日本品種の高級いちごが大ヒット オイシーがホールフーズでの販売に向け量産体制を強化

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

日本人CEOが経営するニューヨーク発の植物工場スタートアップ、オイシーファーム(Oishii Farm)が展開する日本品種の50ドル(約6950円)の高級いちご「おまかせベリー」がホールフーズ(Whole Foods)の棚に並ぼうとしている。

2018年にレストランのメニューとして操業を開始して以来、同社のいちごは甘くてクリーミーな食感と、強く濃密な果実の香りで知られるようになった。また同社は、インスタグラムやTikTokなどのプラットフォームで、シェフ、フードブロガー、ソーシャルメディアインフルエンサーのあいだでカルト的な人気を得るようになった。これまで同社の商品は、家庭用として、自社ウェブサイトと一部の地元の専門店だけで販売されてきた。

しかし同社は6月、ホールフーズと提携して、はじめて大手食料品店での販売に乗り出すことを発表した。食料品店チェーンであるホールフーズは現在、オイシーのベリーを、ニューヨーク市にある4つのホールフーズ店舗と、ニュージャージーの1つの店舗で、同社のLocal(ローカル)プログラムの一環として販売することになった。小売への展開としてはやや小規模だが、そのためにはいちごの生産量を大幅に増やす必要があった。

オイシーは創設された当初、ニュージャージーの小さな商用施設で操業していた。その後、2021年3月に5000万ドル(約69億5000万円)のラウンドを終了してから、ニュージャージー州ジャージーシティに、以前の拠点の100倍の広さである7万4000平方フィート(約6870平方メートル)の事業所を開設し、ようやく小売配送に対応できるようになった。今後は数カ月のうちに数十の新しい店舗での小売展開を計画している。長期的に同社は、全米の小売店をサポートできるだけの幅広い垂直統合型流通を実現したいと考えている。

地元産の農産物を現地でスケールアップする

オイシーの共同創設者でCEOを務める古賀大貴氏は、同社チームが当初から新鮮な農産物をできるだけ多くの人々に届けることを望んでいたと、米モダンリテールに語った。

しかし、価格を元の1トレイ50ドル(約6950円)から半分以下に下げるには、4年近い期間と、大きな資金が必要だった。「残念ながら、そこまで到達するには多くの研究開発と、技術を完成させるための時間が必要だった」と同氏は述べている。これらのベリーが高コストになる主な理由は、生産プロセスだ。この種なしの品種は日本の冬の気候に適した品種であるため、オイシーが構築したような気候制御された屋内農園で育てるのは時間を要し、高価なものとなった。

「当社がビジネスを始めた当初は、生産量も限られた小さな施設だった」と、同氏は語る。同ブランドは、ミシュランの星付きレストランで販売したのが始まりだった。「ここで人々は、当社のいちごが、スーパーマーケットで売っている品種とは何が違うのかをたしかめることができた」と同氏は述べている。創業から少しして、ブルックリンフェア(Brooklyn Fare)のシェフズテーブル(Chef’s Table)で、デザートとしてベリーを提供するようになった。その後、ドミニク・アンセル氏や、エービーシーブイ(abcV)のニール・ハーデン氏など、ほかのシェフたちもクライアントになった。

「そこから当社の評判がインスタグラムで広まり、このベリーがどこで買えるのかという問い合わせを受けるようになった」と古賀氏は述べた。この小売の需要を満たすため、オイシーは自社ウェブサイトにウェイティングリストを作り、顧客がトレイを予約して、次の日にワールドトレードセンター(World Trade Center)で受け取れるようにした。現在ではブルックリンのクラ(Kura)やマレーズチーズ(Murray’s Cheese)など地元のマーケットでも受け取り可能だ。

「当社のウェイティングリストには常に数千人の人々が名を連ねており、味はすばらしく美味しいが、誰も実際に食べられない、50ドル(約6950円)する秘密の商品となってしまった」と、古賀氏は説明している。近年では、クリッシー・テイゲン氏やグウィネス・パルトロー氏などのセレブリティのあいだでも、にはすぐにカルト的な人気を集めるようになった。

この人気の高まりを受けて、オイシーは、地元の信奉者たちもすぐに商品を購入できるよう、ホールフーズでの販売を決定したと、古賀氏は語る。ニューヨーク市での立ち上げ以降、同ブランドの在庫はほぼ毎日完売している。商品は依然として、同ブランドのウェブサイトで、以前より低い価格で販売されている。

屋内農園での収穫には、ロボットやオートメーションを活用している。これにより、当初の手作業による栽培方式に比べ、エネルギー使用量を60%、水使用量を40%削減することに成功した。同時に、顧客への価格を引き下げることが可能となった。小さなトレイでも販売を行っており、中型のベリー6個で11ドル(約1530円)、3個で6ドル(約834円)だ。

しかし、大きな施設の助けを借りたとしても、フルスケールの垂直農場を運営するのは容易なことではない。同社は昨年秋にロサンゼルスの開設した施設では、専門の農家のチームが存在し、毎日果物の世話をしている。古賀氏は、「箱詰めするベリーの外観をチェックする専門のチームが存在する」という。「このチェックは、私と共同創設者のブレンダン(ブレンダン・サマービル氏)の2人だけで梱包を行っていた頃よりも、さらに厳重なものだ」。

ほかの地域にも展開できるよう、同社はより多くの垂直農場施設の建設を計画しているが、古賀氏は具体的な数については明らかにしていない。農場労働者が必要な日常業務をこなせるようになるには、数カ月のトレーニングが必要となる。「作業員のための標準的な手順と作業員の受け入れ体制が整ったので、さらに施設を増やしていく際には、繰り返しそのプロセスを活用できる」と、古賀氏は述べている。

大人気の食料品のマーケティング

オイシーのブランドおよびマーケティング担当バイスプレジデントを務めるレーシャ・ダリモア氏は、最初にハイエンドシェフの注目を集めたことが、このブランドを最高級の商品として確立することに役立ったと語る。「この騒ぎは何なのだろうかと見たくなる欲求があるのだ」と、同氏は述べている。

同ブランドはホールフーズの調達責任者によっても広められたと、ダリモア氏は語る。「同社には、最新の優れた商品を調達するのに長けた、専門の調達チームがある」。

地元産の商品にスポットライトを当てたホールフーズのプログラムに参加したことも、ブランドへの認知を広めるのに役立った。現地プログラムでは、オイシーにコンタクトを取り、オイシーの創設者の情報とサイネージを什器用ディスプレイに展示したと、ダリモア氏は語る。ホールフーズは、CPGブランドや農家など地元の業者を紹介するために、この手法を使用している。

「ホールフーズは、同社の現地ポリネーターピクニックや、ノマドの新店舗オープンなどのイベントにも我々を招待してくれた」と、ダリモア氏は述べる。同ブランドは6月、ホールフーズの店舗でサンプリングを行うようになり、スポットで商品をマーケティングするのに役立ったと、同氏は語っている。

生産がスケールアップした現在、新しい屋内栽培はオイシーのマーケティング活動の大きな部分を占めることになった。ダリモア氏によると、新しい施設は、ブランドのコンテンツ制作の中心的な役割を担っているという。

「古賀氏が価格の引き下げと新発売を発表する動画を作成したが、これは今まで作成した投稿でもっとも視聴者のエンゲージメントの高い投稿となった」と同氏は述べている。また同社は、フードブロガーなど地元ニューヨークのインフルエンサーともパートナーシップを結び、ホールフーズでの販売のニュースを共有している。

ブランドおよびコミュニケーション戦略コンサルタントのカーリー・サザーランド氏は、デジタルネイティブのブランドの小売への参入が増えるなか、雑音をはねのけて集中することが重要になると語っている。「オイシーのマーケティングの成功は、いくつかの戦術に起因している」と同氏は述べる。まず、同社にはソーシャルメディア主導でコンセプトを実証し、インフルエンサーやユーザーの味見によるお墨付きでそれが増幅された。オイシーの限定された販売モデルと、セレブリティやシェフという第三者の信用性が相まって、「さらにFOMO(fear of missing out:取り残される不安)と盛り上がりを高めることになった」。

「オイシーに関する話題の多くや、それ自体によって強化されたコンテンツは、価格面について盛り上がっているものだ」とサザーランド氏は述べる。価格面においても、ホールフーズのチャネルで販売されているという点においても、このブランドの商品が入手しやすくなったいま、より長期的なブランドの構築に話題を移していくことが課題だと、同氏は語っている。「同社は、人々がなぜこの商品を買い続けるのか、その理由を作り上げることに注力すべきだろう」と同氏は述べている。

オイシーにとって、自社の垂直農場モデルを拡大することは、購入する機会を増やすことが前提になると、古賀氏は説明している。同社は今後1年間で、ホールフーズの販売地域を拡大し、地元の食料品店や専門市場にも展開を続ける。

同氏は次のように述べている。「日本の果物の文化を、より多くの米国の買い物客に知ってもらうという構想がある。日本では、高級な果物は多くの場合に贈答品になるため、食料品でも同じように、贈答のために購入する機会を作り上げたい」。

[原文:How luxury strawberry brand Oishii ramped up production for a Whole Foods launch]

著者:Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Oishii

Source