街のおしゃれなパティスリーからそこら辺のコンビニまで、いろんなところで見かけるマドレーヌというお菓子。なぜか貝殻の形をしているものが多い。あれを本物の貝殻で作ったら楽しそうじゃないか?いろんな貝を買ってきて、その貝殻を型にして焼いてみた。
本物の貝殻でマドレーヌを焼きたい
貝殻型の焼き菓子、マドレーヌ。芳醇なバターの香りを漂わせるマドレーヌは、焼き立てをハフハフと頬張るもよし、冷めてしっとりしたところを頂くもよし、紅茶のお供にぴったりな愛すべきスイーツである。
マドレーヌといえばあの貝殻のかたちがチャームポイントだが、そもそもあれって何貝なんだろう? 気になって、”マドレーヌ 形 なに” とかでgoogle検索してみた。どうやら諸説あるものの、かつてキリスト教巡礼者がお守りとして持ち歩いていたホタテの貝殻をモチーフとした説が有力らしい。あれってホタテのかたちだったのか!!!
いままでホタテだと思って見たことがなかったので、改めてよく観察してみたい。あわてて近場のいろんなお店に走り、マドレーヌを買い集めてきた。
左から近所のケーキ屋さん、セブンイレブン、ローソン、成城石井、ファミリーマートのマドレーヌだ。
確かにセブンイレブンやファミリーマートのマドレーヌはホタテっぽい形をしている。しかしホタテにしては小さいし丸っこい。でもまぁ、ホタテのあかちゃんだと思えばゆるせる。問題はローソンと成城石井のマドレーヌだ。ほんとにホタテだろうか…?かなり縦に歪んでいる。
もちろんこのデフォルメされた感じもかわいいけれど、今こそ初心に戻って本物の貝殻で作ってみるべきなんじゃなかろうか。謎の使命感にかられて、いろんな貝殻を集めてマドレーヌを焼いてみることにした。
貝を買いにいく
思い立ったらさっそく本物の貝殻を手に入れたい。貝をたくさん手に入れるとしたらどこに行けばいいのだろう。あてもなくぶらぶら歩いていたら、突如、まさに目的にふさわしいお店が目の前に現れた。
御徒町にある吉池である。“魚はやっぱり直営店の吉池で!!”のスローガンが頼もしい。
入口の見た目からしてなんとなく伝わるとは思うのだが、このお店がまたおもしろいんだ。いろんな魚介類とその加工品がひしめいていて、地下三階まで続くダンジョンみたいである。生きてるサワガニ、うまそうな昆布、種類豊富な顆粒だしの素に目移りしちゃってしょうがない。
ついついあれもこれもとかごに入れてしまいがちだが、ここは冷静にならなければ。今回は貝にフォーカスするのだ。魚介ワンダーランドに沸き立つ心をなだめつつ、厳選して買ってきた貝がこちら。
種類はこんな感じ。
……お気づきだろうか。
なんと肝心のホタテを忘れている。全然まったく冷静になれていなかった。
この日ゲットしそこねたホタテとハマグリは後日出直して買ってきた。
貝って、ビチビチ跳ねたりしないから持ち運びにも便利だし、短時間なら水につけておかなくても生きたままで鮮度を保てるし、このまま直火で焼くだけで食べられてしまうお手軽さまで持ち合わせている。なんて便利な食材なんだ。そりゃ古代人も貝塚ができるほど貝ばっかり食べるわな。
もぞもぞぱかぱか動く貝たちをじっくり見ていると情がわきそうだったので、さっくり煮たり焼いたりしてすべておいしく頂いた。
貝殻をきれいにする
食べ終わった後でも、貝殻からは日本酒がすすみそうなにおいが漂っている。次のステップに進む前によくよくクリーニングしなければならない。磯のにおいのするマドレーヌなんて考えただけで悲しくなってしまう。
貝殻を数日真水にさらしてみたが一向にきれいにならないし水がとても臭い。特にサザエが心配だ。磯風味のマドレーヌを思い浮かべて早くも悲しい気分になってきた。。
わたしは食い意地がはっているので食べ物で悲しい思いはしたくない。必死の気持ちで調べていると、貝殻をクリーニングするには塩素系の洗剤につけておくのが良いという情報をゲットした。
情報どおりに塩素系漂白剤につけおいてからこすってみると、すごい!!!
この白さはテンションが上がる!このまますべての貝殻を洗ってしまおう。
しばらくじゃぶじゃぶと洗っていると変なことに気がついた。
ハマグリって皮があるの…???全然知らなかった。
さっきまで食べていたものがいきなり正体不明になった気がして、全身に鳥肌が立つ。知った気になっていたが、貝って意外と深いな…。
貝殻型でマドレーヌを焼く
すべての貝殻をきれいにしたら、いよいよこれを型にしてマドレーヌを焼こう。
卵、お砂糖、溶かしバター、薄力粉を全部同量入れて、はちみつをちょっぴり、そしてベーキングパウダーをひとつまみ。うまく焼けるといいんだけど。
生地のかたさは”ねっとり”とした感じで、生地を型に流し込むというよりはスプーンで少しずつ落としていく感じ。ちっちゃい貝殻に入れるのが結構むずかしいぞ。
焼いたらふくらむはずなのでどれくらい入れればいいのか塩梅が難しい。
特にサザエ、生地がどんどん奥のほうに入っていくのでトータルでどれだけ入ったかよくわからないので不安だ。まぁでも焼いてみるっきゃない!
新鮮とれたてマドレーヌ
貝の大きさによって焼く時間を微調整して、やっと全種類が焼きあがった。
大変お待たせいたしました、こちら貝マドレーヌの盛り合わせです!
数日前までは海鮮居酒屋のチラシに載っていそうな絵面だったのに、
今では午後のティータイムを演出するお菓子に生まれ変わった。
危惧していた磯のにおいもきれいさっぱりとれていて、まじりっけのないマドレーヌの甘い香りに安心した。
さっそく食べよう!
まずは本命のホタテから。
なんと! 型からはがす段階で割れてしまった。
はじっこまではきれいに取れなかったが、「型にバターをぬって小麦粉をはたいたらきれいに抜けるよ」という小技のおかげで大部分はきれいに外れた。
なんで普通のマドレーヌは丸っこいんだろう、という謎は解けた。リアルホタテ型で作ると平べったい型に広がった生地の中心部分だけが膨らみ、甘食のような形になってしまうからだ。市販のマドレーヌ型のデフォルメ感もさもありなん。
ホタテ1個分のマドレーヌは口を大きく開けてかぶりつかなきゃ食べられないので笑ってしまう。中心部分はふわふわだけどはじっこはカリカリで、ひとつでいろんな食感が味わえて楽しい。これは普通のマドレーヌでは味わえない要素ではないだろうか。
いかんせん、でかいのがネックである。これだけでおなかいっぱいだ。
そしてでかいといえばホッキガイもでかい。
貝殻マドレーヌは殻をつけたままの状態のほうが素敵なので、このままスプーンですくって食べるのがよさそう。
普通の型の場合、焼いた後のマドレーヌが型から外れなかったら悲しいだけだが、貝殻を型にすれば素敵な貝殻を楽しみつつスプーンですくって食べるというオプションがある。
さらにもう片方の貝殻でふたできるのもおしゃれポイント。思わぬメリットだ!
ただオススメできる貝ばかりではなかった。
サザエはつまようじでくるんと取りたかったんだけど、きれいには取れず。
途中でつまようじが折れたのでスプーンで掘るしかなかった。奥のほうはどうしても取れないので切ない。
あとはシジミもオススメできない。
生地の色がちょうどシジミの殻のごとく黒く焦げてしまった。カリッカリだ。これもこれで悪くはないが、これ食べるならクッキー食べたほうがいいと思う。
作ってみた中で一番のおすすめはアサリだ。
このサイズが何とも言えずちょうどいい。
小さめなので表面がサクっと焼けている。クッキーとマドレーヌの中間みたいな食感の軽さだ。
おなかが膨れてしまっているからかもしれないけど、一口でパクっと食べられるサイズがありがたい。確かに今までの人生で市販のマドレーヌを食べてきて、最後の一口くらいで「なんかちょっと多いな」と思ってきたのは事実だ。「世間のマドレーヌは大きすぎる!」と大声で訴えるほどではないのだが、ほんのちょっとだけサイズダウンしてくれたらもっと気軽に食べられるのにな、なんて思っていた。その最適解がアサリサイズのマドレーヌだったのだ。これは大発見ではなかろうか。
アサリサイズのマドレーヌ、世間にもっと浸透すればいいのに!!!
貝ってすごい
調理前も見ていて楽しいし、食べておいしいし、食べた後もお菓子の型として使える貝の万能さに感動した。
ホタテ・ホッキガイはかなり食べ応えがあるのでいっぱい食べたいときにはいいかも。でもやっぱり一番のおすすめはアサリ。ちんまりしたサイズ感が何とも言えずちょうどよい。
小さ目マドレーヌ増えてくれないかなぁ。それまでは貝殻を使ってマドレーヌを焼こうか。