「ローカル5G」本格普及は2025年以降に、5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアムが調査レポート 

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 5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム(5G-SDC)は、ローカル5G市場に関する調査レポートを発表。ローカル5Gの本格的な普及期が2025年以降になるとの見通しを示した。

 同レポートでは、文献調査を通じたローカル5Gに関する基礎情報の収集と、国内外15事業者へのインタビューをもとに、普及ロードマップを策定。2022年までを黎明期と位置づける一方、2023年および2024年は、ハードウェアやソリューションなどの使いやすさや、通信品質および安定性をより高めるための導入期になること、2025年以降に普及期を迎えるためには、大企業への導入だけでなく、中小企業や小規模案件にも柔軟に適用していくことが重要であることなどを示した。

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム 調査WG主査の小林康宏氏(NEC政策渉外部担当部長)

 コンソーシアムの小林康宏氏(調査WG主査)は、「5Gおよびローカル5Gは、産業や社会のDXを実現するための重要なインフラとして注目され、官民をあげてさまざまな分野や業種で、実証実験が始まり、利活用の確度が高まってきた」と現状を総括。その上で、現状はまだ課題が多いとし、「実装されたものは極めて限定的で、市場は黎明期が続いている。その背景には、ローカル5Gでなければできないことが確立しきれず、費用対効果の壁があること、通信品質や安定性に不確実性が残るという技術的な壁がある」と指摘した。

 同コンソーシアムは、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が、業界の枠を超えた共創を実現し、新たなビジネス創出をすることを目的に実施している「JEITA共創プログラム」の一環として、2020年9月に設立。5Gをはじめとする高度情報通信技術およびデジタル技術などの利活用の促進とともに、新市場の創出のほか、企業や地方公共団体、関係府省庁などとの連携によって、産業や社会のDXを推進するための事業を行っている。

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム 運営委員長の長谷川史樹氏(三菱電機通信システムエンジニアリングセンター標準化担当部長)

 コンソーシアムの長谷川史樹氏(運営委員長)は、活動の趣旨と役割を説明。「5G-SDCは、ビジネスやユーザー視点を重視した活動を行っている点が特徴である。5Gやローカル5Gは、ビジネスを動かすためのツールや手段と捉え、社会の環境にあわせて、必要とされる取り組みを柔軟に考えながら、共創を促し、産業や社会のDX推進に貢献していくことが5G-SDCの役割である」と述べた。

 座長には、東京大学の森川博之教授が就き、118社/団体が参加。業界団体や地方公共団体も賛助会員として参加している。会員間の共創促進を行う利活用WG、ビジネス拡大に資する情報支援を行う調査WG、ユーザーの理解促進や導入支援を行う普及啓発WGがそれぞれ活動を行っている。

技術やコスト面の課題を、2025年からの本格普及を目指して整理

 今回の調査レポートについて、5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム小林主査は、「エンドユーザーやサービス提供者、ITベンダーなどでは、ローカル5Gの将来に向けて、何を見据えて事業を進めれば良いのか、普及が進むための条件は何かといった点に関心が集中している。調査レポートでは、5G/ローカル5G関連市場の本格的な立ち上がり時期や、今後の見通しを多角的な視点で把握するために、2030年までのロードマップを策定した」と狙いを述べた。

文献調査をもとに状況を整理し、2030年までのロードマップを策定

 文献調査では、コア仮想化、MEC、RANオープン化および仮想化などのソリューション/システム技術と、OpenRANやvRAN、RU、インフラシェアリングといったハードウェア技術、5G仕様の標準化動向や経済安全保障問題、カーボンニュートラル、半導体需給バランスなどのビジネス環境に着目。また、インタビューでは、分野や業種が異なる事業者の見解を知り、多角的に示唆を得ることに心がけたという。

 ここでは、ローカル5G普及に向けた解消すべき課題を、通信品質、5Gの特性、導入コスト、運用コストなどの観点から抽出。日米中欧で異なっているIoTデータ収集方式の課題を解決する収集技術の確立や、通信端末のターゲット価格として4~6万円、RUやDU、CUによるオールインワン基地局のターゲット価格が50~50万円、総コストが1500~2000万円にすべきといった具体的な課題を示した。

ローカル5Gの普及に向けて解消すべき技術面、およびコスト面の課題

「高速・大容量」「超低遅延」から想定される多様な用途

 さらに、ローカル5Gの普及期に向けて、4K8K映像配信やAR/VRによる遠隔作業支援、AGVやドローンの自律制御、スマートメーターからのデータ収集などのユースケースや利活用シーンを提示。これらに沿って、必要になる機能や通信スペックを強化していく必要性も示した。

想定されるローカル5Gの想定されるユースケースは、「高速・大容量」を生かした映像配信、「超低遅延」を生かした機器制御など

「トリガー要素」を早期にクリアできれば普及の前倒しも

 また、文献調査とインタビューを通じて得た情報を精査し、策定した普及ロードマップでは、ローカル5Gの普及進展の条件となり得る要素を「マイルストーン」として提示し、とくにインパクトが大きく、早期にクリアすべきものは「トリガー要素」として取り上げてみせた。

2030年までのマイルストーン。2023年はPoC(概念実装)から商用利用に移りはじめる「導入期」とされる

 小林氏は「トリガー要素が、想定時期よりも早くクリアできた場合には、ローカル5Gの普及期が前倒しで訪れることになる」とした。

 トリガー要素としては、2022年までの黎明期に「ゼロタッチインストール機能の実装」「総コスト2000万円弱の実現」をあげているほか、2024年までの導入期においては、「業界特化ソリューションの横展開体制の本格運用開始」「端末4~5万円、オールインワン基地局40~50万円の提供ベンダー拡大」、2025年以降の普及期においては、「NR-Lightによる軽量版IIoT(インダストリアルIoT)の本格導入開始」「TSN(Time Sensitive Networking)によるミッションクリティカルIoTの本格導入開始」をあげている。

 「2023年以降は、大企業による大規模なPoCが主体となるが、商用導入も増えはじめ、黎明期を脱し、導入期に入る。2025年以降に普及期を迎えるための鍵は、通信品質の安定性改善、業界特化ソリュシーションの蓄積と横展開、中小企業の小規模案件に適用できるような導入の簡素化、各コスト低減が重要になる。企業や案件の規模にあわせて、さまざまなフィールドで商用導入が進むステージになり、5Gの機能拡張によって産業用IoTのユースケースの多様化が進むことで、さらなる普及を牽引することになる」と語った。

 なお、今回の調査レポートの詳細は、5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアムの会員企業にのみ公開しており、同コンソーシアムのサイトでは、会員企業以外でもエグゼクティブサマリーを閲覧できる。

 最後に、小林氏は「ユースケースや導入、開発における課題を持っていたり、ビジネス展開の先行きを、多角的に把握したいと考えている人たちに活用してもらいたい。この調査レポートをもとに、ビジネスマッチングや共創促進、普及促進といったコンソーシアムの活動をさらに活性化させたい」と、今後に向けた抱負を述べた。

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