TP-Linkから、「スペシャル」なWi-Fi 6ルーター「Archer AX80」が登場した。これまでの同社のモデルとは、見た目も中身もひと味違う日本向けの特別仕様。縦置きも、アンテナ内蔵も、IPv6 IPoEも、セキュリティ機能も、VPNサーバーも、USBストレージ共有も、日本のユーザーが求める機能を詰め込んだ製品だ。その実力を検証してみた。
TP-Linkが本気になると……
グローバル企業が、日本市場という局地戦のために、ここまでやるのか?
今回、TP-Linkから登場した「Archer AX80」を見て、正直に思った感想だ。
AX80は、見た目からして、これまでの同社のイメージと異なるモデルだが、その中身がまた驚きで、リリースに「日本特別モデル」と銘打たれている通り、IPv6 IPoEなど、グローバルモデルでは必ずしも必要とは思えない機能まで、キッチリと作りこまれた意欲作となっている。
筆者もその一人だが、同社の製品に対して「これがあれば……」「こうだったら……」と、これまでいろいろ注文を付けてきた人は少なくないだろう。今回のArcher AX80は、こうした声をすべて飲み込んで形にしたような製品となっている。まるで「やってやんよ」という担当者の声が聞こえてきそうな製品と言えるだろう。
実は大変な縦横両置き対応やアンテナ内蔵
それでは、実機を見ていこう。
本製品で、もっとも特徴的なのはデザインだ。同社のArcherシリーズは、これまで縦置きも一部存在したが、基本的に横置きモデルが主流で、アンテナも外付けとなっていた。
外付けアンテナは電波の送受信の性能としては有利なため、同社としてはコストをかけてでも、こだわってきた部分ではあるが、設置スペースに限りがある日本の住宅環境を考えると、置きにくかったり、見た目を気にしたりするユーザーが多く、マーケティング的な意味合いで不利になるケースもあった。
それが、今回のArcher AX80は、日本市場に向けて、「あえて」アンテナ内蔵としている。これまで、外付けアンテナにこだわってきたメーカーなので、単に内蔵しただけでないことは想像できるが(実際の性能は後述)、これによりかなり見た目がスッキリとした。
そして、何より、縦置き、横置き、さらに壁掛けと、柔軟な設置方法に対応したことで、設置場所の制約がなくなった。これにより、さまざまなスタイルの住環境にマッチしやすい製品となった。
実は、この縦置き、横置きの両対応というのは、技術的に容易なことではない。
他メーカーの製品の取扱説明書などを見ると分かるが、一見、縦横どちらにでも置けそうな製品であっても、仕様的に縦か、横、どちらかでの設置にしか対応していない製品も多い。
これは主に放熱の問題だ。メーカーは、一定の設置方法で使用されることを想定して、内部の熱を逃がす設計をする。これが、縦でも、横でも設置OKとなると、とたんに設計が複雑になってしまう。我々ユーザーからすれば単に向きの問題にしか思えないが、設計的に、縦置き、横置き、両対応は設計の手間もコストもかかるわけだ。
アンテナ内蔵にしろ、縦横両置き対応にしろ、実は想像以上に複雑でコストがかかることで、「スッキリ置ける」なんて軽く済ませてはいけないことなのだ。
TP-Linkというと「コスパ」を思いうかべるユーザーが多いかもしれないが、本製品は価格の安さというよりも、作りこみの高さという新しい方向性で、コスパの高さが光る製品と言えるだろう。
きっちりIPv6 IPoE対応!
スペック的には、Wi-Fi 6対応となっており、2.4GHz帯が最大1148Mbps(4ストリーム)、5GHz帯が最大4804Mbps(4ストリーム、160MHz幅)となっている。
Archer AX80 | |
価格 | 1万8480円 |
CPU | 1.6GHzクアッドコア |
メモリ | 512MB |
Wi-Fiチップ(5GHz) | – |
対応規格 | IEEE802.11b/g/a/n/ac/ax |
バンド数 | 2 |
160MHz対応 | 〇 |
最大速度(2.4GHz) | 1148Mbps |
最大速度(5GHz) | 4804Mbps |
最大速度(6GHz) | – |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch |
チャネル(5GHz) | W52/W53/W56 |
チャネル(6GHz) | – |
ストリーム数(2.4GHz) | 4 |
ストリーム数(5GHz) | 4 |
ストリーム数(6GHz) | – |
アンテナ | 内蔵(4本) |
WPA3 | 〇 |
メッシュ | 〇 |
IPv6 | 〇 |
DS-Lite | 〇 |
MAP-E | 〇 |
WAN | 2.5Gbps(WAN/LAN)×1 |
LAN | 1Gbps×4(1ポートWAN/LAN) |
LAG | 〇 |
USB | USB3.0×1 |
セキュリティ | HomeShield |
VPNサーバー | OpenVPN/PPTP/L2TP |
動作モード | RT/AP |
ファームウェア自動更新 | 〇 |
LEDコントロール | 〇 |
本体サイズ(幅×奥行×高さ) | 200×189×59mm |
Wi-Fi 6Eの6GHzには対応していないが、国内ではスマートフォンの主流となるiPhoneも5GHz対応のままなので、実用上は問題ないだろう。
一方、有線は、2.5Gbps対応のWAN/LAN(切り替え)ポートを1つ搭載している。これにより、最近、利用者が増えてきた1Gbps以上の回線を活用したり、2.5Gbps対応のゲーミングPCやNASなどを接続したりして利用することが可能だ。
特筆すべきなのは、IPv6 IPoE対応だろう。
最近は、海外メーカー製品も対応が進みつつあるが、本製品ではv6プラス・OCNバーチャルコネクト・DS-Liteに対応しており、国内の大手回線事業者のIPv6 IPoEサービスでのIPv4対応(IPv4 over IPv6)を利用可能となっている。
IPv6 IPoE接続時はHomeShieldやVPN接続などの機能が利用できないのは、どのメーカーのWi-Fiルーターでも同様なので仕方がないが、「日本特別モデル」というだけあって、WAN側の接続環境も日本の多様な環境に合わせて仕上げている印象だ。
USB3.0とVPNサーバーでスモールオフィス利用も想定
このほか、付加的な機能も強力で、背面に搭載されたUSB3.0ポートを利用してUSBストレージをネットワークで共有したり、VPNサーバー機能を利用して外部から安全な接続を確立したりできるようになっている。
こうした機能は、家庭はもちろんだが、日本に多い個人商店や小規模オフィスなどに適した機能だ。NASを導入するまでもない環境でファイルを共有した共同作業を実現できるうえ、リモートワーク向けのVPN環境として活用できる。
簡易的な機能ではあるが、本格的なNASやVPN装置を導入するのに比べると、コストは数分の一、十数分の一に抑えられる。
しかも、ファイル共有に関しては、2.5GbpsでPCを接続すれば、シーケンシャルリードで170MB/sほどとなるため、1Gbps接続のNASより高速にファイル転送ができる。ユーザー管理など、厳密に管理する必要がなければ十分すぎる性能で、サイズの大きなファイルの転送も苦労しない。
純粋な自宅利用だけでなく、スモールビジネスでの利用も見据えている点も、いかにも日本特別モデルといった印象だ。
パフォーマンスも優秀
気になる性能だが、アンテナ内蔵のデメリットをほとんど感じさせない実力と言っていい。以下は、木造3階建ての筆者宅の1階にArcher AX80を設置し、各階でiPerf3による速度を計測した結果だ。サーバーを2.5Gbpsの有線LANで接続している。
1F | 2F | 3F入り口 | 3F窓際 | |
上り | 1600 | 854 | 630 | 203 |
下り | 1740 | 940 | 763 | 227 |
※サーバー CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、ストレージ:1TB NVMe SSD、LAN:Realtekオンボード2.5GBASE-T、OS:Windows 11 Pro
※クライアント Lenovo ThinkBook 13s(AMD RZ616)、Windows 11 Pro
1階は2.5Gbpsの有線で接続したことで、楽々1Gbpsオーバーを達成。実効1.7Gbpsなので、Wi-Fiが2402Mbps接続であることを考えても、かなりの好結果となっている。
また、床1枚隔てた2階で900Mbpsオーバーを実現できているので、ちょっとした遮蔽物程度なら1Gbpsの有線と同等の速度で通信可能だ。
さすがに遠くになると、速度の落ち込みは発生するが、3階のもっとも遠い場所で200Mbpsオーバーを実現できているので、実用上はまったく問題ない。
個人的には、もう少し、アンテナ内蔵のデメリットが出るかと予想していたが、この結果を見ると「もう全モデル、アンテナ内蔵でいいんじゃないの?」と思ってしまう。パフォーマンスもなかなか優秀な製品と言えそうだ。
もちろんメッシュやセキュリティ対策も
以上、TP-Linkから新たに登場した「Archer AX80」を実際に利用してみたが、TP-Linkの新しい側面が見えた製品と言えそうだ。実売価格以上のコストがかかっているという点でのコスパの高さが光る製品で、日本特別モデルという名にふさわしく、日本ユーザー向けの工夫が詰まっている。
本稿では詳しく触れなかったが、HomeShieldによるフィルタリングや保護者による制限、QoSも利用可能なうえ、同社独自のメッシュ規格「TP-Link OneMesh」に対応しているので、同じくOneMesh対応の中継機を組み合わせることで、メッシュを構成することもできる。
むしろ、搭載されていない機能を探す方が難しく、現状、Wi-Fiルーターでできることは、ほぼ網羅している全部入りの製品となっている。家庭やビジネスなど、どのような用途での利用にもおすすめできる製品だ。
(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)