2022年は新世代のCPUやビデオカードが発売され新世代に切り替わり始めた1年だった。すでに公開されているCESの記事を見る限り2023年も新しいPCは登場してくる。そして古いPCは忘れられていくことだろう。
その一方で20年間人々から忘れられず(主にインターネット上で)生き続けているPCがあることをご存知だろうか?
そう、「フェニックス1号」である。
フェニックス1号とは
フェニックス1号とは2ちゃんねる(現在の5ちゃんねる)の自作板で「貴様の愛機の名前」というスレッドを立てた1(スレ主)が書き込んだ以下の内容である
フェニックス1号
CPU:AthlonXP 1400+(25w版)
M/B:A7V266
MEM:512MB
HDD:60GB
VGA:自慰Force2MX400
SOUND:SB Live!
このスレッドそのものは2002年の9月26日に投稿されているが、この内容がコピペにコピペされ続け現代に残っている状態となっている。いわゆるインターネットミームの1つだ。
当時のスレッドの様子はInternet Archiveで確認することができる。
フェニックス1号を今作る
このフェニックス1号だが、筆者がインターネット上で探す限り環境を再現している人を見つけることができなかった。もちろん再現していた人もいるとは思うが、当時は個人ホームページ全盛期。ジオシティーズなど当時運営していた無料Webサイト作成サービスは今ではほぼ消滅しその当時の情報を見ることはできない。
「ふ~んじゃあ作ってみるか」
筆者がこのように軽いノリで決意をしたのが1年前となる2022年の1月だった。
フェニックス1号のパーツを読み解き、集める
実際に作るといっても何を準備すればいいのか分からない。何せフェニックス1号に与えられている情報は
- CPU:AthlonXP 1400+(25w版)
- M/B:A7V266
- MEM:512MB
- HDD:60GB
- VGA:自慰Force2MX400
- SOUND:SB Live!
だけだからだ。ここから必要なパーツを読み解いていこうと思う。
CPU:AthlonXP 1400+(25w版)
CPUはK7世代のAthlon XPだ。Athlon XPはQuantiSpeedアーキテクチャを採用したCPUでPalomino、Thoroughbred、Bartonのコードネームのうちのどれかの製品となる。とりあえず「焼き鳥」と呼ばれた世代の後と覚えておけば良いだろう。
次にモデルナンバーの1400+だ。当時の競合となっていたインテルプロセッサの1.4GHzよりも動作クロックは低いけれど高速だよという意味であり、この表記はAthlon 64 X2まで続いた。
なお、今回の1400+についてはデスクトップ版のラインナップには存在しないため必然的にモバイル向けということが分かる。
よって「Mobile Athlon XP 1400+(1.2GHz)」であるところまでは判断ができた。コードネームはThoroughbredとなる。
続いて25Wという部分だ。
Mobile Athlon XP 1400+(1.2GHz)ということはわかったが、実はこの1400+のモデルナンバーには2つのTDPの製品が存在する。
- AXMD1400FQQ3B……1.45V 35W
- AXMD1400FWS3B……1.30V 25W
今回の場合は25Wという情報があるため、「Mobile Athlon XP 1400+(1.2GHz) AXMD1400FWS3B」ということが判明したことになる。
35W版、25W版のどちらも主に秋葉原などでバルク品として販売されていた製品で、入手性もそこまで良かったとは言えない。現在の入手方法としては中古品、ジャンク品の単体を探す。もしくは採用されているノートPCからCPUだけ取り出すという方法が必要になる。
当時のAKIBA PC Hotline!によると、2002年8月31日の記事で初登場となったため、フェニックス1号で使われているCPUは実はまだ登場して1カ月しか経過していない最新パーツだったということになる。
いきなり希少性の高いものを要求されてしまい何度も諦めかけたが、なんとか入手した。
余談だが、35W版となるAXMD1400FQQ3Bの方も入手してしまった。なんで買ったの? と突っ込まれると筆者は泣いてしまうのでやさしくして欲しい。
M/B:A7V266
これは型番ルールよりASUSの「A7V266」シリーズということが分かる。
A7V266はVIA Technologies製のApollo KT266を搭載したマザーボードでDDRメモリに対応したことがポイントだ。
また、このA7V266は先ほど紹介したMobile Athlonでの動作がCPUサポートリストにはないものの、Cool’n’Quietの実績はあるマザーボードのため、スレ主が適当なことを言っているわけではないことは確かだろう。
このA7V266だが、フォームファクタや機能でいくつかバリエーションが存在している
ざっくり分けると以下の通りとなる。
- A7V266……ATX 基本となるモデル
- A7V266-EX……ノースブリッジがKT266Aに変更され、サウスブリッジがVT8233AとなりUltraDMA133に対応したモデル
- A7V266-M……ノースブリッジがKT266Aに変更されたMicroATXモデル
- A7V266-E……ノースブリッジがKT266Aに変更された後継モデル
- A7V266-C……ノースブリッジがKT266Aに変更され、Promise製IDEコントローラーが省かれたモデル
- A7V266-MX…ノースブリッジにグラフィックス統合型ProSavageDDR KM266を搭載し、サウスブリッジにVT8235を搭載することでUSB2.0に対応したMicroATXモデル
大手メーカーのASUS製といえどこの時代のマザーボードをピンポイントで入手するのはかなり困難だ。しかもK7世代となるとすでに一般的な中古品として展示されることも少なく状態の悪いジャンクをひたすら漁るしかないからだ(別のネタとして有名なP5Qについてはまだ中古が流通しているようである)。
筆者としても最後まで入手できなかったパーツがこのA7V266であり、最終的には日本で探すことを諦めることになった。
視野を世界に広げるとTaobaoやeBay、そのほかよく分からない通販サイト等で扱っているところはいくつか見つけることができた。
しかし、本体代金が多少高いのは覚悟していたが、送料の高さが大きな壁となっていた。簡単に言えばトータル1万円を切ることはかなり難しい。
筆者もいくつかの業者と交渉したが、表示されている価格で購入したら「この商品を送るには追加で450人民元が必要(送料ではない)」と言われたり、カザフスタンの業者と直接やり取りした時はやはり日本はマイナーなのかトータルの価格で諦めたりと、我ながら一体何をやっているのだろうと思いながらも、最後はオランダから「A7V266-MX」を購入することに成功した。
A7V266-MXはA7V266のシリーズの中でもUSB 2.0やLANを搭載している点、またMicroATXで無駄な場所を取らないことが決め手となった。
また、今回CPUやメモリ、HDDもなぜかセットで送りつけられたため、CPUクーラーを探す手間が省けたところは大きい。CPUクーラーも今Socket A対応のものを新たに探そうとするとかなり困難だからだ。
MEM:512MB
メモリとなる。これはDDR1の512MBを用意すれば良いということだろう。古いことは確かだが広く使われていたパーツのため、入手性は悪くない。ブランド指定もないため容量さえ合わせられればここはクリアとなる。
もしスレ主がM&SのDDR266 512MBといった書き方だったら筆者は諦めていただろう。
今回筆者は昔から使用していたCFD製(赤箱)のDDR400に対応した 512MBを準備していたが、A7V266-MXではブートしなかった。そのため急遽A7V266-MXに同梱されていたMDT製のDDR333に対応した512MBを使用することにした。
HDD:60GB
これは60GBのHDDを準備するということだろうが、細かな仕様は決まっていないためメモリと同様ある程度自由度はありそうだ。
しかし、A7V266シリーズでは現在主流のSATAには対応していない。そのため現実的な選択肢としては正直にUltra ATA100接続の3.5インチ60GBのドライブかSATA対応の2.5インチ60GBとSATA拡張ボードをセットで準備する必要があった。
筆者は秋葉原のet al.でたまたまUltra ATA100の60GB仕様となるDeskstar IC35L060を見つけることができた。
オークションなどでも似たような物は入手可能だが、送料が高いところか、送料は安くてもポスト投函というそれはHDDで使う方法じゃないだろと思えたところばかりで、今回実店舗で発見できたのは大きい。不良セクタはあるが……。
VGA:自慰Force2MX400
次はビデオカードだ。この自慰というのはGeForceのGeを自慰と読み替えているものと考えられる。そのため必要となるパーツはNVIDIA製のGeForce2 MX400を搭載したビデオカードということになる。
GeForce2 MX400はメインストリーム向けとなるGeForce2 MXシリーズの1つで、バリエーションとしてほかに無印のGeForce2 MX(こちらが先に登場)とGeForce2 MX200が存在している。違いといえばコアクロックとビデオメモリのインターフェイスとなり、今回使うGeForce2 MX400はその中でも上位のモデルという位置づけだ。
低価格ながらもハードウェアT&Lに対応しているため、当時大ヒットしていた「ファイナルファンタジーXI」のPC版を動かすことはできたが、性能的には物足りないところだった。フェニックス1号のスレッド当時すでに後継となる「GeForce4 MX」シリーズが発売されていたことを考えると若干周回遅れ感は否めないだろう。
また、GeForce2 MX400にはビデオメモリが32MBまたは64MBという違いや、TwinView(デュアルディスプレイ)対応、AGP/PCIといった豊富なバリエーションが存在していた。
今回筆者は一番ベーシックな、ビデオメモリが32MBでAGPなInno3D製のGeForce2 MX400を中古で購入した。
こちらも相当古い製品となるため、通常ならジャンク箱行きとなるような代物だ。そのためどちらかといえばオークションなどで購入したほうがよいかもしれない。幸いGeForce2 MX400については頻繁ではないが出品されていることは確認できている。
SOUND:SB Live!
次はサウンドカードである。まずサウンドカード? となる読者もいると思うが、当時は音が悪かったり、機能が足りていなかったり、サウンドカードを追加すると少しだけベンチの数値が上がるといった理由で追加することも多かったと思う(ちなみに筆者はベンチ改善目的でいきなりSound Blaster Audigy LSを買って大爆死した記憶がある)。
今回のSB Live!というのはCreative製の「Sound Blaster Live!」のことと推測できる。
ただ、Sound Blaster Live!と言っても一般販売モデルからOEM組み込みモデルまでさまざまなバリエーションが存在している。基板で言えばCT4620(初代)、CT4670(Value)、CT4760(Platinum, X-Gamer)、CT4780(Dell向けValue)、CT4781(Gateway向け Value)、CT4782(パッカードベル向けValue)、CT4830(コンパック、IBM、NECなど向けValue)、CT4831(Gateway向け Value)、CT4870(NEC、HP向け Value)、CT4871(Gateway向け Value)という具合だ。
今回筆者はオリジナル版とも言えるCT4620を入手して使うことにした。黒と金で構成されたカードは発売から25年近く経った今でも美しい。こちらも基板にこだわらなければオークションなどでの入手性は比較的高いといえる。
重要なパーツは揃ったのでほかのパーツも揃える
ケース:Deepcool MACUBE 110 ホワイト
microATX対応で5,000円を切る値段で販売されていることも多い。
5インチベイなし、電源は底面配置。左面サイドパネルはガラス製でフェニックス1号の中を鑑賞することにも適している。値段なりの造りではあるが、最近のトレンドがこの価格で取り入れられていると考えるとコストパフォーマンスは高いと言えるだろう。
ただ、20年前のシステムが入るかは自信がないが……。
電源:HEC WIN+ POWER LT2 500W
HECのWIN+POWER LT2 500Wは、80PLUS Bronze認証に対応したATX電源となる。筆者の家に未開封品として眠っていたためこちらを採用した。
本当はEAGLEと書かれた前衛的な電源を使うことも考えたが、フェニックスなのに蘇らなくなりそうなのでやめることとなった。
OSについては世代的にWindows XPなので、Windows XP SP3を導入することにする。当然インターネットには接続しないスタンドアロン運用だ。最近のWindows 11では動作しない古いゲームもいくつかあり、ここをカバーするにはWindows XPがちょうどいいと考えたためだ。
OSとドライバのインストール
導入したドライバーは以下の通り
- VIA 4in1 Driver 4.43
- ForceWare Release 93.71
- Sound BLASTER Live!シリーズ用Live! Basic Unit for Windows2000/XP(WDM) Revision.4-JPN
さて、使うかと思い念のためCPU-Zを確認すると、クロックが500MHzになっている。
Mobile Athlon XP 1400+はバススピード100MHzの12倍で1.2GHzという仕様だが、5倍から動く気配はない。BIOS上でAthlon 4として認識していたところも関係があるのかもしれないが、どうやらCool’n’Quietに対応する関係で、起動倍率がFSB100のCPUについては5倍に固定されてしまうとのことだ。よって現状はAthlon XP 500MHzという具合となり、これではフェニックス0.5号くらいにしかならない。
新年早々悩みに悩んでいた筆者だが、そういえば昔自宅サーバー全盛期にShuttleのベアボーンでMobile Athlon XPを使ったとき何かツールが……あったような……。
そう、「CrystalCPUID」である。
CrystalCPUIDは搭載されているCPUの情報を確認できるほか、今回のようなMobile Athlon(もしくは通常のAthlonのパターンを鉛筆で塗るなど)で倍率変更がソフトウェア上で可能になるありがたいソフトウェアだ。開発そのものは終了しているが現在も公開されているため最終版が入手可能だ。
New Multiplierで 12.0xをプルダウンから選択すると定格の1.2GHzになったことが確認できた。
CPU-Zの画面やBIOSでは電圧が1.568Vと表示されており定格1.3VのCPUには少し電圧盛りすぎかな? と思っていたがCrystalCPUID上では1.3Vと表示されていた。
実際はCPU-ZやBIOSの表示のほうが正しいように思えるが、A7V266-MXはBIOS上で電圧の変更ができないため、CPU側のブリッジ加工が必要になりそうだ。
とはいえ元々は定格1.6VのCPUのため消費電力が多くなる程度の影響しかないと判断し今回は倍率変更だけ行なえる状態とした。
実際の運用ではショートカットをスタートアップへ入れておくことで毎回CrystalCPUIDを起動する手間を省くことが可能だ。
ここまで作業を実施し、ようやくフェニックス1号が仕上がった。そんな気分になれた。
ケースに入れて運用開始
仮組みのままでは実運用とは言えないため、Deepcool MACUBE 110にパーツ類を収める。Shuttleのベアボーンの残部材から流用したUltra ATAケーブルの取り回しが心配だったがうまく行ったように思える。
せっかくなのでもう少し中のパーツが見えたほうが良さそうに思えた。
そこで、光り物のグッズを探してみると、AliExpressでクリスマス向けになぜか買ったがまったく出番がなかったLEDライト(揺らめく炎的なエフェクト付き)が3本手元にあったためこれを使うことにした。
これらのLEDライトはUSBから電力を給電できるため、マザーボードにあるUSBピンからType-Aコネクタ変換基板を使い変換。そこからUSBハブを使い内部で完結させた。
懐かしのゲームやベンチマークを起動してみる
動機はどうであれ、Windows XPの環境が構築できたためWindows 11では起動できないようなタイトルをプレイしていこうと思う。
Disc Station Vol.27(最終号)レストランKING
昔は書店でゲーム入りの雑誌DiscStationという季刊の雑誌が買えたのだが、その事実上の最終号となるDiscStation Vol.27に収録されているレストランKING(料理カードを集めて金額を早く達成させるボードゲーム)をプレイした。
正月だしボードゲームは基本という気分でプレイしたら1日が蒸発してしまった。本当に危険すぎる。
ゆめりあベンチ
この世代ならお約束のベンチマークソフトだろう。Windows 11ではそのままでは起動することができなくなったソフトのため筆者としても久しぶりな気分である(なお、ゆめりあベンチを最新の環境で無理やり動かしてハイスコアを狙う猛者は今も存在している)。
スコアは800×600ドット、それなり設定で860という具合だ。
3DMark2001SE
2002年の定番ベンチマークといえば3DMark2001SEだろう。マトリックス風なベンチ画面は見たことある読者も多いと思う。
ちなみにこの3DMark2001SEはDirect X 8.1に対応しているが、今回使用したGeForce2 MX400はDirect X 7.0世代なので一部のベンチマークはスキップされる。
N-Bench 3
2003年に公開されたAMD純正のベンチマークソフトが忍者ベンチことN-Bench。その3世代目のソフトウェアとなる。N-Bench1とN-Bench2は筆者としては響かなかったのだが、このN-Bench3は「あ、自作しよう」と思わせるような内容だった。
制作は主に日本で行なわれ、3D映像作品のPROJECT-WIVERNを手掛けた青山敏之氏と北田清延氏が参加している。そのためベンチマークでもPROJECT-WIVERNのシーンがリアルタイムで再現されるところが特徴だ。
また、音楽はロックマンゼロシリーズなどでおなじみの梅垣ルナ氏が担当している。
このN-Bench3はベンチマークでAthlon 1GHz+GeForce2 GTSの環境との比較ができるため似たような世代のマシンと比べてどういった位置づけなのか判断がしやすいところがポイントだ。
N-Bench3には3.1というバージョンもあるが、こちらはデモがフルサイズ仕様となっており、当初店頭デモやノベルティ向けに配布されたプレミアム・エディションと同等となる。よって今から手に入れるならN-Bench 3.1がおすすめだ。
Vana’diel Bench 3
これはWindows11でも起動するため例外……なのだが定番のベンチマークの1つ、ヴァナ・ディールベンチ3も実行してみる。
GeForce2 MX400の説明のときにも書いたが、フェニックス1号の環境では役不足感は否めない。ベンチ結果としては405-H、627-Lという具合だ。
最後に
ここまでが筆者が実際にフェニックス1号を再現するために動いてきた結果だ。
実作業はほぼ年始に集中して行なったため、筆者の元旦はフェニックス1号に染まったと言っても過言ではない。
さて、このフェニックス1号だが、当時の最強マシンかと言われればベンチマークからそれは違うと判断できる。ただ、登場して間もないMobile Athlon XPを選ぶなどある程度こだわりも感じられることも事実だ。
そしてスレッドはあくまでも「愛機の名前」である。性能というよりは愛なのかもしれない……。
PC Watchの読者も中には愛機に名前をつけている人もいるだろう。ぜひともこの記事をSNSで共有して、愛機の名前とスペックを共有してもらえると筆者としても嬉しい限りだ。
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