インドスタイル!素焼きのカップを叩き割れるチャイ屋さんが京都にある

デイリーポータルZ

インドの路上では、素焼きのカップでチャイを飲んで、飲み終わったらそのカップを叩き割るという習慣があるらしい。

そこまでは知識として知っていたが、それを日本で再現しているお店があるのだ。

しかも京都に!

「すごいチャイ屋さん」のウワサ

インドでは、素焼きのカップでチャイを飲んで、飲み終わったらそのカップを叩き割るという習慣があるらしい。

なんでかよくわからないけど、インドに旅行したことのある知人友人が口を揃えてそう言っている。

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インドには露店や屋台のチャイ屋さんがたくさんあって、素焼きのカップが使われている(写真は友人提供)

へえーと思っていたところ、それを日本で再現しているお店があるというウワサを聞いて驚いた。

本当に叩き割っていいのか、素焼きのカップはどうやって用意しているのか、失礼ながら、採算とれるのか……。

いろいろ疑問を浮かべて過ごしていたところ、夏の音楽イベントに出店しているのに遭遇した。

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これが素焼きのカップ! 釉薬(ゆうやく)を使っていないのでザラザラな手触り。思いっきり握ると割れるくらいの強度だ
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おいしいチャイを飲んだら、叩き割る!

箱に叩きつけると、カップはガシュッと低い音をたてて砕ける。普段は湯呑やグラスを割らないように気をつけて生活しているので、いざ割ろうと思っても抵抗があったが、割ってみるとめっちゃ気持ちいい!

しかし、素焼きといえど陶器のカップを、どうして割ってしまうんだろう。いろいろと疑問は尽きないので、直接話を聞きに行ってみます。

京都・宇治のチャイ店、Watte chai

イベントで出会ってから心を奪われていたこちらのお店、名前はWatte chai(ワッテチャイ)という。イベント専門ではなく、京都・宇治に店舗があるのだ。いくつかのお茶屋さんを横目に商店街を進むと、割れたカップの入った大鍋が出迎えてくれた。

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スタンド形式のお店
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迫力がすごい
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ショップカードには「創造と破壊のチャイ屋」とある

到着したらすぐ、熱いチャイを注文します。ちなみに、ひとつひとつ形のちがう素焼きのカップは、好きなものを選べる。たくさん量が入りそうなのもよし、形がカッコいいものもよし。その日の気分に合わせて選ぼう(あとで割るけど)。

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「じゃあ、カップ選んでー」と、店主の石原さん。気に入ったカップを選べるのだ
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わたしが選んだのはこちら!アチアチ言いながら持ってます
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素焼きカップ付きで400円。熱くて甘くてスパイシー、おいしーい。

さっきまでお鍋のなかでグツグツしていた、アツアツのチャイ。この日も気温は30度を超えていたけど、熱くてドロッと甘いチャイを飲むと、不思議と落ち着く。スパイスも効いていてガツンとしたインパクトがあるけど、ちょっとずつ口に含んでいくと、だんだんと気持ちが静かになってくる感じ。

ゆっくり飲んでいるあいだにも、周りのお客さんがカップを叩き割ったりしていて、なんだか景気がいい雰囲気だ。

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「意外と割れないねー!」
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「ガシャーン!」「おおーーっ」
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インドでは「ポイ捨て」してる

お客さんがカップを叩き割っているのを見て、この日持ってきた疑問のひとつを思い出した。

そもそもインドでは、なぜカップを割ってしまうのか? 店主の石原さんに聞いてみる。

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店主の石原さん。顔出しはNGとのことでしたが、スパイスと紅茶を煮出しながら答えてくれました

ーーそもそもインドでは、なんでカップを割っちゃうんですか?

「割ってるというか、そのへんに捨ててるねん。道路とかに。最近はインドでも、うちみたいに箱を置いてるとこもあるけど」

ーーポイ捨てだったんですね!

「そうそう。他人が口をつけたものを使うのは、穢らわしいことって思われてるから、使い捨ての文化がある。それに、昔からのカースト制度のなかには、焼き物ばっかり作る職人たちもいる。その人たちがいる限り、素焼きのカップはつくられ続けるねん」

ーーなるほど。いろいろ理由があるんだ。

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これ全部捨てられるのか!(写真はインドのチャイ店、友人提供)

「インドのおっちゃんと話してると、素焼きじゃないと飲んだ気しない!っていう人もおるな。ガラスとかプラスチックのコップでも飲んでるから、ほんまかなと思うんやけど(笑)でも、今チャイ飲んでる!っていう気分には、たしかになるかも。」

インドのおじさんの話、わかる! カフェでチャイを頼むとティーカップで提供されたりするけど、それに比べるて素焼きカップで飲むのは、だいぶ「飲んだ気」がする。

たとえばビールを飲むときも、缶とグラスではかなり違う気分だし、飲み物を飲むときの口当たりってかなり重要なんだな。

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飲みごたえを感じるのは器も関係しているんだなー。

インドの職人は1日に3000個のカップを作る

インドのチャイ屋さんでは、そんな素焼きのカップで提供されるのがポピュラー。

グラスやプラカップで出している店もあるものの、石原さんがカルカッタ市内で1km圏内のお店を調べたときは、29軒あったお店のすべてが素焼きのカップを使っていたのだとか。しかも、全ての店がそれぞれ別々の職人から仕入れているらしい。

お店には、インドから持ち帰ったというカップもある。

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大きさや色も全部ちがう! 左前の黒いカップは「ビンテージ」らしい
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ウラもかわいいー。
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「これは青森でゲットした、縄文時代のやつ」。まじですか??

ーーどれも形がちがう! 模様がついてるのもあるんですね。 これも使い捨てしちゃうのか。

「色つけてるやつとか、もっと精巧なやつもあったなあ。(割ってしまうのに)なんのためにここまでするんやろ、って思うくらい」

ーーこのカップもお店で出しているんですか?

「店舗では出してないけど、イベントでは、たまに出してるかな。出したらすぐ売れちゃうことも多いなー」

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実はわたしも、イベント出店で「ビンテージ」を選んだことがあります

ーーどれも底が「ギュッ」てなってるのがカワイイですね。

「それは『手びねり』の跡やな。職人が手で作ってるから」

ーーそうか、手作りだから、指の跡なんですね!

「そうそう。職人は1日3000個くらい作ってたなー。うちらも作るけど、1日200個くらいが限界かなあ」

1日に3000個! 途方もない数字すぎて想像できないけど、1分間に8個作れたら、6時間と少しで到達するらしい……けど、そんなこと可能なのか。石原さんによれば、職人の動きは「ギョーザを包んでるみたい」とのことだが、王将の店員が1日に焼く餃子より多そうだ。

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この「ギュッ」を1日3000個!
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ギュッ、途方もない、ギュッ
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お店のカップは自分で焼いている!

ーーさっき「自分たちは1日200個」とおっしゃっていましたが、お店のカップはご自身で作っているんですか?

「うん。妻と陶芸家の友達が形を作って、焼くのは僕の担当。まあ焼くってよりは蒸してる感じやなー。山に作った窯で、1回あたり24時間くらいかけて焼く。」

うおーっ、なんとなく想像はしていたけど、やっぱりカップは自分で焼いていたのか! まさに「創造と破壊のチャイ屋」である。

「破壊」されたカップの破片も、粉々に砕いて土に練り込み、次のカップとして生まれ変わっているそう。循環しているのだ!

一度に500個ほど焼くらしい

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なにかが召喚されそうな炎(写真はお店のFacebookページより)
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お店に並んだカップたちも、この炎から生まれてきた!

10年前から変わらないコンセプト

インドのチャイ屋さんを日本で再現しているWatte chai。店舗をスタートさせたのは2年と少し前の2020年5月だが、それまでにも、イベントへの出店を中心に活動していたらしい。

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2杯目のチャイをいただきながらお聞きしています。割らずに返却するリユースカップで飲む場合は200円。
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ツルツルした釉薬が手に馴染んで気持ちいい。もう一度いいますが、こちらは割っちゃダメなやつです!

ーーイベントの出店は、いつから行っていたんでしょうか?

「来年で10周年やから、けっこう長くやってるよ」

ーー10年もされてたんですね! どんなキッカケで始められたんですか。

「チャイが好きで、よく家でチャイつくってたんやけど。たまたま陶芸家の友達が遊びに来たときに『こういうコンセプトでチャイ屋さんやったらおもろいよなー』って話したら『じゃあカップ作ったろか?』って。それで頼むことになった。」

ーーすごい!

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最初からこのスタイルだったのか!

「いちばん最初に和歌山のイベントに出店したときは、カップも当日の朝に初めて届いて、ぶっつけ本番で一発だけのノリと思ってた。そのあと、京都でイベントやってる友達にも声をかけられて出店したら、行列ができたりして、それがめっちゃ楽しかった。これは続けられると思ったな。そこからはもう、どんどん声かけられるようになった」

ーートントン拍子だ! 最初から、素焼きの器とセットだったんですね。

「もちろん! じゃないと意味ないからなー。」

数年前から「すごいチャイ屋さんがいる」というウワサは聞いていたけど、10年も前からやっていたとは! そしてそのスタイルは、最初からほとんど変わっていない。

それにしても、変わったアイデアを伝えたとき、すぐにノッてきてくれる友達がいるって最高なことだ。

だいたいそういうときって、普通の人に伝えたら「発想は面白いけど…」みたいなことを言われて、シュンとしてしまう。そうじゃなくて「いいやん!」「やろうや!」と盛り上がってくれる友達を大切にしたい。

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友達が思いついた最高のアイデアは、とにかく応援しよう

「チャイ屋さん」がおもしろくてやってる

10代の頃から何度もインドを旅してきたという石原さん。最後に、インドでチャイ屋さんに感じたという魅力を聞いた。

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わたしはチャイを3杯飲み終えて、ワインに移行しています。味は「びっくりするくらい、うまくもマズくもない(石原さん・談)」が、飲みやすいワインで、お向かいのピザ屋さんも飲みにくるそうな。

ーーインドのチャイ屋さんでは、どこに惹かれたんでしょうか?

「インドに行くと、ボケーッとチャイ飲みながら座ってる時間がある。うるさくて、ほこりまみれで、汗だらだらやったけど、これ悪くないやん?っていう時間。日本に帰ってからも、いつも思い出すねん」

たしかに、Watte chaiでチャイをいただくときにも感じる。ホッとするというか。

わたしはインドに行ったことがないので同じかどうかはわからないけど、熱いチャイを手にしていると、とりあえず立ち止まることになる。これがとても落ち着くように思うのだ。あんまりスマホを見たり、他のことをしようと思わないのがいいのかもしれない。

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熱いチャイでボーッとしよう

「ウチは、チャイ屋がおもしろくてやってる。もちろんチャイ自体も好きなんやけど、チャイ屋さんっていう存在が好きなんやわ。インドのチャイ屋は、なんか周りがガヤガヤしてたり、シビアな話してたりしても、関係ない顔してカチャカチャいわせながらチャイ淹れてる。そんな存在がおもろいなって。」

「素焼きのカップを使ってることも、みんないろいろ意味を考えてくれるけど、それは自由に解釈してくださいって思ってる。それこそSDGsとかもいろいろあるけど、単に『プラスチックとかガラスの器で飲むよりカッコいいやん』って感じやわ。」

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「色々聞いてもらっといて悪いんやけど、あんまりチャイ屋に語らせんといて! 適当な存在やねんから」

ハッ、まさに今、いろいろ意味を見つけようとしてしまってスミマセン! でも、「素焼きで飲むほうがカッコいい」っていう理由もカッコいい。

なにかと意味を求めてしまいがちだけど、なにかをやるときの理由は「こっちの方がおもしろいから、かっこいいから」でもいい。人生に稟議書はいらないのだ。

そういえば、わたし自身も「なんか楽しそうだから」と思ってライターをやっているんだった。チャイを飲んで思い出しました!

旅した気分になれるチャイスタンド

熱くて甘いチャイをゆっくり飲んで、素焼きのカップをガシャーンと割って帰る。これは何度やっても、なにか不思議な心地よさがある。

ひとつ物事を終わらせたというか、行動に区切りをつけている感じがいいのかな。

近所のイベントで出会っても、お店にお邪魔しても、なんだか旅の途中みたいな気分になるお店です!

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夏季にはコールドチャイも販売していますが、まずは熱いチャイがおすすめ。ラム酒を入れたラムチャイもおいしいよー
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テイクアウトは昔なつかしの「茶」ボトルでどうぞ!

<取材協力>
Watte chai(ワッテチャイ)
京都府宇治市宇治妙楽41 大阪屋マーケット
営業時間:月火木金(10:00~15:00) 土(10:00~17:00)
定休日:水、日
instagram @wattechai_kyoto 店舗 / @wattechai_tabi 旅・出店

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