アメリカ消費者物価指数下落:日本企業に淘汰の嵐が吹き荒れる可能性

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昨夜の夕食時、バンクーバーの目抜き通りロブソン通りを歩きながら店舗の客の入りを眺めていました。恐ろしいと感じたのは数あるレストランは客ゼロの店が軒並み続き、客がいてもまばらで店員は手持無沙汰の姿が圧倒的に多かったことでした。一般小売店も同様で高い賃料をどうやって払うのか、首をかしげざるを得ない思いでした。

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年末まではホリディで浮かれた気分だったのですが、年が明けて消費のスタンスは凍り付いたというのが肌感覚です。例年、1-2月は年末に使い過ぎたクレジットカードの請求額を見て消費が止まるというのが北米の恒例パターンですが、今年の影響ははるかに大きいと思います。カナダでは消費者が手軽に使えるクレジットカードローンの残高が過去最大となりカナダの一人当たりの繰り越し残高は2500㌦程度にまで上がっています。残高の返済よりカード購入額が多い状況が続き、一年で2割以上も残高が増えているのです。しかし、カードローンの金利は年20%前後です。恐ろしいですよね。

そんな中で欧米はインフレに苦しんでいるという統計上のデータと私の肌感覚には約3か月程度の時間的ギャップを見ています。本日発表になったアメリカの12月度消費者物価指数は総合指数が前年比6.5%UP、前月比は2年半ぶりのマイナス0.1%です。またコアは前年比は21年12月以来となる5.7%上昇、前月比が0.3%上昇となっています。11月のCPIが総合7.1%、コア6.0%であったことを見ても確実にインフレは沈静化していることが読み取れます。

この傾向はこの先、数か月確実に続くはずで春には総合指数は5%台前半、7月には4%台後半を予想しています。但し、そこからは下がりにくいと思います。これは2つ理由があります。一つは2022年7月までエネルギー価格の急騰で指数が急上昇したことが大きかったために前年比でみるとインパクトが小さくなるのです。統計のマジックというか、単なる数字の裏側の話です。

もう一つはエネルギー価格です。今年は世界的に暖冬だったため、ガスの価格が低廉に抑えられています。これは幸いだったと思います。ですが、年の中盤から中国の経済正常化に伴い、資源需要は確実に高騰するため、エネルギー価格は今が底だとみています。今後、ゆっくりとした上昇に切り返し、年末は原油価格は90-100㌦程度まで上昇する可能性はあります。

またもう一つのテクニカルな理由としてドル安になると資源価格が高く表示されるのです。ほぼすべての商品価格はドル建て表示だという点がポイントです。私が金(ゴールド)が上がると指摘したのはそれもあります。年内早い時期に2000㌦/オンスをつけるとみています。よって物価は夏以降はフラットかひょっとするとやや上昇バイアスの可能性も出てきます。

では日本。今年一年を占うと言ってもよいのが1月17-18日に開催される日銀の金融政策決定会合です。前回の会合で黒田総裁はイールドカーブの変動幅を0.25%から0.50%に拡大しました。ところが10年物国債利回りはその上限あたりで貼り付く催促相場になっているため、個人的には黒田総裁がこの幅を0.75%か1.00%ぐらいまで広げるのではないかとみています。これは日銀が市場原理を無視した金融支配をしているという批判をかわすこと、黒田総裁の任期がもう数か月しかないため、バトンタッチするために自ら作り上げた堅牢な政策の抜け道を自らの責任で作るためです。

仮に私の予想が当たった場合、メガバンクや生保の株価は更に暴騰するはずです。一方、メディアはネガトーンなニュースのオンパレードになるでしょう。街角インタビューでは批判と非難の嵐となります。ただ、80%のネガティブな街の声は最終的にほとんど意味をなさず、20%の勇気が日本の殻を打ち破る道筋を作ると思います。

残念ながら日本は物価上昇に対して極めてセンシティブです。しかし、2022年一年を通じて企業は戦々恐々としながらも「ライバルが値上げするなら俺も…」という機運が出てきたのです。かつては「ライバルが上げるなら俺は我慢して市場を制覇する」だったはずです。それが出来ないというのは企業レベルではもはや余力がなく、我慢比べだということです。

では日銀のイールドカーブコントロール(YCC)の変動幅緩和と何が関係あるのか、と言えばズバリ、日銀はほぼ無意味な大規模金融緩和をやり続けたということです。私は6-7年前に「金利は一定以上に下がってもその下がった恩恵の効果が出にくくなる」と申し上げたことがあります。一定とは感覚的には1.0%以下です。つまり、ほとんど経済浮揚効果がない深掘り状態から通常体制に戻ることで日銀の本来の機能を回復させ、ひいては日本経済を集中治療室から出し、せめて6人部屋で入院するぐらいまで回復させることなのです。

日本の物価上昇は企業が我慢した分、北米と比べ1年以上遅延した形で現れます。今年の春も値上げラッシュと報じられているのはそのためです。企業が値上げすれば日銀が我慢のYCCをするつじつまは全く合わなくなるわけです。

そういう意味での日本経済の正常化への道は結果としてありがたいのですが、企業の淘汰の嵐も吹き荒れると思います。今年は相当数の倒産と事業閉鎖が起こるだろうとみています。それは不況ではなく、正常化へのリハビリなのだと割り切れるかどうかではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月12日の記事より転載させていただきました。