Adobeは、10月18日(以下米国時間、日本時間10月19日未明)から、米国カリフォルニア州ロサンゼルス市にあるLACC(Los Angeles Convention Center)において、同社のクリエイター向けサブスクリプション型ツール「Creative Cloud」に関する年次イベントとなる「Adobe MAX」を開催している。
10月19日夕刻からは、Adobe MAXで最も人気があるイベント「Sneaks」が行なわれ、研究開発部門の社員が出したアイデアをもとに開発中のアプリケーションやサービスなどが公開された。このSneaksからは過去に、Photoshopの「被写体を選択」「コンテンツに応じた塗りつぶし」や、Premiere Proの「オートリフレーム」などの機能が卒業して実際の製品に採用されるなど、将来的に実装の可能性のある機能が紹介されるとあって人気のイベントとなっている。今回もそうした10の新機能が紹介された。
今年のSneaksでは、写真には写っていない部分を自動で生成する機能、切り抜いた物体をほかの写真に合成する時に、サイズや影などを自動で計算/調整してくれる機能、さらには動画にロゴなどを入れたい時に、動いている人やモノに合わせてAIがそのロゴも移動させることで、短時間で編集できる機能などが紹介された。
Adobe MAXで最も人気があるSneaksは「未来のCCに採用される技術のお披露目会」
19日17時30分から開催のSneaksに先だって行なわれた記者説明会の中で、Adobe 研究責任者 ギャビン・ミラー氏は「SneaksはAdobeの研究開発部門の社員がアイデアを出し、それが競争して勝ち残ったアイデアだけが、発表される場になる」と、Sneaksについて説明した。
実際、このSneaksで紹介された機能には、後にCreative Cloud(CC)のアプリケーションへ搭載されたものもある。たとえば、Photoshopに実装された「被写体を選択」(人物や物体の領域をAIを利用して自動で選択する機能)、「コンテンツに応じた塗りつぶし」(AIを利用して不要な背景などを簡単に指定し素早く取り除く機能)、Premiere Proに搭載された「オートリフレーム」(AIがコンテンツを解析し、対象の人物などが動画の中心に来るようにフレームを自動調整する機能)といった、今では欠かせない機能たちも、Sneaksで最初に紹介され、後にCreative Cloudに採用された。
そのため、参加者のほとんどがCreative CloudのユーザーであるAdobe MAXでは、このSneaksは大人気のイベントになっているのだ。また、会場の入り口でビールがもらえて、お酒を飲みながらお気に入りの機能には声援を送り、ちょっとだめそうなやつにはみんな黙ることで賛否を明らかにできる、というのも隠れた人気の理由の1つだ。
今年は米国の俳優でありお笑い芸人であるケビン・ハート氏がコメンテーターとして呼ばれ、会場に詰めかけた聴衆を大いに盛り上げた。
①Clever Composites
Clever Compositesは、合成写真を作る時に、切り抜いた被写体を置くと、AIが自動でスケールを合わせたり、陰を自動で計算して作ってくれる機能。たとえば、自動車の写真を道に置くと、道の幅と自動車の大きさを自動で計算し、自動車の大きさを道幅に合わせて自動で調整する。
また、ライティングの調整も可能で、ボタンを押すだけで自動で明るさの調整も行なってくれる。たとえば、画像に月を挿入するときには、自動で周囲の明るさと合わせた明るさに調整して合成してくれる。
将来この機能がPhotoshopに搭載されれば合成がより簡単になるため、期待したいところだ。
②InstantAdd
InstantAddは、動画として動いている人間にロゴを貼ると、動画を解析して、人間の動きに合わせて自動で伸縮してくれる機能。背景に文字を貼ると、それも動画の動きに合わせて自動で固定して表示してくれる。また、ブラシで書いた図も自動でベクターのイラストに変換してくれる。
Premiere ProやAfter Effectsなどに搭載されると、今まではフレームごとの調整など、かなり面倒だった動画への合成作業を自動で、かつ短時間で行なえるようになり、YouTuberの動画作成もかなりはかどりそうだ。
③Project MagneticType
Project MagneticTypeは、フォントに何かをマージしたい時に便利な機能。たとえば、尻尾を文字列にマグネットのようにくっつけると、テキストのフォントと色などを自動で調整して違和感ないようにしてくれる。
また、完成した文字列は全体で大きさを変えたりといった調整も可能。Photoshopなどで文字列を追加して、かつ自分でカスタマイズしたいけど、時間はそんなにかけたくないという時に便利だ。
④Project VectorEdge
Project VectorEdgeは、3Dコンテンツの作成ツール(AdobeだとSubstance 3D)向けの新機能。これまで3Dで表現されている箱にロゴを貼るときには、X/Y/Zの位置を違和感がないようにデザイナーが自分で調整する必要があった。このProjectVectorEdgeを利用すると、その箱の形状などをツール側が自動で認識して、3Dの物体に合わせた角度にロゴシールなどを貼ってくれる。
たとえば、箱の角に貼ろうとすると、3面にロゴが折れ曲がって表示されるが、そうした作業はツール側がAIを利用して自動で計算して貼ってくるので、短時間で作業を終えることができる。
⑤Project MotionMix
Project MotionMixは、元になる写真に対して、動きのテンプレートを適用することで、写真の中の物体や人間をそれと同じように動かすことができる。たとえば、ダンスをするテンプレートを適用すると、自動でダンスさせることができるし、そこにはない物体や人間を追加して、同じように動かすことができる。ちょっとしたアニメ風の簡単に映像を作りたいというニーズに便利そうだ。
⑥Project Blink
Project Blinkは、動画内のデータをAIが解析して文字起こしを行ない、登場人物やキーワードなどをリストアップして動画編集をしやすくする機能。たとえば、1時間の動画をすべてを見直してから編集しようとすると、見る時間の1時間に、さらに編集する時間が加わるので、全体としては膨大な時間がかかってしまう。そこでProjectBlinkでは、この見直し作業をAIの力で支援する。
Premiere Proなどにこの機能が実装されると、編集にかかる時間を短縮することができるので、編集者の生産性を大きく向上できる。
⑦ArtisticScenes
ArtisticScenesは、写真から3Dシーンを作ることができる機能。そうして作り出した3Dシーンはアーティスティックに風味を変えたりできる。人物だけでなく、物体(デモではお城の写真からお城の3Dモデルを作成していた)を3Dモデルにすることもできていた。
⑧Project All of Me
Project All of Meは、Generate AIと呼ばれる写真から写っていない部分を作り出すAIによる機能。今回は上下が見切れている女性の写真から、写っていない足やスカートの先などを作り出したり、逆にかばんをシングルクリックで消すなどのデモが行なわれた。
AIが写っている部分を判別して、そこから類推される写っていない部分を作り出す。白黒の写真に色をつけるAIの機能が有名だが、それを写っていない部分にも拡大したような機能と言える。
Photoshopにこうした機能が実装されれば、たとえば、バストアップの写真から下半身を作り出したりという使い方が可能になる。
⑨Project BeyondtheSeen
Project BeyondtheSeenは、AIが写真からVRデータを作り出す機能。生成したVRデータでは、オブジェクトの表面に模様を貼ったりすることも可能になる。
⑩Project MadeInTheShade
Project MadeInTheShadeは、写真の中に物体を置いた時に影を自動で作成してくれる。かつ、その影はユーザーが物体を動かすとリアルタイムで再計算され、動く物体に合わせて影もリアルタイムに移動する。また、光源を動かすことも可能で、太陽の位置を変えたイメージを作り出すこともできる。さらに、写真には写っていない物体の影を作り出すことも可能で、その影だけを動かして動画のようにすることも可能。
Photoshopなどに適用されると、写真内の被写体を移動させても、影の位置が自動で動くので、写真としておかしなことにならずに物体を動かせる。
こうしたSneaksで紹介された機能は、いきなり明日Creative Cloudツールに搭載されるという訳ではないが、数年の単位で見ると搭載される可能性を秘めている。
個人的には「Project All of Me」が便利そうで、構図を失敗した写真でも、もっと広い部分をAIに作ってもらってごまかすといったことが可能だなと感じた。もっとも、それが写真と言えるのかどうかは別の議論だとは思うのだが、それはそれとして十分にありだと感じた。
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