ケイアイスター不動産グループ会社のロボット部が働き方を変えた理由

CNET Japan

 ケイアイスター不動産が、住宅販売に欠かせないモデルハウスの内覧に「ロボット部」という新たな試みを取り入れている。土日祝日の出動が多く、仕事も夕方以降に集中しがちな、モデルハウス接客の働き方改革にもつながったという、取り組み内容と仕事の変化を、ケイアイスター不動産の子会社であるカーザロボティクス 代表取締役の細谷竜一氏とロボット部の坂口麻美氏に聞いた。


モデルハウスで働くロボット「ミレルン」

営業とは別の専任チームを立ち上げ

――不動産会社にロボット部というのはあまり馴染みがないように感じますが、新設されたきっかけは。

細谷氏 元々、カーザロボティクスで「IKI(イキ)」という規格型平屋注文住宅を販売しており、その展示場に無人内覧とビデオ接客システムを導入したのがきっかけです。その前段階として、2019年に人のいないモデルハウスの実証実験にも取り組んでいました。

 一戸建てを購入するとなると、ファミリー層がメインと思われがちですが、IKIは平屋でコンパクトな戸建て住宅のため、シングルの人や高齢者、二人暮らしなど、通常の戸建て販売とは違う層のお客様にもリーチできる商品です。そのため、どんな人にも気軽に訪れてもらえるモデルハウスを作りたかった。そこで出てきたアイデアの1つが無人内覧だったのです。

 実際にはじめてみると、想像以上に評判がよく、モデルハウスにいる滞在時間が伸びたり、成約までの時間が短くなったりと思わぬ効果も出てきました。これを受け、IKIは無人内覧を取り入れ、自由に見ていただく形を採用しました。

――当初はどんな形で運用されていたのですか。

細谷氏 見学だけして帰られてしまうと商談まで結びつきませんので、リモート接客ツール「RURA(ルーラ)」を導入し、お客様と営業担当者がコミュニケーションできるような仕組みを整えていました。

 営業担当者が遠隔の接客も担当しており、モデルハウスにいかなくてもリモートで営業ができるツールとして活用してもらいました。ただ、始めてみてわかったのは、営業担当者は、お客様に会いたい気持ちがとても強いということ。

 来場は予約制にしていたので、予約時に無人内覧か営業担当者かを選べるようにしていたのですが、無人内覧を選んだお客様にも「お出迎えだけ」「ご挨拶だけ」といって、会おうとしてしまうんですね。仕事熱心で大変ありがたいのですが、これでは、気兼ねなく見られるという当初の目的からは遠ざかってしまいます。

 仕組みを導入しても現場が使ってくれないというのは、ある種、業界を問わずDXに共通の課題だと考えていて、いかにこの部分を乗り越え、浸透させていくかが、ポイントだなと。やり方はいろいろあるかと思いますが、私たちは専門チームを立ち上げて、そこに任せることにしました。


カーザロボティクス 代表取締役の細谷竜一氏

――その専門チームがロボット部なのですね。部署名もあまり不動産会社らしくない雰囲気ですね。

細谷氏 自動化、ロボット化することで、今までと違う発想で仕事をしてみようということで、少し思い切ったネーミングを採用しました(笑)。ただ、専門部署を立ち上げるにしても、人材はどうしようかと。そこで、ロボットを介してセールスできる人がいないかと会社に相談したら、営業所で店長も経験した坂口が育休明けでちょうど翌日に復帰すると聞き、急いで専門チームを立ち上げました。

――翌日とはかなり急ですね。坂口さんご自身はロボット部への配属を聞いたときどのように感じましたか。

坂口氏 率直にいうと不安でした。でも同時に新しいことに挑戦できるワクワク感もありました。私自身は営業所で対面でお客様に接していたので、ロボットを通して、さらに遠隔でとなると、どうなるんだろうと思っていたのですが、対面での営業は時間や場所に制約があり、家庭と営業職の両立は難しいだろうと思っていて、当初は営業職ではなく、事務職に復帰する予定でした。それがリモート接客になることで、どう変わるか、不安だけれどやってみたいと思いました。

――ロボット部の専任は坂口さんお1人なのですか。

坂口氏 リモート接客の専門チームとしては、私と業務委託のスタッフの方と2人が所属しています。業務はRURAやロボットを通しての無人内覧時の営業で、購入に向けてより具体的な商談をご希望のお客様は店舗の営業担当者につないだりする、いわゆるインサイドセールスの位置付けです。


ケイアイスター不動産 ロボット部の坂口麻美氏

――翌日復帰される坂口さんを起用されたり、スタッフ2人で部署を立ち上げたり、かなりスピード感のある取り組みですね。

細谷氏 カーザロボティクス自体も当初は10名程度のスタッフで立ち上げ、事業もIKIのみというスモールスタートで、体制としてはスタートアップに大変近いと思います。親会社であるケイアイスター不動産の資材調達や生産体制は受け継いでいますが、販売手法に関しては、全く別の棲み分けで、マーケティングについても思い切りDXに振って、好きなことに取り組もうと考えています。

 私自身、異業種から不動産業界に転職してきたので、業界の常識がわかっていないというのが大きいのかもしれませんが、出てきたアイデアはできるだけ取り組みたいなと思っていて、ただ、その時に小さく始めて、3カ月、半年といった短いスパンで成果を見るようにしています。そして、続けられそうであれば続けるし、別の方法が良ければやめる。この繰り返しが定着していますね。

 組織自体も、私のプレゼン先は塙(ケイアイスター不動産 代表取締役の塙圭二氏)になるので、交渉する相手が少ない。この辺りの動きやすさが事業のスピードにつながっていると思います。

ロボット部発足はインサイドセールス立ち上げが原点

――ロボット部の構想から立ち上げまではどのくらいの期間だったのですか。

細谷氏 元々インサイドセールスを立ち上げようと考えていて、それが、2021年の年頭くらいでした。その時は単純にモデルハウスに訪れてくれる来場者に対し、対応する手が足りないという発想で、現場からも人手が欲しいという声があがっていたんですね。

 ただ、インサイドセールスというのは、一般的にBtoBで多用されている手法で、私たちのような不動産販売には向かないのではないかと。その時に住宅の購入というのは周りの人に相談して、意思決定していくものであるし、購入するまでのプロセスが必ずある。そういう意味ではBtoBの手法が使えるはず。その過程でナーチャリング(顧客育成)を取り入れるような形でやるのはどうだという話があり、その形を目指そうという話になりました。2021年の3~5月でこの方向で進めていたので、半年程度の期間で作り上げています。

――実際にはじめてみていかがでしたか。

坂口氏 同時期にテレビ番組でIKIをとりあげていただいたこともあり、来場の問い合わせが一気に増えたんです。ボリューム的に、店舗の人員による対面接客ですべてのお客様に対応するのは不可能でした。ロボット部がしっかりと時間をつくり、お客様にアクションを起こすことができました。

 具体的には資料請求等も含めて500件以上の問い合わせをいただいていたのですが、まずロボット部が、窓口となって、そこから対面の接客につなげるようにしました。この手法が大変効率的で、とてもよかったと思っています。慣れない業務の中で、たくさんのお客様に対応し、本当に大変だったのですが、開始1カ月で多くのノウハウを貯めることができました。これにより「接客時になにか見せられる資料等のツールを用意したほうがいい」「トークスクリプリトでは足りていなかった情報を追加する」など、早急に改善できました。

――対面での接客とロボット接客で一番違うと感じるのは。

坂口氏 数ですね。通常の接客では、1日多くても3組対応するのが精一杯なのですが、リモートでは10組の対応も可能です。お客様とお話ししていて、感じるのは本音を言いやすいということ。対面での接客は、営業担当者がお客様と一緒に室内を見ることで、すぐに疑問にお答えできますし、アピールポイントなどもお伝えできますが、その反面、ご家族やご夫婦でお越しになったお客様同士の会話がしづらくなってしまうんです。

 ロボット接客であれば、ご説明後すぐにわたしたちは「消える」ことができるので、その間にお客様同士で会話をして、お互いの印象を確かめられる。その点が大きな違いに感じます。

細谷氏 モデルハウス内で、家族のやりとりが完結できるんですね。通常は帰宅してから思い出しながら会話するのですが、それをその場で済ませられる。その分、意思決定が早いんです。

 IKIにはモデルハウス自体にも仕掛けがあって、駅に近い住宅展示場ではなく、住宅街の中にIKIを1軒だけ設置していることが多いんです。これはお客様に建てていただくIKIそのもので、イメージと実物が違うということはない。そのためモデルハウスも最終的には販売しています。決めるのは、部屋数と玄関の方角くらい。その分、選ぶスピードも早い。商品コンセプトとリモート接客という手法がすごくはまっていると思います。

営業担当の属人化をなくしていきたい

――メリットの多いロボット内覧ですが、デメリットに感じる部分はありますか。

坂口氏 通信環境によって音声が聞き取りづらいなどはありますね。加えて、PCなどになれていない方だと、対面を求められるケースもあります。その場合は営業担当者が出向くので、それほど大きなデメリットとは感じていません。

 ただ、遠隔地の営業も担当しますので、土地勘がない分、周辺の雰囲気や近くの店舗の情報など、地域性のあるお話がしづらいと感じることがあります。そのあたりは適材適所なのかなと。

――アバターではなく、AIという選択肢もあったように感じますが。

細谷氏 もちろんAIやチャットボットのような形も検討しましたが、定形のQ&A止まりといった印象でした。家の購入は、収入や資産状況など、お客様のかなりプライベートに踏みこみますし、お客様の層も幅広い。そう考えるとアバターでの接客がベストと判断しました。

坂口氏 2021年は初回の接客を担当するのがメインだったのですが、2022年に入ってからは試験的に2回目、3回目の商談も担当するようにしています。モデルハウスに訪れた初回は、お客様も家がほしいというワクワクした気持ちが強いと思うのですが、そこで対面の営業担当者に引き継ぐと、そのワクワクした気持ちが途切れてしまうことがあります。2回目、3回目は予算や住宅ローンなど、現実的なお話をするケースが多いのですが、そうしたリモート接客での限界値まで取り組んでいこうと思っています。

――短期間でロボット部導入の成果を出されていらっしゃいますね。

細谷氏 内心はこのやり方で売れなくなったらどうしようという恐怖心もあったんです(笑)。ただ、私自身は営業経験もないので、いい意味でその部分をあまり気にせずにできたのもよかったのだと思います。

 リアルなモデルハウスを活用しつつ、リモートで接客ができる。この方法は今後もさらに広げていけると考えていますし、販売管理費や人件費を抑え、無店舗でも家が売れる事が証明できたのではないでしょうか。

 もちろんIKIという規格型注文住宅だからこそ、リモート接客という形がはまったこともありますが、ほかの不動産会社とは、すこし別の視点からの営業のアプローチも必要かなと。今の営業スタイルは、営業担当者の顔が見えたり、SNSなどで情報を発信したりして、営業担当者を知り、好きになっていただくスタイルが増えていますよね。もちろんそこは重要ですが、私たちは、人よりもまずIKIという建物を好きになって購入してもらいたいと考えています。

 先程、坂口から2回目、3回目の接客にも踏み込んでいるという話しがありましたが、最終的には店舗の営業担当者に引き継ぐので、ロボット接客を担当する坂口とお客様の関係が濃すぎると、引き継いだときに違和感を感じやすいのです。それだと店舗での営業がやりにくくなってしまうので、フラットなお付き合いになるようにしています。最初の段階は脱属人化していきたいと考えています。


遠隔操作による接客

――実際にリモート接客を担当される上で大事にしていることはなんでしょう。

坂口氏 属人的になってはいけないと気持ちは強いです。大切にしなければいけないのはIKIという家、カーザロボティクスという会社を好きになってもらうこと。そこを意識して接客しています。家を気に入っていただけなければ契約には至りません。

細谷氏 家は住んでみなければ結局わからないことも多いですよね。だからこそ、購入段階では営業担当者を信用して、「この人が言うのであれば大丈夫」と感じて契約に至る。これはある意味リスクがあります。人ではなく家を気に入ってもらえればそのリスクは減らせると考えています。

――今後の取り組みについて教えてください。

坂口氏 個人的な希望なのですが、今の仕事をシステム化してより効率的にできるようにしたいと思っています。ただ、システムを導入するには金銭的な負担が大きいので、そこは自作というか、今あるものを使ってうまく作れないかなと思っています。将来的にはその部分の外販などにも取り組んでいけたらいいなと。

細谷氏 ロボット部が取り組むインサイドセールスと店舗に引き継いだあとの流れをスムーズにしていきたいです。よく聞くのは、インサイドセールスがホットだと感じたお客様を店舗に引き継いだのにうまくいかなかったという話し。これはある意味インサイドセールスにおける永遠のテーマかなとも思っているのですが、この部分を一気通貫で追えるように可視化できれば、そのギャップを埋められます。そういう意味でも、システムの導入は効果的だと思うので、この部分に投資もしていきたいです。

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