、L帯)と偏波多重64QAM信号を用いて、今回の成果である伝送距離63.5kmにおいて合計毎秒1.7ペタビットの伝送容量を実証。光信号の経路ごとの伝搬時間の差が少なく、信号処理における電力の消費を大幅に軽減することが可能になったとしている。
今回の結合型19コア光ファイバーは、実用化に向けて研究開発が進んでいる非結合型4コアファイバーの次の世代を担う長距離用伝送媒体の、最も有望な候補の一つとして位置付けられているという。NICT
では、Beyond 5Gの時代では大容量の通信インフラに支えられた「サイバーフィジカルシステム」(フィジカル空間とサイバー空間の双方で時間、空間が高度に制御され、これまでフィジカル空間だけでは実現できなかったことが可能になるシステム)の実現が望まれるとする一方で、情報通信に伴う電力消費の増加は最低限にとどめる必要があるとしている。
この実験の結果の論文は、3月5日~9日に開催された光ファイバー通信関係最大級の国際会議の1つである「OFC 2023」(第46回光ファイバ通信国際会議)において、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、3月9日に発表された。