実は1級船舶免許所持でカジキ釣ってたわたしがいうよ
逆張りではありません。前々から思ってたことをいいます。
知床事故でたくさんの死者が出たのは国土交通省にも責任がある
これについて本日は切々と語りたいと思います。
実はすでに数十年くらい前にはなりますがわたしはバスプロでした。ブラックバスを釣る大会に出るプロです。釣りに関する著作も結構ありまして
自分でいうのもなんですが面白いです。w 3万部くらい売れました。復刊したい出版社さん募集します。w コレを出した出版社「山海堂」は2007年に倒産しちゃってます。イラストを担当してくれた大森君はこんなアカウントになってた!!
で、バス釣りの後は海釣りに転向しまして、ボートを4隻買い換えて最後は油壺を拠点として友人とアメリカ製のフィッシングボートをノースキャラロイナから輸入して乗っていました。ボート代よりマリーナの保管料のほうが高くて死にました。かれこれ20年くらいも前の話です。三宅島までカジキを釣りに行ったりもしまして何本がゲットしています。大会も出ていたので当時の水産庁か運輸省の管轄の公益法人の理事も無給でやっていました。なのでボートや漁協問題にはかなり詳しいのです。筋金入りです。
そのわたしが再度言います。
知床の事故が米国やオーストラリアなら、死者は出なかった可能性が大きいです。
日本と先進国で大きく異なる安全基準
最初に言ってしまうと、
米国の保安基準では大穴が空いても24時間浮いていないと認可がおりません
コーストガードの基準で、淡水用も同じです。不沈として有名なのがボストンホエラーというフィッシングボートメーカーで、わたしの海用の一艇目はこれのモントークっていう小型艇でした。どれだけ凄いかメーカー写真で見せます。
胴体細切れでも平気。
どんな構造かというと(真っ二つでも走ってますが・・・w)
デッキの部分とハルという船底の間に発泡ウレタンを注入しています。茶色に見える部分です。だから沈まない。他のメーカーもここまで徹底していませんがだいたい同じような構造です。だから船に大穴が空いても24時間は沈まない。アルミボートの場合は椅子の部分に発泡ウレタンの塊を入れてあったりします。
この不沈構造はオーストラリア製のボートでも同様です。中に充填されるのでハルも非常に丈夫になり、わたしのボートは外側からハルを叩くとガシガシという固いものを叩く感じですが、国産ボートの不沈構造でないものはダワンダワンとたわむのが分かります。そのかわりコストがかかるのと、船体が重くなるので燃費も悪くなります。
しかし、仮に知床の遊覧船が不沈構造であれば数時間くらいでは沈まず、死者も出なかった可能性があるわけです。
カジキ釣り仲間は伊豆七島まで出かけるので外国艇が多かったのですが、国産艇の人たちも多くは自分たちでコストを掛けて発泡ウレタンを吹き込んで不沈化していました。
どうして日本製の船は不沈構造が義務づけられないのか
国産メーカーのボートはこうした安全性の違いから海外には輸出されません。軽四輪とおなじようなものです。
しかし国産メーカーでもこうした試みは当然しています。
ヤマハさんのサイトに切々たる苦労のレポートがありました。
まず不沈化すると、このように大穴が開いても沈まなくなります。
なぜ、国産艇は不沈構造にできないのかというと、そもそも日本の小型艇の造船所は中小零細。数人で小さな工場で作ってるようなところが多い。で、建築と同じで「在来工法」というのがありまして、ヤマハの資料を見ますと違いがよく分かります。
在来工法
ハル(外壁)の内側に手作業で仕切りを付けて補強していく。これだと敷居が邪魔してあとで発泡剤を吹き込めません!!
海外のボートはこの構造体がないので、こんな感じに間にたっぷりと発泡ウレタンを吹き込めるわけです。
しかし、日本の場合
1 物入れが少なくなる
2 重くなって燃費か悪くなる
3 製造原価が高くなる
ということでほとんど採用されませんでした。実は小型船舶の法規でも不沈性試験というのがありまして、不合格、もしくは申請しない場合、ルールに従ったサイズの「船首甲板」が必要となります。こういうやつです。
こういうのが着いてる船は不沈ではないと言うことですね。
外洋に出る船と静かな海の船ではハル形状が違う
知床の沈んだ船は、もともと波の無い瀬戸内海の観光船として作られたものが転配されて知床にきたという記事を見ました。
実は船の構造は、外海用と、波の静かなところのものでは全く違うのです。
良い例が元寇です。
CGで完全再現したらわかった! 元寇で押し寄せた蒙古軍船の弱点
元寇船は川用の平たい底の船で、外洋の荒波を切り裂くためのものではなかった。だから嵐でみんな沈んでしまった。いまのボートでも外洋に出るフィッシングボートはこんな感じ。
ハルは鋭いV型で波を切るように進みます。後ろから見ると真ん中からの傾斜がキツいのがわかります。
しかし日本のフィッシングボートはトローリングではなく止めて釣る釣り方が多いのでこれだと左右にやじろべえのように揺れて船に弱いと酔ってしまいます。よって船底を平たくしているものが多いのです。普通の釣り船でも屋形船と房総のものではまったく構造が違います。
つまり今回の事故は「そもそも静かな海用に作られた船を荒海で運用していた」という根本的な問題があるわけですね。
もちろん経営している会社の杜撰さはありますが、こうした観光船は認可事業で国土交通省が管理しているわけですから、大人数を乗せて外洋に出る場合
不沈構造なのか
外洋用の船なのか
くらいの判断はしてから認可して欲しいです。今回の数十億円にも及ぶ捜索費用は運営会社が払えるわけもなく、税金です。プレじゃボートの事故も多く、そのたびに税金が投入されます。不沈構造の義務化と営業用の船の基準の制定でだいぶん削減できると思うし、なにより人命が助かります。
それではこの雨の中、ヘリーハンセンのGore-Tex来てSTEPNの小銭稼ぎのために散歩に行って参ります。雨具は大事です。キャップもGore-Tex。
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わたしと音喜多君、立憲の中谷さん、自民の藤末さんの新刊「日本沈没を食い止めろ!」がでました。
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2022年6月21日の記事より転載させていただきました。