こんにちは、編集部 石川です。
毎月1回、当サイトのライターに専門分野や得意分野の話を聞いています。今回は、コントの舞台「明日のアー」を主宰している大北さんと、その公演に毎回出演している編集部の藤原さん。
コントといっても芸人さんのやるコントではなく、コメディの演劇のようなものをイメージしていただくと近いと思います。
舞台ってどうやるの?セリフってどうやって覚えてるの?なんで編集者が舞台に出てるの?などいろいろ聞いてみました。
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。
※どうでもいい情報:石川と大北さんは大学の同級生のため、いつもと違うフランクな口調でのインタビューとなっております。
大量のセリフのおぼえ方
石川:役者の人がセリフを全部覚えてるのが謎なんだけど、どうやって覚えるの?
大北:「これや!」っていうのは聞かないので、みんなが想像する通りなんじゃないかな。何回も言うとか、何回も聞くとか、ある程度自分の中でふわふわって覚えたあとに実際に他の役者としゃべっていくのが一番速いっていう人がいたりとか。
石川:単純にがんばりなんだ。藤原さんはどうやって覚えてますか?
藤原:紙の台本を渡されて、自分のセリフにマーカーを引きます。マーカーを引いた部分を覚えます。で、実際の稽古で、何を言われたら自分がこのセリフを言うのかをだんだん体になじませます。
大北:きっかけはその時点では覚えてこない?
藤原:なんとなくだけ覚えてます。でもまずはパーツを体にセットしてから、順序をなじませるイメージで。
大北:右側でこのタイミングで大きな声を出されたら次は自分やとか、認識が稽古場で強くなったりするね。
藤原:でもそれは素人のやり方っぽくて、八木さんは全部覚えてますね。
石川:他人のセリフも?
藤原:他人のセリフも。
大北:えぐ!八木さんみたいな上手な人は、舞台上でミスをしたときに修正もできるんですよ。今これが抜けたから、ちょっと後のあのセリフに繋げたらここはまるまるカットでいけるな、みたいな。
石川:僕らがインタビューを編集しているような作業を、リアルタイムでやるんだ。
大北:そう。しかも演技しながらしゃべりながらだから、めちゃくちゃマルチタスクなんですよね。舞台上で行われていることは。
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明日のアーのコントより「プログラムのコント 」
アドリブってあるの?
石川:舞台見てて気になるのは、あれどこまで台本どおりなのかなって思うんだよね。アドリブってあるの?
大北:『明日のアー』の舞台では行われてないですね。アクションで大きめにやってみたりとか、そういった遊びの部分はいろいろあると思うけど、セリフの面ではない。
石川:難しいから?
大北:アドリブ自体が難しいというより、誰かが新しいことをやると、まわりが話のロジックを組み直さないといけないから。
石川:一人じゃ済まないんだ。
大北:変なことをすると、それ変だよってみんなが言わないと場が異常になってしまうんですよ。変なことしてるのに無視したっていう(笑)。だからアドリブは他の役者にとってめっちゃ負荷が高いと思います。
石川:あーそうか、さっき、「セリフをミスしたときに上手い人は修正してくれる」というのと同じ作業を他の人に強いることになるんだ。
大北:そうそうそうそう。
舞台の演出はコンプライアンス的に無理があるんじゃないか
石川:先に役者側のことをきいちゃったけど、大北くんは立場としては脚本と演出だよね。脚本は分かるんだけど、演出っていうのは何?「役者の演技を見て『ここもっとこうして』って言う人」であってる?
大北:そう。プロの俳優さんに言うわけやから、おこがましいよね。
石川:例えばどういうことを言うの?
大北:稽古を見ながら、まず人の配置で、そこにいたら顔が見えないですよとかいう調整はします。あとは、台本ってセリフは書いてあるけど、体全体のことは書かれていないんですよ。
石川:じゃあ体の動きを考えるんだ。
大北:いや、演技を作ってるのは98%ぐらい各役者さん。役者さんが台本を見て、みんな演技を作って持ってくるんです。そこに「それだと話の流れ上、齟齬があるので、プランBで行ってください」とか言うのが演出側なんですね。この場面は泣いてもらわないとその後の意味が難しくなるんで、とか。
石川:台本を自分で書くときに思い描いていたものがあるから、そこに向かってほしいっていう?
大北:そう。あとは人物の配置とかですかね。単純に人同士が近いと仲が良いとか、遠いと興味がないとか、距離によって情報が生まれてくるからそういう調整もやる。でもそれも役者さんは自分でやるから、台本と齟齬が生まれないか全体を監督するみたいな状態ですね。
石川:へー。指揮者みたいな。
大北:指揮者が近いかな。
石川:でも大北くんの場合は舞台役者の経験もなくて、最初から演出だったわけでしょ。それって難しくない?
大北:めちゃくちゃ難しいよ。人にセリフを言わせるというのは、奴隷扱いするような仕事だから。ギリシャ時代とかは本の代読が奴隷の仕事だったんですよね。それに似ててコンプライアンス的に無理があるっていうか、こんなこと人がやっていいのっていう状態。
石川:読ませた上に「それ違う」とかって言うわけだもんね。
大北:まさにそう。最初の数年はそれがわかってなくて、ほんとに迷惑をお互いにかけ続けたと思うんですが、ようやくだんだんわかってきた。これだいぶ危ないぞって(笑)。
石川:どっかでバランス取ったりするの?役者の人たちにお菓子を差し入れして、みたいな。
大北:そこは、もう完全に割り切るしかない。「そういうもんや」って、わかった瞬間にお互いに配慮がある。
石川:そうか。役者の人達にとっても、「演出の人はそういう仕事だから」って合意があるっていうこと?
大北:そう。演出っていう立場を誰かがやらんと集団のクリエイションが前に進まないだろうっていうルールで動いているんだと思いますよ、このシステムは。
石川:完成させるためにそういう分担になっているから、しょうがないんだっていう。
大北:そうそうそうそう。そうだよね。そう。そういう構造であることを認識するしかないと思うんですよ。
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明日のアーのコント「死に際にマリメッコの話をする人」