連日の日銀批判で日経紙が危機感をむき出し

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日銀に緩和政策の転換を迫る

日銀をめぐる報道で、これほど異様な光景はまずありません。経済専門紙の日経が連日、海外市場の波乱、一向に重い腰を上げない日銀、進む円安、2%超の消費者物価の上昇率、国内所得の海外流出などを大々的に報道しています。重大な異変の前ぶれなのでしょうか。

日銀が政策転換に追い込まれたら、日経、傘下のフィナンシャル・タイムズ紙の勝利です。そして日銀の敗北です。メディアによる日銀史上初の敗戦となります。「日銀敗戦」の処理費用は財政、さらに国民負担に降りかかり、海外勢は巨額の利益を得ることになるのです。

日経は名門の英経済紙、フィナンシャル・タイムズ紙を子会社として買収していますから、海外経済情報にも通じています。海外ファンドが日本国債を売り浴びせ(金利上昇要因)、日銀が買い回る(金利上昇抑要因)。主要国で唯一、金利を上げようとしない日銀に海外ファンドが戦いを挑んでいます。一般紙はそのフォローができていません。

1992年に英ポンドを売り浴びせ、英蘭銀行を打ち破った国際的投資家・ジョージ・ソロス氏の前例も引き合いに出されています。この勝負に負けたら、日銀は巨額の損失をこうむり、国民につけがまわってきます。

国際マネー市場の波乱、ゼロ金利を頑なに死守する日銀に関する日経の記事が日を追って増えています。気が付きだしたのは一月前でしょうか。新聞の切り抜きを整理していましたら、日経・FT紙連合は日銀打倒(緩和政策の転換に追い込む)を目指す編集方針を固めたに違いないと確信しました。

近いところから紹介しますと、「所得の海外流出11兆円(年換算)。資源高・円安で交易条件が悪化。企業物価9%上昇(5月)」(6/11)、「生活費、1年で1割上昇。日米欧30か国の生活費の上昇ペースはコロナ禍前の7倍」(6/15)です。

「揺れる世界の国債市場。日銀は海外勢売りに防戦」(6/16)。日銀は10年物国債を0.25%の固定利回りで無制限に買う(売りに対抗して買い支え)。だから日銀保有の国債はどんどん増えるし、金利を引き上げないから、日米金利格差が広がり、円安が進むのです。

これまで一般紙は「海外勢の売り」という表現でぼかしてきました。日経は「英ファンドが日本国債売り」(6/17)として、英ヘッジファンド(金融技術、複数の金融商品を駆使、分散し、高収益を得る)の最高投資責任者とのインタビュー記事を載せ、海外勢の正体を明らかにしました。

「海外勢」というより、ハゲタカにもなるヘッジファンドが実名で登場し、日銀への挑戦状を突き付けたのです。「日銀だけが長期金利を0.25%にとどめようとしているが、それは難しい。75%の確率で年内にYCC(緩和政策)を放棄する。投資家は挑戦したくなるものだ」と、明確です。国債を空売りして、日銀を限界に追い込もうとしているのです。

次が「世界の中央銀行による利上げは最多の80回(1-6月)」(6/19)で、一向に動かない日本の異常さが浮き彫りになっています。

さらに「日銀オぺで国債市場の波乱」(6/21 )の記事には、「市場機能に異変が生じた。YCC(緩和維持)と黒田総裁のメンツを守るために、債券市場の機能を壊した罪は重い」(市場関係者)というコメントが登場しました。これほど露骨に日銀総裁を批判する表現は珍しい。

おやおやと思ったのは、「5月の消費者物価が2.1%(生鮮食品を含むと2.5%)」(6/24)の翌日の日経解説です。「日銀『インフレは一時的』」(6/25)の記事の中に「数値は予想された範囲内。利上げする必要はどこにのない」(日銀関係者)のコメントです。

「利上げの必要はどこにもない」の文言は、日銀が揺れていることが分かると、ヘッジファンドに付け込まれることを警戒したためと解釈します。それまでは「注視している」「急激な円高は好ましくない」と説明していたのに、それが突然「必要はどこにもない」です。異様な焦りを示唆しています。

日本の異様な金融財政政策の姿は「国債、日銀の保有5割超す。6月の買入最大の15兆円。金利抑制で広がる矛盾」(6/28)で頂点に達します。「日米金利差で1ドル=136円まで円安が進み、物価を押し上げている」「日銀の国債保有が5割以上となっては、財政規律を緩ませる」と。その通りです。

この日は「日銀の保有国債に含み損も」、「家計資産が外貨建て預金や投資信託に流出」の関連記事も載っています。

「1-6月の金融市場は歴史的な急変動となった。円22円下落(40年ぶり)、米株20%安(52年ぶり)」(7/1)が一面トップ記事になりました。「広がる金融緩和の副作用。日銀の国債保有50.4%」(7/3)は「参院選の争点」の連載記事です。

こう並べてみると、「大規模緩和は維持する」「日銀は政府の子会社だからいくらでも国債を買わせられる」などは、日本はまるで世界の流れに逆行する孤児の姿です。

さらに市場の流れというより、「日銀の買い支えを売り崩す。日銀が屈するまで空売りを続ける」と、カナダのヘッジファンドが日銀に挑戦状を突きつけた展開は不気味です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。