メモ
中央アジアに位置するキルギスには「デート」という言葉がなく、男性が妻となる女性を誘拐してそのまま結婚をせまるケースが多発しているとのこと。キルギスにおける誘拐婚の実態について、首都ビシュケク在住のライター、Sevindj Nurkiyazova氏が解説しました。
The bride-snatchers of Kyrgyzstan | The Economist
https://www.economist.com/1843/2022/12/19/the-bride-snatchers-of-kyrgyzstan
2016年に行われたキルギス政府の調査では、同国の女性の約22%が「アラ・カチュー」と呼ばれる誘拐から結婚生活が始まったと回答しています。その内訳は「同意なし」が6%、「同意あり」が16%ですが、キルギスの男性優位な思想を鑑みると、「同意」という言葉の実態を探るのは困難であるとNurkiyazova氏は指摘。キルギスにおける誘拐婚は、アメリカにおける出会い系アプリと同じように普通なことなのだと述べています。
伝承によると、1876年にキルギスがロシア帝国の一部になるずっと前、裕福な若い女性が貧しい男性と恋に落ちるも、父親がその男性との結婚を禁じたため二人は逃げ出し、娘の父親が地元の人たちに追いかけさせ、渓谷の端に追いやられた二人は手をつないで飛び降りたそうです。この話がアラ・カチューのベースとなり、キルギスの首都ビシュケクから南東に100キロ離れたキーズ・クイオー(花嫁と花婿)という小さな村から広まっていった模様。
アラ・カチューが民族誌に登場するのは1940年代のこと。アメリカ人とキルギス人の2人の社会学者は2007年の学術論文で「アラ・カチューは人々がお見合い結婚から合意結婚に移行するのを助けるために支持された」と理論付けています。
Nurkiyazova氏によると、この半世紀の間にアラ・カチューはさまざまなシチュエーションを表現するようになったとのこと。話にあるように恋人が親の意向を無視して駆け落ちすることや、結婚式の費用を節約するために行われるものもあるそうです。また、結婚を拒んだ元恋人を誘拐したり、幼なじみでほとんど話したことのない女性を誘拐したり、さらには見ず知らずの女性を捕まえては、恋愛の約束や感情的な脅迫、レイプなどで強引に引き留めようとしたりと、より凶悪なケースもあるとのこと。
近年、女子教育が拡充され、政府関係者にも女性が増えていますが、アラ・カチューはむしろ増加傾向にあります。2004年に行われた花嫁の誘拐に関する詳細な分析では、76歳以上の女性の27%が騙されたり、強要されたりして誘拐されたことがあると回答していますが、16歳から25歳の女性では半数以上が自分の意思に反して誘拐されたことがあると答えています。
このような調査は繰り返されていませんが、花嫁の誘拐は続いているとのこと。2012年には、20歳の女性が誘拐され、レイプされた後、自殺するという恐ろしい事件が発生し、30年ぶりに誘拐犯が投獄されたそうです。この風習に対して国民的な抗議運動が起こったことを受けてキルギス議会は花嫁誘拐の最高刑を3年から7年に引き上げましたが、これはある意味では進歩だったものの、当時の誘拐罪が10年、自動車盗が8年、牛泥棒が11年であったことを考えると、暗い冗談のようなものであったとNurkiyazova氏は振り返ります。
花嫁誘拐の刑期は他の誘拐と同等になったものの、刑事司法制度は依然として甘いとNurkiyazova氏は指摘。ビシュケクに拠点を置くニュースサイト「Kloop」が2021年に行った調査によると、2019年にキルギス警察に届けられた233件の誘拐のうち、裁判になったのはわずか14件。2020年は210件中11件とさらに少ないものでした。法律は花嫁の誘拐を「例外的に加重された刑事犯罪」に分類しており、当事者が和解しても事件を追及しなければならないとしながら、警察や裁判所の職員は被害者の供述を変更させることが多いと、ある弁護士はKloopに語っています。そうすれば、拉致の訴えは再分類され、却下されることがあるためです。
裁判になったアラ・カチューのほとんどは罰金か執行猶予付き判決で終わります。ただし、女性が死亡した場合は例外で、その場合はニュースが拡散されるとのこと。2021年4月にも首都圏で通勤途中の27歳の女性が誘拐されるという事件が起きましたが、この被害者はレイプされ、首を絞められて殺されています。
Nurkiyazova氏がビシュケクの住人にインタビューしたところ、ある男性は「羊を盗むように女性を拉致するのではなく、まず男女がお互い話をするところから始めます。そうして意気投合すれば誘拐するのです。女性は同意しないこともありますが、親が同意すればそのままです。男性は見ず知らずの人間を誘拐することはまずありません」と語ったとのこと。
ある女性は「結婚したときは夫のことを知らなかったんです。2回目に会ったのはベッドの上でした」と語ったとのこと。実際に誘拐され、望まない結婚を強要された女性も多い一方で、「禁止されたらどうやって夫を見つければいいんでしょう。アラ・カチューがなければ独身のままで、娼婦になるだけです」という考えをもつ女性もいたそうです。
2018年5月にはアラ・カチューに巻き込まれた女性が相手の男性により刺殺されるという事件が発生し、被害者女性の名を取り「#ForgiveUsBurulai」というハッシュタグがソーシャルメディアで急速に広まっています。しかしながら、Nurkiyazova氏は「キルギスの人々は殺人事件にはショックを受けましたが、誘拐婚が行われたという事実にはそれほどではありませんでした」と述べ、いかに誘拐婚がキルギスで当たり前に行われているかという現状を述懐しました。
この記事のタイトルとURLをコピーする