車で渡れる無人島(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

何かありそうな島です。

橋を使って車で渡ることのできる無人島があるという。無人なのになんで橋があるのだろう。子供が遊びに行くために作ったものだろうか。なんとなく板切れみたいな橋を想像していたのですが、行ってみたらすごい立派な橋でびっくりしました。

2007年7月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

すごい立派な橋だ

抜群のロケーションです。

いきなりだが写真のでかい橋が無人島へと続く橋だ。ほら、すごい立派だろう。

島の名前は薮地(やぶち)島。沖縄本島の東部、与勝半島沖に位置する無人島だ。近くには漁港があり、海もきれいでこんな立派な橋まで架かっている。即観光スポットになってもおかしくない環境なのにどうして無人なんだろう。

観光案内図にも。
ちゃんと載っている。

ちなみにこの橋(薮地大橋という)が昭和60年にできる以前、住民は干潮時に歩いて渡ったり小船を出したりしていたらしい。橋が架かってからは車でも渡ることができるようになってずいぶん便利になった。

いやまてよ、無人島だろう。なんでそんな苦労して小船を出したりしてまで渡っていたのか。

疑問を抱きながらも、僕も橋の恩恵に与って原付で無人島へ渡ってみた。途中で車とすれ違った。何度も言うが無人島じゃないのか。この車、どこから来たんだ。

前から車が来た。
島の道はしばらく舗装された道だが。
やがて砂利道へと変わる。

静かだ

そしてあとは何もない。

島に入ると音が消えた。今は夏なのでセミの鳴き声は盛んに聞こえる。だけどなぜか静かなのだ。それは人の発する音がないから。人工の音を排除すると世界はこんなに静かなのだ。遠くで鳥が羽ばたく音まで聞こえてくる。

サトウキビ。
道。

島の道は細いが車で走れないこともない。そして時折電柱が立っているし道の脇に牛舎があったりする。つまり電気も水も来ているのだ。

だけど誰もいない。

牛舎。
牛はいるけど。
人はいない。

とにかくひたすら人の気配がないのだ。これにはさすがに不安になった。もしかしたら入っちゃいけない場所だったんじゃないか。ブレアウィッチプロジェクトみたいなことにならなければいい。

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不安になる

建設途中らしき建物があった。ここならば誰かが作業していてもおかしくないだろう。さすがにそろそろ人に会いたくなったので立ち寄ってみた。

だけどここにも誰もいなかった。

僕だけ取り残されてしまったみたいだ。

建設途中というより途中で放棄した感じだった。それにしても静かだ。セミの声や鳥のさえずり、風が草木を揺らす音なんかが盛大に聞こえているのだけれど、それでも僕の耳に入ってくるのは痛いほどの静寂だった。

かなり不安になりながらもバイクを走らせること約10分。突然先に道がなくなった。前には森が迫っている。 

ついに行き止まり。
先には森が広がる。

森との境目に看板を見つけた。かなり朽ちていて文面を完全に追うことは難しかったが、だいたいこういうことらしい。

朽ちた看板には洞窟があると書かれていた。

「この先にあるジャネー洞は考古学的にはヤブチ洞窟遺跡として知られている。洞窟内の地層からは沖縄縄文時代のものとみられる沖縄最古の土器が出土された。」

洞窟あるのだ。すごく行きたくなかったが写真撮らずに帰るわけにもいかないだろう。使命感だけで歩みを進めることにした。おれ偉い。

まだ携帯電話の電波が通じることを確認し、洞窟へと続くけもの道を下った。今日は家族になにも言ってこなかったので、僕が帰らなくても近所の古本屋とかは捜索するだろうけど、この森は探さないだろう。本気で嫌だ。

たぶんこの先洞窟。

森の奥にぽっかりと開いた洞窟は、それはそれは神聖な感じだった、以上。ここから先へは進みたくないので興味のある人は勝手に行ってください。

洞窟と逆の方向へも道が続いており、下っていくと誰もいないビーチへとつながっていた。人で混雑する観光ビーチにいつも文句を言っていた僕だが、今日ばかりは誰かいて欲しいと思った。だけど今思えばあそこに誰かいたらそれはそれで怖かったと思う。

海へと続く道を降りると。
誰もいないビーチがありました。

貴重な場所だと思います

薮地島には以前は住民がいたらしいのだが今では半島側へ移動してしまい完全に無人だ。橋が架かっているのは、ここで畑を耕したり牛を飼ったりしている人がいること、それから洞窟にある拝所へ拝みにくる人の便利のためなのだと思う。

それにしては立派すぎる橋なので、かつては開発の計画もあったとかなかったとか。でもたぶんあの島はこれから先もずっとあのままであり続けるだろうし、そうあってほしいと思う。一大テーマパーク化している沖縄本島から橋を渡るだけで脱出できる場所を、ぜひとも残しておいてもらいたい。

鶏も貴重

帰りに鶏がいた。とてもうれしかった。たぶん僕はとても気の小さい人間なのだと思う。これからも誰か人の気配のする場所のみで生きていきたい。

おれ、お前が好きだ。

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