株式会社ロジクールから、無線キーボード「MX MECHANICAL」が発売される。同社のフラグシップ製品となるMXシリーズでは、初めてロープロファイルメカニカルスイッチを採用した製品となる。
メカニカルスイッチは高級なキーボードによく使われており、耐久性に優れるものの、スイッチがカチカチと音を立てるという欠点もある。本機は静音タクタイル(茶軸)、リニア(赤軸)、クリッキー(青軸)という3つのスイッチを採用した製品をラインナップし、好みに合ったものが選べるようになっている。
メカニカルで静音というところに惹かれる人も多いだろう。今回はテンキーレスの「MX MECHANICAL MINI」の静音タクタイル(茶軸)版と、フルキーの「MX MECHANICAL」のリニア(赤軸)版の実機をお借りして、感触を確かめてみた。
5,000万回の押下耐久性を持つ3種のスイッチが選べる
製品ラインナップについて改めて確認しておくと、フルキーのMX MECHANICALとテンキーレスのMX MECHANICAL MINIがあり、それぞれに3種のスイッチを搭載したものがある。つまり製品としては2×3=6機種存在する。1つの製品に3種のスイッチが全部入っていて後から交換できる……という物ではないので注意が必要だ。
では主なスペックを確認しておこう。
MX MECHANICAL | MX MECHANICAL MINI | |
---|---|---|
押下圧 | 55g | |
押下耐久性 | 5,000万回 | |
キーストローク | 3.2mm | |
バックライト | 白色(近接センサー搭載) | |
バッテリ | 内蔵リチウムポリマー電池(1,500mAh) | |
インターフェイス | Logi Bolt(USBドングル)、Bluetooth、USB Type-C(充電専用) | |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 433.85×131.55×26.1mm | 312.6×131.55×26.1mm |
重量 | 828g | 612g |
価格 | 2万790円 | 1万8,700円 |
押下耐久性は3種のスイッチ共通で5,000万回。通常の利用環境であれば、一生かかっても超えない数字で安心感がある。押下圧は55g、キーストロークは3.2mmでこちらも共通だ。3.2mmのキーストロークは、デスクトップPC向けの単体キーボードとしてはやや浅め。
無線接続にはLogi Boltを採用し、USBドングルが付属する。同社は従来、UnifyingというUSBドングルを長らく使用していたが、Logi Boltとは互換性がない。今後はUnifyingに代わってLogi Boltが同社標準の無線接続方式になるものと思われる。
本機を単体で使用する分には特に問題はないが、Unifying接続のマウスなどを使用している場合は、USBドングルがLogi BoltとUnifyingの2つをPCに接続する必要があることに留意しておきたい。なおLogi BoltもUnifyingと同様、1つのUSBドングルで6台の対応デバイスを接続できる。
バッテリは内蔵リチウムポリマー電池を使用。充電には付属のUSB Type-C to Aケーブル(本機側がType-C)を使用し、フル充電で通常15日、バックライトをオフにすれば10カ月使用できるとする。
本体色はグレー系のグラファイトのみ。ボディとキーはグレーの濃淡で色味が分けられており、全体としてはかなり落ち着いた印象がある。バックライトは白単色のものが搭載されている。
フルキー/テンキーレスとも独自配置のキーを搭載
続いて実機を見ていく。キー配置はMX MECHANICALでは標準的なフルキーボードから、若干の変更が加えられている。
大きく異なるのが最上段で、F12キーの右側に音量上下のキーが追加され、さらにその右にはPrintScreenキーなど3つが省かれ、接続先を切り替えるキーに変更されている。そのまた右には、電卓、デスクトップ表示/非表示、検索、画面ロックの4キーが用意されている。
業務上、PrintScreenキーを多用する筆者などはちょっと困るな、と思ってしまうのだが、ちゃんと対応策がある。本機のカスタマイズソフト「Logi Options+」で、F1~F12キーや音量上下キー、電卓キーなど一部のキーの機能を変更できる。筆者で言えば、たとえば電卓キーをPrintScreenキーに変更すれば事足りる。電卓もよく使うので、元は元で便利なのだが……。
MX MECHANICAL MINIはテンキーレスだが、一部の配列が独特だ。右端の方にあるDelキーやPage Up/Downキーなどは、右端の1列に詰め込まれている。InsキーはFnキーと同時押しになり、PrintScreenキーやScrollLockキーは省かれている。さらには右のCtrlキーもない。Fnキーの存在からして、ノートPCっぽいキー配置と考えた方がいいだろう。同社はキー配置について「75%キーボードの標準的な配列」と説明している。
こちらもLogi Options+によるキーの機能変更が可能で、F4~F12キー、音量上下キーと、カーソルキーを除く最右列のキーが対応する。普段使わないキーを入れ替えれば概ね対応はできそうだ。
ただ唯一どうしようもないのが、右のCtrlキーがないこと。「Logi Options+」の設定画面の画像は英語配列で右Ctrlキーもあるのだが、手元にある日本語配列の製品では省かれているようだ。
Logi Options+によるカスタマイズはかなり強力で、使用するアプリケーションごとにキーの機能を変更できる。特定のアプリケーションを使用時のみ、特定のキーにキーボードショートカットを割り当てるのも可能だ。たとえばコピー&ペーストの操作が多いアプリケーションでは、音量上下のキーにCtrl+CとCtrl+Vを割り当てる、といったことができる。
静音タクタイルの静音とは? リニアと比較
次は気になるキータッチ。静音タクタイル(茶軸)とリニア(赤軸)を比較してみると、静音タクタイルは僅かにクリック感があり、リニアは最後まで荷重の変化がない。押下圧やキーストロークが同一なこともあり、この2種のキータッチは非常に近い。
では静音タクタイルは静かなのかというと、リニアとの差はほぼ感じない。元々、荷重変化のないリニアはスイッチがカチカチという音がないため静音寄りだ。要するに静音タクタイルというのは、タクタイルスイッチのスイッチ音を抑えた仕様と考えてよさそうだ。
それ以外のキー入力の騒音、つまり底打ちした時やキーが戻る時の騒音を減らす処理に違いはなさそうだ。また筆者が所有している静音キーボードと比べて、これらの静音処理が優れているとも感じない。一般的なキーボードに比べれば比較的マシかな、という程度だ。
ということで筆者の感触では、静音タクタイルはスイッチ音を抑えたタクタイルスイッチを採用したものであるというだけで、キーボード自体は特に静音化を図ったものではない。また静音タクタイルとリニアのどちらを選ぶかの基準は、キータッチの微妙な違いだけで、より静音な仕様を求めて静音タクタイルを選ぶ意味はないだろう。
違いはどうあれ、どちらのキーも入力の質はとてもよく、エンターキーやスペースキーなどの大きなキーを端押ししても全くぶれない。キートップのさらさらとした手触りもよく、裏面の滑り止めもしっかり機能する。高級な無線キーボードとして価格に見合う品質だと言える。
コンパクトな高級無線キーボードとして稀有な存在
本機のメリットとして挙げておきたいのが、コンパクトさだ。薄型のベースの上にキーを浮かせて配置したようなデザインで、キー自体もロープロファイルで背が低いため、高さは26mmとかなり低め。またファンクションキーと数字キーの間にある隙間を廃し、キーボード外周のスペースもかなり削っており、設置スペースはかなり小さい。高級キーボードで省スペース、なおかつ無線接続というのは、なかなか訴求力がある。
バックライトは白色のみで、全キー点灯、一部点灯、明滅など5パターンが選べるほか、常時消灯もできる。未使用時は数秒から数十秒待つと消灯するが(直前の使用時間によって変化するようだ)、キーボードに近接センサーが内蔵されており、手を近づけると再点灯する。光量は控えめで、常時点灯でも邪魔になることはない。
このほか本機と同日に発表され、16日に発売された無線マウス「MX MASTER 3S」など、MXシリーズのマウスと組み合わせて使うことで、複数のPCをまたがる操作がマウスカーソルを画面端に持っていくだけで切り替えられる「Flow」も使用できる。ただし本機単体では利用できない点には注意が必要だ。
本機の魅力は、好みに応じて選べる3タイプの高級メカニカルキースイッチを、コンパクトな無線キーボードに搭載した点だ。加えて、Logi Boltによる確実な接続、専用ソフトによるカスタマイズ性などもよく、ハード/ソフトの両面で堅実な作りになっている。ロジクールのMXシリーズという鉄板ブランドの安心感に違わぬ仕上がりだ。
あとはキー配置に見られる若干の独自性をどうとらえるか。人によって頻繁に使うキーは違うので、自身の使用環境も含めてよく考えておくことをおすすめしたい。この点が許容できるならば、他社のハイエンドクラスのキーボードと並べても遜色なく、スペックからすれば価格も十分納得できる製品になっている。
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