幻のコーヒー、コピ・ルアック(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

コピ・ルアックというコーヒー豆がある。それはとても希少な豆で、年間の生産量はせいぜい200キロ程度。市場では500グラムで300ドルで取引されるともいう。何がそんなに希少なのかというと、その生産過程に特殊な条件があるのだ。

今回はそんな希少なコーヒー、コピ・ルアックを飲ませてくれるというカフェでお話を伺った。

2007年4月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

うんこ

コピ・ルアックは特殊な過程を経て生産される。何が特殊かというと、うんこだ。

うんことか公の場で書くの久しぶりでうれしい。だけどなにも書くことに困ってやけになっているわけではない。コピ・ルアックという豆は、ジャコウネコが排出した豆を集めて作られたコーヒーなのだ。

カフェの目の前は素敵な公園。

ジャコウネコは熟したコーヒーの実を好んで食べ、消化しきれなかった種を排出する。種はパーチメントと呼ばれる殻に包まれており実際にコーヒー豆として使うのはその殻を排除したものなので、豆が直接うんこに埋まって出てくるわけではない。

しかしパーチメントには微小な穴がいくつも開いていて、そこからジャコウネコの体内にある酵素等が行き来をする。その結果、内部にある豆にも特有の香りを残すのだという。こうしてできた豆こそがコピ・ルアックなのだ。

今回おじゃましたカフェ。素敵すぎ。

コピ・ルアックについて説明をしてくれたのがこのカフェのマネージャー川崎さん。ここまで一度もうんこという単語を使わずに説明するあたりが大人だ。笑顔がただものではない雰囲気を醸し出しているが、今は突っ込まずに先へ進む。

いい笑顔です。
これがコピ・ルアック。
焙煎時間毎の豆の様子がわかります。

まず最初に生豆の状態のコピ・ルアックの香りをかがせてもらった。ほんのり青臭さを感じる程度で期待していた(というか恐れていた)ほど強い匂いはない。他の種類の生豆も同様で、コーヒー豆は焙煎して初めてあのなじみ深いコーヒーの香りになるのだ。

今回は川崎さん直々に焙煎したコピ・ルアックを煎れていただけることになった。手際よく挽いた豆に少しだけお湯をかけると、豆は生き返ったようにもこもこと膨らんだ。それと同時に香ばしい香りが店内に漂う。

プロの技です。
いったん広告です

値段がつきません

このコーヒー、お店で出すとしたら一杯いくらくらいになるんでしょう。

「わかりません。」

これは高価すぎて現実的な換算ができないためなのかと思っていた。だけど話を聞くとどうもそうではないらしい。

「僕はそういう計算が苦手なんです。」

川崎さんはコーヒーが好きだが、それをお金に換える術には長けていないのだという。お店ではレジの使い方すらよくわかっていないと言っていた。

話ながらもパーフェクトな注ぎを見せる。

お金の計算に慣れていないのには理由がある。実は川崎さん、元々はコーヒー屋ではないのだ。

「やくざの映画を撮るために沖縄に来たんです」

そう、役者さんなのだ。もちろん今でも現役。あの笑顔は役者さんの笑顔だったのだ。納得。

抽出されたコピ・ルアック。

そしてコピ・ルアックだ。そもそもどうしてこんなマニアックな方法で豆を採取するのだろうか。

「インドネシアはかつてオランダの植民地だった時代がありまして、コーヒーの収穫量が確保できなかった農民がネコの糞に混ざっていた豆をしかたなく使ったのが始まりとも言われています」

当時は苦肉の策だったのだ。それが今では現地でもこの豆は珍重され、収穫業者は農村を周って必死で収穫しているのだという。時代が変わればうんこも金になるのだ。

川崎さんは役者さんでした。

川崎さんの話に吸い込まれているうちにコピ・ルアックが入った。芳醇な香りが漂ってくる。

いま芳醇な、とか使ったが実は僕はこのあたりの語彙にまったく自信がない。コーヒーを表現する語彙って難しい決まりがありそうじゃないか。下手に「芳醇ですね」とか言うと「いえこの豆は他と比べると芳醇とは言えないんです」とか言われて恥ずかしい思いをするんじゃないかと小さくなってしまう。実際、コピ・ルアックは他の豆に比べると特に香りに強い特徴があるわけではないらしい。

これが幻のコーヒー。

一口頂く。

……

恐る恐る頂く。

普通にうまい。たぶんこれは焙煎して挽いた直後の豆を上手に淹れているからだと思う。実際に豆の特徴よりも焙煎の技術によってコーヒーの味は大きく左右されるのだ。

貧弱な僕の語彙の範囲内で説明すると、香りも味もさほど「濃い」というわけではない。むしろあっさりしていて飲みやすい。強いコーヒーをブラックで飲むと胃の辺りに留まる感じがあるものだが、コピ・ルアックはそうではなく、すっと体に入っていくような、さっぱりとした後味だった。

最後までいい笑顔です。
取材協力:Café de Cantate

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