チャレンジって大事だよなぁ。心意気も、そのためのツールも大事。
皆さん、もし「自分にとっての理想のPC」が手に入ったらどうしますか? 思う存分ゲームをする? 動画編集や音楽制作をバリバリやる? あるいは最高のVR環境でメタバースに入り浸る? なんにしても夢がありますよねぇ…。
そんな夢とロマンにあふれたプロジェクトを、実はあのインテルが実施してるんです。さまざまなクリエイターを支援する新たな試み「インテル® Blue Carpet Project」をスタートさせ、その傘下で未来のコンテンツを作っていくクリエイターコミュニティ「インテル® Blue Carpet Club」を立ち上げました。
そのメンバーの一人として選ばれたのが、映像イラストレーター・ケイゴイノウエさん。静止画であるイラストに動的な要素を加えたケイゴさんの作品は「動くイラストレーション」として注目されており、キズナアイやEve、Adoなどの先鋭的なアーティストをはじめ、アパレルやMV制作でもコラボレーションしています。
今回は、ケイゴイノウエさんがインテルと対話を重ねる中で、制作環境に対する課題や理想を伝えていった結果、制作環境における現在の課題を解決するために、マザーボードメーカーASUSの協力のもと、ご本人にも立ち会っていただきながらカスタマイズPCを製作。ケイゴイノウエさんにとって、どんなPCが理想なのか、そして「Blue Carpet Project」にどんなことを期待しているのか、お話を伺いました。
ケイゴイノウエ
イラストレーター / デザイナー / 映像クリエイターとマルチで活動。キャラクターを象るシンプルな線と視覚的なエフェクトで近未来的な”イラストともムービーとも言えないFuture Signage Art ”を独自のセンスに落とし込み表現する。
公式サイト:KEIGO INOUE / 公式Twitter: @mushiki_k
クリエイターとして、未来を出力する役割
──ケイゴイノウエさんはご自身のTwitterに多くの作品をアップロードされていますが、どれも未来的な印象を受けます。
未来の街創ってます✍️三✍️✨ pic.twitter.com/nFYNymrB5t
— ケイゴイノウエ/KEIGO INOUE (@mushiki_k) May 11, 2022
ケイゴイノウエさん(以下、ケイゴ):僕はずっと未来を重視したコンテンツを作っていて、それが僕のキャラクターになってると思います。たとえば僕に依頼をしてくれる企業さんも「ケイゴイノウエにお願いすると未来っぽいものができあがる」と認識してくれれば、僕を媒介にして未来的なことに手を出しやすくなるというか。むしろ僕の周囲に集まってくれる人たちも未来っぽいところもあるので、その人たちをつなげることもできると思っています。
──ケイゴさんの作品の特徴でもある「動くイラスト」は、どのようなアプリケーションで作っているのでしょうか?
ケイゴ:メインはAdobe PhotoshopとAfter Effectsですね。イラストツールと映像ツールという感じで使っています。
──イラストがPhotoshopというのはわかりますが、After Effectsって具体的にどう使うんでしょうか?
ケイゴ:グリッチ等(コンピューターのバグ発生時に表示されるノイズを模したもの)のエフェクトやモーショングラフィックスで用いる事が多いですね。After Effectsはプラグインが豊富なので、こういうことがやりたいなと思った時にカユいところに手が届くのが利点だと思います。でも、最近だとAfter Effectsに限らずフリーソフトのBlenderでも同じようなことはできるし、他の3Dソフトでもカメラやモデルを置くことはできるので、あまりソフトウェアごとの境界は感じないなとも思ってます。
After Effectsの利点でいうと、Cinema 4D Liteという3D制作ソフトが付属してくるので、自然とその操作にも慣れてくるかなと。やっぱりツールを触ることが一番大事なので。
バチバチな絵が好きな人は是非‼️💪🐱💪✨#絵柄が好みっていう人にフォローされたい#春の創作クラスタフォロー祭りpic.twitter.com/q2AQ6s0E38
— ケイゴイノウエ/KEIGO INOUE (@mushiki_k) March 12, 2022
──Houdini、ZBrush、Substance Painterなど、3Dソフトはひとつ習熟するのも大変ですから、普段から慣れておくことは大事だなと感じます。
ケイゴ:なので今回PCをリクエストするにあたって、前から挑戦してみたかったHoudiniがスムーズに動くようにとお願いしたんです。パーティクルの流体系のエフェクトをしっかり試してみたくて。新しいソフトなので勉強しなきゃいけないんですけど、CGクリエイターってほぼ研究者だと思うんですよ(笑)。
──プログラマーが新技術を覚えていかないといけないように、CG製作者もソフトを覚えていかないといけない…!
ケイゴ:なんなら一生研究ですよ。3DCGの世界はツールが最新になる度に2〜3年で学ぶことが変わってしまうので操作を最初から覚えなおす必要が多々あります。逆に言えばみんな同じスタートに立てるチャンスがあるのでどんどんチャレンジしていくべきですよね。
ケイゴイノウエがPCにおいて重視する点は?
ケイゴイノウエさんのカスタマイズPC
CPU:Intel Core i9-12900K
GPU:ASUS TUF-RTX3090-O24G-GAMING
Motherboard:ASUS ProArt Z690-CREATOR WIFI
CPUクーラー:Cooler KRAKEN X62
Storage:4TB
RAM:DDR5 128GB
【組み立てを担当したASUS 市川彰吾さんからのコメント】
クリエイティブに向いている製品を中心に揃えさせていただきました。CPUは最新の第12世代 インテル® Core™ i9-12900Kプロセッサー、マザーボードもThunderbolt 4が豊富なものを選定しています。
──流体やパーティクルとなると、パワフルな物理演算が必要となってきますよね。クリエイティブのためのPCにおいて、ケイゴさんがもっとも重視するスペックはどこになりますか?
ケイゴ:メモリの容量とアクセス速度だと思います。僕の場合は流体シミュレーションがストレスなく動くことが重要だと思うので。
──やっぱり現状のPCだとシミュレーションを動かすのは厳しい?
ケイゴ:一応動くっちゃ動くんですけど、ストレスがないかと言われればそこは厳しいです。ストレスがあると感覚的に作業ができないんですよ。そうなるとチャレンジそのものができないし、確認のプレビューも満足にいかないので。感覚的に制作ができる環境こそが、僕の求めているスペックですね。
イラストって映像や3DCGに比べるとそこまで高いスペックのPCは必要じゃないと思われがちですが、僕は常になにか新しいことにチャレンジしてみたい、今のその先を見てみたいと思っていて、そのために高いスペックのマシンが必要になってきているという感じです。
今まではイラストだけを書いてた人たちが「ケイゴイノウエがやってるようなことやってみたい」と思った時に、高い基準のPCが必要になってくる。そうなるとイラストレーターが使うPCの基準スペックも引き上がってくると思うし、最近はそれに気づき始めてる人も多いように感じますね。
──ちなみに、今回リクエストしたPCのスペックはどれくらいになりますか?
ケイゴ:Houdiniを動かしたいという希望だったんですけど、メモリはDDR5の128GB、CPUはベストなパフォーマンスが出せるものということで、インテルから最新の第12世代CPU、Core i9 12900Kを提案してもらいました。メモリはいくらあっても足りないくらいですけど、クリエイターのリクエストに対してこういう提案をしてくれるというのはすごく嬉しかったです。今回のプロジェクトに関しては今後も継続していくものなので、実際に運用してみて困ったことや過不足を感じることがあったら、いつでも相談できるというのも心強いです。
──使いはじめて数年のうちはサクサクでも、もっと複雑な表現を試していくうちにストレスを感じる時間が増えてくるかもしれない。そうなった時にマシンスペックをインテルと相談できるというのはありがたいですね。
ケイゴ:あくまで僕はイラストレーターなので、欲しいエフェクトの秒数やレンダリングの時間もそれほど長くはないんですけど、それでも現状苦労してる部分はあって。そこがサクサク動いてくれれば、それこそイラストを出力するのと同じくらいのペースでエフェクトが出せると良いですね。
──そのペースで映像モノが出力できれば、なんだかブレイクスルーな感じはしますね。
ケイゴ:もしそれくらいのサクサクが実現できれば、普通のイラストレーターではチャレンジできないジャンルに飛び込めるんじゃないかと期待しています。あとは質の違いもあるかな。Blenderでも流体は作れますけど、やっぱりHoudiniなどの業界基準のソフトと比べると違いがあるし、動かすためのスペックも違ってくる。最近だとみんなBlenderを使うじゃないですか。なので同じような質感ばかりになってるように感じていて。そこで差をつけようと思ったら、マシンのスペックとソフトウェアの違いになってくると思うんですよ。
アニメーションとはまた違う、未来のイラスト
──イラストを動かすとなるといわゆるアニメーションを連想するところですが、どうしてケイゴさんはイラストを動かそうという発想に至ったのでしょう?
電子の歌姫⚡️⚡️⚡️#ミクの日#ミクの日2022pic.twitter.com/SRZ5HeypdI
— ケイゴイノウエ/KEIGO INOUE (@mushiki_k) March 8, 2022
ケイゴ:イラストレーターが作った動くイラストって、昔から存在はしていたんですけど手作り感が結構あったんですよね。無理やりPhotoshopで作ってGIFアニメにしてみたとか。僕はもともと映像を作っていたこともあって、映像のプラグインを使ってイラストを動かせないかなと考えていて。
──イラストと映像、その両面を見ていたからこそ至った発想なんですね。
ケイゴ:アニメーション側から進化した物ではなく、イラスト側から進化した表現にできないかと考えていて、そのために秒数を縮めて瞬間的にイラストと感じられるエフェクトを盛っていったような感覚です。眉が動いたり髪がなびいたりするのは、もう僕から見るとアニメーションの世界です。
そこはキリがない世界だし、僕がやりたいのは額に飾って違和感の無い映像。瞬間的に見て「あ、イラストだな」と思えるモノでした。人は2〜3秒くらいの動きであればイラストとして認識できるので、その瞬間だけはめちゃくちゃ動いてるんですけど、全体で見ると一枚絵に感じるようなテイストを意識しています。
技術的にいえば数年前からあるものだとは思うんですけど、イラストと映像という、分業されていたジャンルが一つに合わさったものとも言えると思います。未来的な視点でいうと、「動くイラストを作る」という職業が将来的には存在すると思ったんですよね。
──かなりSF的なビジュアルですよね。それこそ未来的な存在で。
ケイゴ:だから僕は、今のうちから映像イラストレーターとして名乗っています。一方で分業されてることも重要ですし、僕自身もいずれは分業に戻るかもしれません。でも、あるアーティストの世界観を出力したいときに、全部ができたほうが新しいものが生まれるということを提示できたかなとも思っています。なのでまた新しいものを作りたい時は自分一人でやるかもしれませんが、すでにある分野を発展させていく分には分業で良いと思いますね。
──イラストは映像コンテンツに比べて革新的なアドオンを加えにくい表現だと思うので、新しいことの模索はありそうでなかったことかなと感じています。それこそイラストをアップデートさせるとなると、やはりアニメーションを連想してしまうので。
ケイゴ:しかも絵の上手さという点でみると果てしないですからね。僕はそこで勝負するというよりも、すべてを古くする手法で考えてみたのが今の表現です。Twitterで流れてくる絵と見比べてみても、どうやって作っているかわからない絵のほうが新しいと感じてくれるはずなので。
──思えばスマホやPCで表示するなら、紙と同じ感覚のイラストである必要はないですもんね。
ケイゴ:必要なのはいろんなジャンルの視点があるかどうかだと思います。僕は映像とイラストの両面から考えましたが、きっと他にも身近なところに答えは転がっているんですよ。それがまだ見えていないだけっていうのは、いろいろな分野においてありますからね。
──制作の際にインスピレーションとなっているものなどは?
ケイゴ:ライブですね。音楽に問わずいろいろなライブ。それもステージよりもバックステージのスクリーンに注目しています。
──演者よりもバックステージを見ちゃうんですか?
ケイゴ:そうですね、自分も過去にそうしたライブ演出に関わる仕事をしていたことがあるので。たとえば演出のタイミングとか、そんな手法もあったのかとか、「このエフェクトはAfter Effectsならこうすれば作れるかな」とか、そんなところを見ていますね。最近だとUnreal Engineを使ってバーチャルを活かした演出をしているところもあるので、かなり興味があります。
最近、Unreal Engine 5が出ましたけど、デモ作品として公開された「The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience」の表現なんてすごいですよね。今後はこれくらいの表現が基準になってくると思いますよ。
いろいろなクリエイターが、次のチャレンジに挑めるように
──「Blue Carpet Project」や「Blue Carpet Club」は、これからどんな影響を与えていくと思いますか?
ケイゴ:新たなイラストレーターの表現を見せられるかなと思います。一緒に参加するクリエイターに対しては、コラボといいますか一緒に何か新しい扉が開けるかもしれないと期待していますね。僕が関心を持っているクリエイターさんも参加してらっしゃるので。情報交換もしてみたいです。
──イラストやCGなど、それぞれのエキスパートが集まるってことですもんね。何かビッグなことが始まればいいなと期待しています。
ケイゴ:エキスパートが集まることによって、いわゆるこれからのクリエイターにとって憧れの存在になれたらなとも思いますね。「僕もBlue Carpet Clubに入ってみたい!」とか、そんな風に思ってくれればプロジェクトとして成功かなと。
──最後に、インテルに対して今後「こんなサポートがあったら良いな」という希望などはありますか?
ケイゴ:展示物に関しても未来的なことをしたいなとは思っていて。そもそも僕の作品自体が普通の展示方法では難しいはずなので、誰も見たことが無い展示会をやってみたい、というのは思っています。そのあたりを一緒に考えてもらえると良いなと思いますね。
──今後の活動について教えてください。
ケイゴ:活動的にはメディアアーティストにも近くなるとは思うんですけど、僕はイラストを通じてリアルの世界を改善していきたいとも考えています。最近はNFT活動もしてるんですけど、額に飾られているイラストの価値を美術品としての絵画と同じような価値で展示したいなと思っていて、そのためにNFTが活用できないかなと。ただ映像が流れてるだけだとコピーですけど、これがNFT化することによって価値や見える風景も変わってくる気がしています。
──NFTとイラストの関わりは最近注目されていますし、イラストレーターやイラストの価値が変われば展示のスタイルにも影響が出そうですね。
ケイゴ:これは壮大な夢なんですけど、ニューヨークのワン・タイムズスクエアのようなネオンギラギラのビルを作って、全面LEDパネルにしたケイゴイノウエビルみたいなのをいつか作ってみたいなと(笑)。僕のイラストや広告をドーンと流すような、そうした観光地を作ることができるイラストレーターになったら、もうイラストレーターとしては極めた感がありますよね。
まだ見ぬ未来のクリエイティブに挑み続けるケイゴイノウエさんは、イラストレーターという枠では捉えがたい新しい職分に感じました。でも、数年後にはこの感覚が当たり前になるかもしれない。技術、CG表現は、いつの間にか新しくなってしまいますからね。
挑戦し続けるクリエイターのアイディアを開放するには、それに耐えうるパワフルなPCが必要。インテルのサポートにより最前線のクリエイターたちがこれからどんなコンテンツを作り出していくか。今後の活動から目が離せませんね。
Source: Intel