【551 蓬莱】の豚まん。大阪では、老いも若きも、豚まんを手にするとなぜか高笑いが止まらないと言われるほど中毒的に愛されている。
しかし。おれは関西に移り住んで10年以上が経つ今もまだ、食べたことがない。モグリだと後ろ指をさされないためにも、そろそろ覚悟を決めてたしなんでおきたい。
有名だけど食べたことがないものを食べる
忙しく生きていると、つい同じものばかりを食べがちだと思う。
食べ慣れたものは愛おしいけれど、たまには未知に出会い口を驚かせたいものだ。思えば、長く生きてはいても案外「有名なのに食べたことがないもの」だってある。
そういうものを、ライターパリッコ、拙攻、そして編集部古賀の3人がそれぞれに食べてくることにしました。
記事は拙攻さんが551蓬莱の豚まんを選んだ経緯のあと、実食レポートに続きます!
有名だけどたべたことがないもの、とは
古賀:
というわけで、「有名で聞いたことがあるけど食べたことがなかったものを食べる」企画、お引き受けありがとうございます!
パリッコ・拙攻:
よろしくお願いします!
古賀:
問題はおのおの何を食べるかですよね。「有名で聞いたことがあるけど食べたことがなかったもの」って切り口がいろいろあるなと思ったんです。たとえば、ライター山田窓さんのこの名作記事
古賀:
これは、有名なチェーン店を取り上げたもので、食べたことがある人にとっては「自分にとっては当たり前のものを、はじめて食べる大人のフレッシュな興奮が読める」という面白さがある。
一方で、「食べたことがない人だっているよな」と当たり前のことにも気づかされるし、実際「私も食べたことない!」という人にとっては共感が得られる記事でもありました。
パリッコ:
なるほど~~。
古賀:
事前にお送りもしたんですが、
- 聞いたことあるメーカー、チェーン店
- 地方の名産、名物として有名だけど圏外住みで買えない
- 最近の流行でSNSなどでよく見るけれど未体験
あたりが考えられるのかなーなどと思ってました。
パリッコ:
僕も考えていたんですが、パスタってほとんど自ら進んで食べないので「有名な店のパスタ」ならもう、ほぼ100%食べてない自信あります。
拙攻:
「名店の〇〇を食べたことない」、というパターンですね。そういう切り口もありますね。
古賀:
確かに!
どうしたって「食べたことない」は個人的な話なので、結局は一番おのおのが胸ふるえるもの、にしましょうか。興奮ベースで。
パリッコ:
ですね! 拙攻さんはぱっと思いついたものありました?
関西に10年住むも、551蓬莱の豚まん未経験
拙攻:
今回お声がけいただいて、551(蓬莱)の豚まんを食べたことないなと思ったんですよ。
古賀:
拙攻さん、大阪在住なのに未経験とは。
拙攻:
そうなんです。地元は関西ではないものの関西に住んで10年たちます。ちょうどそろそろ食べておかねば! という位置づけの食べ物になっていたところなんです。お二人は食べたことありますか。
パリッコ:
近年関西に飲みに行くことが増えて、何年か前に初めて食べました。
古賀:
私も関東うまれ関東育ちにもかかわらず食べたことあるんですよね。憧れて、新幹線の構内の売店に並んで買いましたよ。
パリッコ:
あれ好きです。「むちゃくちゃうまい豚まん」ですよね。
古賀:
市販のやつと、中華街のガチ豚まんの良いところをとったみたいな感じですよね。
パリッコ:
551の話になると関西の友達が「シュウマイとかちまきもうまいんですよ」ってよく教えてくれて、で、食べて見るとそっちも確かにうまい。
551をあれこれこの際食べて分かっておく、というのはありかもですね。
拙攻:
古賀さんがジャンル分けしてくださった、「地方の名産、名物として有名だけど圏外住みで食べたことがない」に、圏内住みだけど該当したパターンですね。
京都の友達が「シウマイ弁当」を食べたことがないと言ってて
パリッコ:
ああ~、なるほど。友達の京都在住ライター、泡☆盛子さんが、崎陽軒のシウマイ弁当を食べたことないと言ってたのが衝撃で。このジャンルはみなさんいろいろありそうですね。
拙攻:
ああ~! 私は実家が横浜なので、「551未体験」の状況のレアさがいまわかった気がします。
古賀:
ドンピシャの例でしたね!
拙攻:
地元でない人でも情報を持っている食べ物を、満を持して食べる的な面白さはありますよね。
古賀:
いきなり決まった! ではでは拙攻さんには「551」を初体験していただきましょう。お願いします。いってらっしゃい~!
これまで我が家はずーっと「ないとき」
と、いうことであらためまして。大阪名物【551 蓬莱】の豚まんをご存じだろうか。関西では圧倒的なブランド力を誇る、「超」がつくほど有名な存在だ。だのにである。関西に移り住んでおよそ10年が経った今も、おれはまだ食べたことがない。
わたし関西人じゃないしなんのことやらという人もいるかもしれないけど、「551」の赤文字がプリントされた紙袋を新幹線の車内で見たことがあるという人はきっと多いはず。
テレビCMもご長寿シリーズ化されており、「あるとき〜!!」「ないとき〜…」のギャグは、関西圏ではもはや必須教養の一つだ。 最新作CMにはなんとあのKinKi Kidsが出演している。
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551を食べたことがないことを関西で告白すると、周囲のネイティブ関西人たちから驚かれる。驚くというか、あの反応は憐れみから来るものに近い。あー、このひとの人生ずっと「ないとき」なんやな…。
「まだ食べたことのないものを食べてきなさい」という今回の企画趣旨を聞いたときから、この機をおいてほかにないと思っていた。いまこそ551の豚まんだろう。
豚まん買うのも楽ではない
ちなみに551を食べたことがない確たる理由は無く、たまたま、これまでその機会に恵まれなかっただけのこと。まあ強いて理由を挙げるとすれば、そもそも551の豚まん(チルド)を手に入れるのはちょっとした仕事なのだ。まずはそのことを知ってもらいたい。
この通り551の販売店、実はめっちゃ並ぶ。撮影時、まだ午前中だというのに30人くらいは並んでいた。この日が異常なわけではなく、このあたりを通るたびに見かけるおなじみの光景だ。
自分の番がくるまでにどれほどの時間がかかるだろうか。さすがに1時間待つということはないだろう。30分か。あるいは45分か。
手持無沙汰で、改めて行列に並ぶひとを観察する。スーツケースなど大きな荷物を持っている人が多い。みんな今から、豚まんを手土産にもって郷里に帰るのだろう。
ローカル感があって見栄えがして、ブランド力があって万人受けする。実は、そういういい塩梅の土産が大阪には少ない。「大阪みやげ、京都の和菓子や神戸のおしゃれスイーツに逃げがち」というのは大阪人あるあるではないかと思う。551の豚まんは、大人数に配りにくいという難点はあるものの、かなりいい線いってる大阪みやげといえる。
かくいうおれも、実は自分では豚まんを食べたことがないくせに、土産として買ったことは何度かある。関東の親兄弟にも喜ばれるので、新幹線の待ち時間があるときに買うのだ。新大阪の売店だと、ここまで極端な大行列にはならないし。
店舗の壁に貼られたメニューを眺めるなどしながら、15分ほどが経過したころ。事件発生。行列の先の方で、恰幅のいい男性店員さんが何事か大声で説明している。
「…申し訳ありませんが!本日配送トラブルで豚まんは残り40箱で完売です!再入荷の目処はたっていません!」
なななな何だって!完売!?まだ11:30なんですけど~?
行列のライブ感
青線で示す行列は店舗を囲むようにぐるりと伸びている。列が折れ曲がっているので先頭は見通せないが、少なくともおれの前に20人くらい並んでいるはずだ。残り40箱では買える可能性はかなり「薄」に感じる。
だいたい、「売り切れそう」というアナウンスは店側が保険を掛けるためにやっているのだから、実際のところ状況はかなり厳しいのだろう。いさぎよく後日出直すか。もうすこしだけ粘ってみるか。決めかねているうち、追い討ちをかけるように今度はちゃきちゃきとした女性店員さんがアナウンスにやってくる。「エビシュウマイ、本日完売です!!!」
わずか3分の間に、2つの商品が売り切れの危機に瀕してしまった。サッカーW杯カタール大会 スペイン戦における日本代表のごとき、見事な二連撃。行列は完全に動揺に包まれ、浮足だった。一人の初老男性がするりと列を離れていった。
この様子を見ていたおれはというと、なんかもう逆に面白くなってきてしまった。
え、551の行列ってこんなにライブ感あるの?ただ並んで時間費やすだけじゃなく、こんなにヤキモキさせられるんだ?買えなかったら買えなかったでそれもオイシイので、どうあっても最後まで見届けてやろうと、このあたりで覚悟を決めた。
さらに10分後。行列は着実に前進し、おれは最終コーナーに差し掛かっていた。ここを越えればあとは最後の直線。注文窓口を視界に収める。そのとき再び女性店員が動き出した。
うわ、こまかく刻んで報告してくれるんだ!この店員さんは叫びながら右手で「2」、左手で「0」をジェスチャーして行列に向けて必死に情報を届けていたことも見逃せない。オペレーションがこなれているぞ。
そして11:48。ついに待望の声がかかる。
「先頭でお並びのお客様どうぞ!」
おれだ。おれのことだ!実にあぶないところであった!まだ豚まんはある。レジの店員さんは、こちらが注文を言い終えるかどうかのタイミングでスッと背を向け、ショーケースから残り少ない豚まんの貴重なひと箱を取り出し、光速の手さばきで袋に詰めてくれた。
普通のうまさを極めている
12:15。豚まんを手に入れたおれは、わき目も振らず最短距離で帰宅した。
人生初、我が家に「551のあるとき」である。さすがにCMのようにガハハと鷹揚に笑うほどではないが、ようこそおいでくださいましたという気持ちにはなる。外箱の指示通り、豚まんの上に濡らしたキッチンペーパーと、ラップをふんわりとかけ、レンジで2分。
…あ。これ。忌憚なき正直な感想ですけど。
これ普通の肉まんだ。めっちゃ普通。しかし”普通”のレベルがすごく高い。
よい肉まんと聞くと、勝手ながらフカヒレや海老など具材によるグレードアップを無意識に期待してしまうところがあった。無論、551の豚まんはそんなことはない。これはおれの知っている普通の肉まんだ。そして知っている食べ物の延長線上にありながら、歴然とうまい。パリッコさんのいう「むちゃくちゃうまい豚まん」は正鵠を射ていた。
こういうの、中華街にいけば珍しくもないけど、大阪の街中にたくさん店舗があって、気軽に買えるのはすごいことだなと思う。気軽にというのはもちろん行列がなければ、ということになるのだけど。裏を返せばそりゃあ行列はできるよなと納得のお味であった。
いやー、いいもの食ったなー。
有名だけど食べたことがないものを食べる
忙しく生きていると、つい同じものばかりを食べがちだと思う。
食べ慣れたものは愛おしいけれど、たまには未知に出会い口を驚かせたいものだ。思えば、長く生きてはいても案外「有名なのに食べたことがないもの」だってある。
そういうものを、ライターパリッコ、拙攻、そして編集部古賀の3人がそれぞれに食べてくることにしました。