今から1年前、テクノロジー業界は、Appleから待望の拡張現実(AR)/仮想現実(VR)ヘッドセットがついに登場するのでは、とのうわさで持ちきりだった。発売されれば、2015年にリリースされた「Apple Watch」以来初となる、新たなカテゴリーを切り開く新製品になるとの期待がかかっていた。
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Appleから混合現実(MR)ヘッドセットが登場すれば、業界の今後に対する明確なサインを得られると考える人は多かった。Appleには業界のトレンドを作り出してきた実績がある。1998年の初代「iMac」でのフロッピーディスクドライブの廃止に始まり、「iPhone 14」に搭載され、ほかのスマートフォンメーカーの追従が伝えられる衛星経由の緊急SOS機能まで、数え上げればきりがない。同社は、スマートフォンやタブレットのようにもともとはニッチだった製品を主流に導いてきたことでよく知られている。
しかし同社はこの2022年、ヘッドセットを披露することはなかった。それどころか、こうしたヘッドセットの基礎となる、コンピューターの情報を現実世界に重ね合わせるAR技術についての言及すら、あまりなかった。
一方、この分野で先頭に躍り出ようとした競合企業の状況も、順風満帆とは言いがたい。Metaの最高経営責任者(CEO)Mark Zuckerberg氏は、ARに加え、コンピューターが生み出す世界にユーザーを没入させる技術であるVRを提供する、オフィス利用を想定したヘッドセット「Meta Quest Pro」(1499.99ドル、日本では22万6800円)を発表した。
Quest Proは10月に発売されたが、その評価には賛否が入り交じる。辛口の評価をする人たちは特に、価格の高さ、バッテリー駆動時間が2時間に限られる点、そして、最新機能を実際に活用したアプリがないことに不満を述べている。
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この端末をテストした米CNETのScott Stein記者は「Quest Proは半歩前進という印象だ」と述べた。FacebookがVRに傾倒し、Metaへと社名を変えてまで挑んだ1年目は、前途多難な予感を漂わせながら終わろうとしている。
Appleからヘッドセットが登場せず、MetaのQuest Proが前途多難な船出になったこともあり、次なる目玉プロダクトに飢えているテクノロジー業界にとって、2022年はやっかいな1年だった。テクノロジー企業はこの1年間、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンとそれによる中国での製造の遅れから、ロシアのウクライナに対する理由なき戦争が引き起こしたエネルギー価格の高騰、インフレ、そしてここに来て2023年の景気後退の懸念まで浮上し、次から次へとやって来る困難に悩まされてきた。
Creative StrategiesのアナリストCarolina Milanesi氏は、「数多くの予期せぬ事態が起き、テクノロジー業界はそれらへの対応を迫られた」と振り返る。
2022年、Apple製品に関する変更点のうち大きなものは、799ドル(同11万9800円)のiPhone 14に搭載された、衝突事故検出機能、「Apple Watch」の高耐久モデル「Apple Watch Ultra」、「AirPods」のノイズキャンセリング機能の向上など、新しい機能や特徴の追加が主だった。
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他の企業も2022年はAppleと同様か、さらに現実的な路線をとった。Googleは「Pixel 7」を発売したが、これを米CNETのLisa Eadiccio記者は、前年モデルから「ほんのわずかに良くなった」製品だと評している。Microsoftは、世界のPCの過半数で使われるソフトウェア「Windows 11」に磨きをかけて、検索機能を改善したほか、生産性ソフトウェア「Office 365」の「Microsoft 365」への改名などを実施した。Amazonは、クリスマスプレゼントにぴったりな49.99ドル(同5980円)の小型スピーカー「Echo Dot」について、Wi-Fiエクステンダーを追加したほか、低音と音響の向上などの改善を行った。
こうした改善は、好意的に受け入れられた一方で、業界ウォッチャーによると、未来に向けたトレンドには変化をもたらさなかったという。
Moor Insights & Strategyのアナリスト、Anshel Sag氏は、「進歩という面では失われた1年と呼びたくなるほどだ」と語った。
ほぼ期待はずれに終わった1年
Appleが複合現実(MR)の分野に参入しなかったことから、他の新規参入者が話題に上ることもほとんどなかった。
それだけではない。Zuckerberg氏は2021年にFacebookという社名をメタバース(metaverse)に由来するMetaに変更したが、このリブランディングはうまくいかなかった。同氏はこの社名変更を、未来のテクノロジーに賭ける自社の決意を示すものだと語ったが、すでに100億ドル(約1兆3200億円)をこのプロジェクトに注ぎ込んだ判断に対して、投資家の疑念は強まっている。Metaの株価は、2022年の1年間で70%近く下落した。
一方、Microsoftは6月、「HoloLens」の生みの親であるAlex Kipman氏が不適切な行動の告発を受けて退社する事態に直面した。また、ソニーは2023年に発売予定の「PlayStation VR 2」の価格が、549.99ドル(同7万4980円)になることを明らかにしている。これは「PlayStation 5」より少なくとも50ドル以上(同1万4502円)高い価格だ。
巻き返しへの道筋は
2023年には経済がさらに不安定になると予想されているため、Appleやライバル企業は新製品の計画をさらに遅らせる可能性が高いと、アナリストは言う。
だが、その影響は他の企業にも広がるだろう。この中には、David Barnard氏が決済企業RevenueCatのデベロッパーアドボケートとして関わる多くのスタートアップも含まれる。
「イノベーションは小規模な企業から生まれることが多い」とBernard氏は述べ、評価の高いAppleのチップ設計チームも、元をたどれば同社が2008年に買収したP.A. Semiというスタートアップに行き着くと指摘した(買収額は2億7800万ドル(当時のレートで約290億円)とされる)。「Appleが独自のカスタムチップを製造できなければ、今ヘッドセットを開発できるだろうか。おそらく無理だ」
2023年に向けて同氏が注目しているのは、開発者がどのような分野にエネルギーを注ぐのかということだ。結局のところ、「iPad」がGoogleの「Android」搭載タブレットと差別化できている要因はアプリであり、Apple Watchがライバルを引き離しているのも同じ理由だと同氏は話す。
「開発者の重要性を見くびってはならない」(Bernard氏)
提供:Angela Lang/CNET
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。