【大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」】ゲーミングPC、サステナビリティ……PC事業が好調な日本HPの次の一歩とは?

PC Watch

日本HPの岡戸伸樹社長

 日本HPのPC事業が好調だ。2022年第1四半期(2022年1~3月)の国内PC市場シェアは15.3%となり、ブランド別ではトップシェアを獲得。特に、法人向け市場では20.1%と5台に1台がHPブランドのPCとなっている。

 その日本HPは、今年度の取り組みの中で、コンシューマPC領域にも力を注ぎ、特にゲームミングPCは重点領域の1つに位置づけている。一方、プリンティング事業では、3Dプリンティングソリューションの導入が加速。自動車メーカーが純正補修部品の製造に採用するいった動きも出ている。日本HPの岡戸伸樹社長に、日本HPのPC事業戦略やプリンティング事業戦略について聞いた。

個人向けはゲーミングに注力

――2021年11月1日付で、日本HPの社長に就任してから約半年を経過しました。この間、どんなことに力を注いできましたか。

岡戸 まずは、お客様やパートナーの訪問に時間を割きました。就任時点は、新型コロナウイルスの感染者数が減少しはじめており、直接、お会いいただきやすいタイミングに入っていましたから、精力的に訪問をさせていただきました。

 社長就任直前までは、商業・産業印刷のデジタルプレス事業を担当しており、それ以前にPC事業を担当していたときも、個人向けPCが中心であったり、ダイレクト販売に携わったりしており、すべてのお客様やパートナーと接点があったわけではありませんでしたから、直接お会いし、これまで積み上げてきたものを受け継ぎながら、私ならではの独自性、コロナ禍で変化した時代にあわせた新たな取り組みについても説明しました。

――社長の立場だからこそ見えてきた日本HPの強みとはなんでしょうか。また、課題はなにかありますか。

岡戸 日本HPの強みは、グローバルカンパニーとしての製品ポートフォリオの広さや、レジリエンス(耐性)が高い経営体質を持っていることです。それを、社長の立場になって再認識しました。HPがシリコンバレーで80年以上も生き続けていることからも裏付けられるように、レジリエンスがHPのDNAそのものであるといえます。

 コロナ禍やウクライナ情勢などの不確実性があり、サプライチェーンの混乱が世界的な課題となる中でも、事業成長を継続させていることはその証です。人の動き方を変えたり、R&Dにおいても必要な分野への投資を加速したり、財務面でもアクセルとブレーキを的確に踏み分け、外部環境の変化にあわせながら自らを変え、成長の道筋を忍耐強く突き進んでいくことができています。蓄積されたナレッジやプロセスは、社長の立場になって、強く理解できたHPの強みであったといえます。

 日本には、東京生産が行なえるPCの生産拠点があり、さらにはR&D部門があり、それらが国内で有機的につながるだけでなく、グローバルとも連携し、社会情勢が変化しても、日本の市場において、多様なビジネスを継続することができました。また、こうした時期だからこそ、日本HPのパートナービジネスの強みを、より深く理解することができました。パートナーによるカバレッジの広さや、関係性の深さは、日本HPが持つ大きなアドバンテージだといえます。

 課題を挙げるとすれば、グローバルで持っている強みを、日本ではまだ活かしきれていないことです。日本には独自のビジネス慣習があったり、仕様や品質に対する要求レベルが高く、これに応える必要があったりします。そのため、本社に対して、日本の独自性を訴え、日本のニーズを理解してもらうことが大切です。

 しかし、その一方で、活かせるものがあれば、もっと日本に持ち込んでもいいのではないかと考えています。それは、製品やサービスそのものに限らず、販売手法やマーケティング手法など様々です。社長の立場になり、さまざまな国の人たちとつながることで感じた部分ですね。

 例えば、ゲーミングPCの分野では、新たな市場が想定される領域に対して、ソーシャルメディアを活用してメッセージを発信して、Webサイトなどに誘導。さらに、コミュニティを形成してもらい、そこでファンづくりを進めるといったカスタマージャーニーを推進しています。この仕組みは日本でも活用できるのではないかと思っています。海外の成功事例をもとに、新たなアプローチを開始したり、これまでは超えられ中ったような壁を超えたりといったことが可能になると考えています。

 ちょっと角度を変えるだけで、日本の市場に取り込める要素もたくさんありそうです。日本での事業を拡大していくという意味でも、海外の経験や実績をチャンスにつなげたいと思っています。

――PCを担当するパーソナルシステムズ事業では、どこに力を入れていますか。

岡戸 経営者の立場では、すべてということになりますが(笑)、コロナ禍の2年間で、PCに対する期待は大きく変化してきたのは確かであり、そこに対して、日本HPはなにができるのかということを徹底して考えていきます。

 1つは、ハイブッリドワークの分野です。もはや、ハイブリッドワークは不可逆な変化であり、全員がオフィスに戻ることはないでしょう。オフィスや自宅、あるいはサテライトオフィスやカフェなど、あらゆる場所が仕事をする場所になります。そこに最適なPCを提供したいと考えています。ここでは、ノートPCが中心になり、セキュリティも重要なポイントになります。ノートPCを紛失した場合の対策や、公共の場所での覗き見防止機能などにより、世界で一番、安全なPCを提供したいと考えています。ハイブリッドワークに求められる安心、安全、そして利便性といった要素に対して、しっかりと対応していきます。

 また、利便性も重要な要素です。外で会議をする際など、その状況に応じたカメラによる映像撮影や画面表示、音声が周りのノイズを拾わず、自分の発言がクリアに伝わることなど、どんな場所でも、オフィスの会議室や、自宅と同じような状況を提供することにこだわっていきます。

 これまでは、オフィスでの会議というと、その場への参加者だけで行なわれていたものが、ハイブリッドワークの環境では、オフィス以外から参加する人が必ずいるということが前提になります。オフラインでも、オンラインでも変わらない形で、1つの会議室の中で会議ができる仕組みづくりもますます重要になってきます。日本HPはそうしたところにも貢献できます。

 コマーシャルでは、オフィス需要が戻りつつある中で、デスクトップPCの伸びが顕著になってきました。デスクトップPCの製品戦略は、新たな時代において、きちんと見直していかなくてはならないポイントだと考えています。先頃、米本社が発表した第2四半期業績でも、グローバルでは、デスクトップPCが大幅に増加しています。ウィズコロナの世界、ニューノーマルの世界において、改めてデスクトップPCが見直されており、日本においても、生産性、利便性、セキュリティという点での強みを活かしながら、デスクトップPCに力を入れていきたいと考えています

――個人向けPCの領域では、どこに力を注ぎますか。

岡戸 個人向けPCで最も力を入れたいのがゲーミングPCです。個人向けPC市場全体としては、しばらく減少傾向が続くとの予測がありますが、その中でゲーミングPCだけは成長分野に捉えられています。もともと日本は、コンソールゲーム機が強い市場でしたが、コロナ禍でPCの役割が見直されるとともに、PCで余暇を楽しむという使い方も広がっており、ここにゲーミングPCが広がるチャンスがあると思っています。

 日本HPでは、長年、「OMEN」ブランドのゲーミングPCを市場投入し、プロゲーマーをはじめとして、エンスージアスト向けの製品として高い評価を得ています。この分野にはより力を入れていきます。

OMENシリーズ

 これに加えて、新たな「VICTUS」ブランドのゲーミングPCによって、ゲームをプレイするメインストリームのユーザーや、カジュアルゲーマーにも積極的に訴求していきます。コロナ禍でPCを通じてゲームに触れる人が増えており、ライトユーザーが増加しています。そうした層に最適なゲーミングPCとして、VICTUSを浸透させたいですね。

 もちろん、ゲーミングPC以外にも、コンシューマ向けPCも重点領域として力を注いでいきます。

 その1つが、デザイン性、機能性に優れたプレミアムラインです。957gの軽量モバイルPC の「HP Pavilion Aero 13-be」は、デザイン性にも優れ、Z世代をはじめとした若い世代向けと位置づけて、新たな顧客層も獲得していきたいと考えています。

HP Pavilion Aero

世界情勢による影響や下期の課題

――半導体不足や材料価格の高騰、サプライチェーンの混乱など、PCメーカーにとっては安定供給体制の維持が課題となっていますが、シェアにはどんな影響を及ぼしていますか。

岡戸 IDC Japanの調査によると、2022年第1四半期(2022年1~3月)の国内PC市場での日本HPのシェアは15.3%となり、ブランド別ではトップシェアを獲得しました。特に、法人向け市場では20.1%のシェアとなっています。

 2022年4月以降も、この勢いを持続しています。グローバルサプライチェーンの強みを発揮できたことも要因の1つですが、セキュリティやデザイン性、軽量化、プライスを含めたバランスの高さが、日本のユーザーに受け入れられていると考えています。また、幅広い製品ポートフォリオを持ち、多くの需要に応えることもできています。これが、日本HPのいまの勢いにつながっていると思っています。

 もう1つの重要なポイントが、日本HPのパーソナルシステムズ事業の成長を下支えしているのが周辺機器であるという点です。ハイブリッドワークは、人それぞれに利用環境が異なります。多様化する働き方に対応したハイブリッドワークソリューションを実現するには、PC本体だけの提案では限界があります。ここに周辺機器を組み合わせることで、より生産性を高めたり、より利便性を高めたりできます。

 マウス1つをとっても、長時間にわたって連続使用する人や、持ち運んで利用する人によって、最適なマウスは異なります。また、ゲーミングの世界では、ヘッドセットやマウスといった周辺機器1つをとっても、パフォーマンスに影響したり、勝敗に関わったりしてくるわけですから、非常に重要なアイテムになります。PCの体験を高め、より個人のニーズにあったものに進化させていくために、周辺機器の役割はますます重要になるでしょう。

 そして、これは日本HPにとっても、大きなビジネスチャンスになると思っています。Hyper XとHPブランドの周辺機器をあわせた売上げは、グローバルで前年比40%増の成長を遂げており、日本でも高い成長軌道に乗っています。

 また、すでに発表しているように、Polyの買収に向けた取り組みが始まっており、これによって、会議で利用する際に最適化された周辺機器の提案も加速できます。

 PC本体だけての提案ではなく、周辺機器によって、付加価値をつけ、ユーザー体験を高めることに力を注いでいきます。

 HPでは、ゲーミング、ペリフェラル(周辺機器)、個人向けサブスクリプション、デジタル印刷、3D プリンティング、ワークフォースソリューション(ハイブリッドワーク)を6つの成長分野とし、それぞれが2桁以上の成長を目標とし、年間の合計売上高で100億ドルを目標に掲げています。2022年4月までの上半期で合計売上高は約56億ドルとなり、ほぼ予定通りの成長を遂げています。

――下期の国内PC事業のポイントはどこになりますか。

岡戸 国内PC市場を俯瞰したときに、オフィス需要の回復がどうなるかといった点に注目をしています。今後、ハイブリッドワークが本格化する中で、需要がどう変化するのか、その中で、日本HPはどんな提案をしていけるのかが鍵になります。

 また、Windows 11へのマイグレーションが少しずつ出てくることを期待しています。移行が本格化するのは2023年からになるでしょうが、そうした動きに向けて準備をしながら、マイグレーションの提案も進めていくことになります。そして、個人向けPCの領域では、若年層へのアプローチを強化していきます。

 2020年度のGIGAスクール構想によって、小中学校に1人1台のデバイスが整備され、若年層がPCに触れる機会が増えてきました。これを、個人の所有にどうつながるかが、これからのポイントになります。主要先進国を比較すると、家庭へのPCの普及率や、人口あたりの浸透率では、日本が低いという結果が出ています。特に、若年層のPC普及率が低いことがわかります。

 その一方で、コロナ禍では、スマホとPCの棲み分けが明確になってきたことも、需要にはプラスに働くと考えています。スマホは情報を消費することが中心のデバイスであり、PCは情報を生み出すことが中心のデバイスということが、改めて見直されるとともに、以前は、PCの領域を、スマホが侵食するといった競合関係で捉えられていたものが、そうではなく、それぞれに棲み分けができるという流れが強まりました。コロナ禍が転機となって、PCは付加価値を生み出すツールであることというが、改めて見直されたともいえ、それによって、若年層に対して、1人1台のPCを提案する機会が生まれようとしています。

 もう1つのポイントがサステナビリティになります。サステナビリティは、社会的な要請が強い分野であり、グローバルでは、HPのサステナビリティへの取り組みによって生まれた新規売上げが年間35億ドルに達したと試算しています。日本HPとしても、サステナビリティの提案を、ビジネスの中にしっかりと組み込んでいきます。

 大手企業との商談の際には、かなり初期の段階からサステナビリティについての話題があがるようになってきました。HPを選んでいただける複合的な要素の1つとなっており、もはや、サステナビリティの提案は、ビジネスに直結する取り組みになっています。

――HP自身もサステナビリティには積極的に取り組んでいますね。

岡戸 HPでは、2040年までに、バリューチェーン全体での温室効果ガス排出量ネットゼロを目指しており、エネルギー効率の高い製品設計の実現や、再生可能なリサイクル材料、再生プラスチック、再生金属の使用といった持続可能な素材の利用も進めています。また、HPサステナブルインパクト戦略を打ち出し、世界で最も持続可能で、公正なテクノロジー企業を目指す目標を掲げました。

サステナビリティへの取り組み

サステナブルインパクト

 最新の活動報告書では、HP発行の約10億ドルのサステナビリティボンド(債券)が、該当するプロジェクトにそれぞれ割り当てられたことや、ENERGY STARやEPEAT、Blue Angelなどのエコラベル認証された製品の新規売上げは70億ドル以上となり、HP Amplify Impactパートナー全体では、1万回以上のサステナビリティトレーニングコースの受講実績があります。

サステナビリティへの取り組みによる効果

RGB印刷への需要の高まり

――一方で、国内におけるプリンティング事業の進捗はどうですか。

岡戸 国内の印刷業界において、デジタル印刷に対する関心が急速に高まっていることを感じます。それには2つの理由があります。1つは、コロナ禍で社会環境が変化し、需要の変動に伴い、多品種少量印刷が増えている点です。以前は、食品のパッケージや、チラシやDMも大量に印刷して、長期間に渡って使用していたものが、ニーズの変化が激しいため、必要なときに、必要な量だけを印刷することが増えています。こうした小ロットでの印刷に適しているのがデジタル印刷です。

 もう1つの流れは、CMYKの印刷よりも、デジタルデバイスの普及によってRGBの再現を好む傾向が出ている点です。雑誌や書籍といった印刷物を見るよりも、スマホに触れている時間の方が長い人が増え、画面で表示される色が、自分が感じている色であるという人が増えています。

 象徴的な例が同人誌です。スマホで普段見ている人たちが、印刷した際に見えるものに違和感を持ち、それを解決するためにRGB印刷を行ないたいというニーズが増加しています。RGB印刷は、HP Indigoシリーズが得意とするところであり、新たなニーズを生んでいます。もともと、日本のお客様は印刷に求めるレベルが高く、そのため、日本のニーズをもとにして開発したインクもあるほどです。RGB印刷においても、日本の需要が、世界をリードしていく可能性があります。

 コロナ禍の初期段階では企業活動そのものが停止しましたから、デジタル印刷のビジネスは大きく落ち込みましたが、いまではコロナ禍前よりも需要があり、むしろ、こうした時期だからこそ、前倒しで投資をしたいというお客様もいます。出版業界においても、需要の変化や環境への対策、返本率の課題を解決するといった観点から、必要なものを必要なだけ印刷することへの関心が高まっています。こうした変化が、アナログからデジタルへの移行を加速させる要因になるという手応えがあります。

――産業用3Dプリンティングの動きも活発になってきましたね。

岡戸 3Dプリンタで試作品を作る際に、時間やコストの観点から、圧倒的なメリットがあることが、すでに実証されています。そして、いよいよ量産する部品への活用といった挑戦が始まっています。新たなフェーズに入り、これから数年に渡って、この取り組みが加速していくことになるでしょう。

3Dプリンタによる製造

 HPの3Dプリンタ「Jet Fusion」で生産されたパーツは、2021年9月時点で、全世界累計1億個となり、そこから半年ほど経過したいまでは、1億3,000万個を突破しています。

 日本でも、試作に活用するだけでなく、実際の部品として利用している例が急速に増加しています。例えば、日産自動車やトヨタ自動車では、生産終了となった車両の補修部品を、SOLIZEとの協業によって、Jet Fusionで復刻生産し、純正部品として販売するといったことが行なわれています。

 また、パーソナライズ化の動きも加速しています。例えば、ラピセラでは、義肢装具の設計、製造にJet Fusionを活用し、高い精密度をもっと造形の実現や、材質の耐久性などによって、身体にあわせて、しっかりと馴染むことができる義肢装具を生産しています。今後、パーソナラズ領域での活用はもっと増えていくと考えています。

――海外では高い実績を持つ個人向けプリンタですが、今後、日本ではどう展開していきますか。コロナ禍では、直販サイトを通じて、PCとのセット販売も積極的に行なっていましたが。

岡戸 国内の個人向けプリンタ市場は、大きな規模がありますが、世界で最も競合が激しい市場でもあります。いま、日本のユーザーにどうやって受け入れられるのかを検討しているところです。

 ただ、プリンタの供給状況が全世界で厳しい状況になっており、新たな製品の発表を遅らせたりしているのが実情です。供給状況が見通せる段階に入ったところで、新製品を発表し、コンシューマ向けPCと同様に、しっかりと販売をしていきたいと考えています。量販店ルートを通じた販売も、直販サイトを通じた販売の仕掛けも行っていく考えです。個人向けプリンタは、グローバルでもコアな事業であり、日本でも力を入れて推進していくことになります。

――海外ではインクのサブスクリプションサービスである「Instant Ink」を開始していますが、日本での展開はどうなりますか。

岡戸 グローバルでのInstant Inkサービスは、申込数が堅調に増加しています。高いサービスレベルを提供できるものとして、HPの強みのひとつになっています。日本での導入は検討フェーズであり、いつどんな形で導入するのかを、今後考えていくことになります。

社内の取り組み

――社長就任以降、日本HP社内には、どんな変化が起きていますか。

岡戸 組織体制を大きく変更するといったことはしていません。ただ、グローバルの方針と連動し、周辺機器やサービスビジネスの強化に取り組んでいます。これまでは兼任であった状況を見直し、専任化することで、責任の明確化と、事業成長を加速しやすい体制としました。また、サービスビジネスに対応できる新たなスキルセットを加えて、サービスをしっかりと売ることができる営業部隊も育成していきます。ウィズコロナ時代の新たな日本HPの事業モデルを担える人材を育て、これらの人材が力を発揮しやすい組織構造にしていきます。

 その一方で、HPアイデンティティの徹底を図っています。日本HPは、製品ごとの組織体制となっており、これが、損益の明確化や、迅速な意思決定の実現につながっていますが、コロナ禍では、フェイス・トゥ・フェイスで会えない状況が生まれており、これまで以上に、組織や役割を超えて、「One HP」として、まとまることの重要性を感じています。いままでにないコラボレーションを生んだり、新たなものを生み出したりするためにも、もっと横連携を強化したいですね。

 さらに、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)への取り組みをさらに推進します。女性が働きやすい職場とし、2025年には、女性管理職の比率を12%に高めます。男性の育休取得率も2025年には100%を目指します。

DEIの取り組み

 また、エイジングソサエティの先進事例を作りたいと思っています。65歳や70歳になっても、最後までキャリアを楽しむことができ、若手にもナレッジを継承し、さらに若手からも刺激を受け、新たな化学反応が生み出せる環境を実現したいですね。若手からベテランまでがやりがいを持って、ワクワクしながら、いつまでも輝いてもらうためのインフラづくりに取り組みたいと考えています。

 日本HP自らのDXも重要なテーマです。職人技をデジタル化し、それを活用して、生産性を高め、付加価値の高いものに挑戦する新たな風土も作り上げたい。グローバル全体で進めていくDXに、日本ならではのDXも並行して推進していきます。

日本HPにとっての第2の創業とは?

――2022年1月に開いた事業説明会において、岡戸社長は「第2の創業」という言葉を用いました。日本HPは、「第2の創業」によって、なにを目指すのでしょうか。

岡戸 前任の岡隆史会長がこれまで築き上げてきたものをベースにしながら、日本での事業をさらに成長させていくことが基本姿勢です。その上で、コロナ禍では、求められるものが大きく変化してきましたから、そうした変化をしっかりと捉えて、事業を成長させていきます。

 PCでいえば、先にも触れたように、ノートPCを社内外で使いやすいものにし、さらに、周辺機器を組み合わせた提案や、セキュリティなどのサービスを加えた付加価値提案を強化していきます。これによって、従来にはないPCの体験価値を伝えたいと思っています。

 PCメーカーの役割として、デジタルエクイティ(デジタルの公平性)を推進していく必要があると考えています。コロナ禍によって、PCの役割がますます重要になり、その結果、PCがあるか、ないか、あるいは使える度合いによって、生活に差が生まれようとしています。学校の授業がオンラインで行なわれるようになり、PCがあるか、ないかで、授業が受けられるか、受けられないかが変わったり、医療も規制緩和が進められ、デジタル診療が進み、PCが使えるか使えないかによって、医療の機会が変わってきたりしています。

 就職活動も同様で、オンラインが使えるか使えないかで、就労の機会が変わっている。いまやPCは、人権に直結している大切なデバイスとなり、同時に人々の生活を支え、豊かにするための必須のインフラになってきました。PCは、水道や電気と近いレベルで、基本的人権を担保するための重要な社会インフラと呼んでいいでしょう。こうしたところに生まれるギャップを解消し、PCが使えない人に不利な環境とならないように、公平性を実現することに取り組んでいきたいですね。

 家庭へのPC普及率を高め、1人1人がPCを活用できるように支援をしていくことが、PCメーカーの社会的責任の1つであり、「第2の創業」の中では、それを重要な柱の1つに位置づけたいと考えています。パートナーとともに、PC業界をあげてデジタルエクイティの実現の取り組み、日本の発展に貢献したいと思っています。

 また、日本HPのPCを活用してもらい、自己実現する人を増やしたいですね。PCは物事を生み出すツールであり、自己実現を支援できるツールです。それを十二分に活用してもらいたい。

 歴史をさかのぼると、パピルスの誕生によって、人類の智に関する大きなブレイクスルーが起きました。人の知識が文字で継承されるようになったからです。次に印刷の発明によって、知識が大量に複製できるようになり、多くの人に知識が広まることになりました。これも、人類の智にとって大きな変化点でした。そして、人類の智において、第3の変化点が、PCやインターネットに代表されるデジタル化だといえます。人が知的活動をしていく上で、知恵を蓄積し、出力し、発信できるデバイスができあがったわけです。つまり、PCは、パピルス、グーテンベルクに並び、3つ目の大きな転換点を担うものだといえます。

 HPのPCによって、自分が思っているいるものを作り上げ、それを、世界に発信していくことことも、1人1人の自己実現の支援につながります。自己実現を支援できる役割を担うことは、日本HPの「第2の創業」にとって重要な取り組みになります。

 PCは自己実現のツールとして、かなり完成形のところまで来ていますが、周辺機器やサービスを組み合わせることで、まだまだ生産性などを改善できる余地がありますし、進化できる部分も多いといえるでしょう。さらに、PCメーカーの役割として、PCが持つ価値をもっと伝える必要があります。PCを購入していただいて終わりということではなく、そのあとに、しっかりと使っていただくことが大切であり、「こういう使い方をすると、自己実現につながる」ということを、もっとお伝えしていかなくてはなりません。伝えることもPCメーカーとしての大切な使命です。これも「第2の創業」の中でやっていく重要な取り組みになります。

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