絶景のそばには絶景が集まる 身近な絶景めぐりの旅

デイリーポータルZ

友人による街案内が好きだ。ツタまみれでカッコいい古い家、眺めが気に入ってるランニングコース、友人しか知らない絶景。あ、ここはねと話す嬉しそうな横顔、少し誇らしげな声。

「絶景」は有益さと無縁だ。なんかいいよねっていうこの感覚を、俺たちなら分かち合えると思ったんだぜと、そういう愛おしさがあるだけだ。

今年のGW、デイリーポータルZではそんな愛しき絶景がなんと92も集まった。

※編集部より
2022年のGW企画の、ライターたちがちょっとしたまちの見どころを紹介するごく短い記事を集めた
「身近な絶景」。記事のなかから、3ykさんに気になった場所を巡ってもらいました!

まちを歩くのと建物が好きで不動産会社に入りました。
休日は山を登り川を渡り海で石を拾います。

前の記事:筑波大学のでかいカーブミラーがいい

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東京縦断、地味すぎる絶景めぐりの旅

都内だけでも数十箇所に及ぶ身近な絶景たち、全部を一日で巡るのは至難の技だ。

今回は西日暮里駅をスタート地点として、以下の5つを巡る東京縦断の旅となった。

①西日暮里駅〜

日暮里舎人ライナー、足立小台駅付近からのリバービューが美しい(JUNERAYさん)

②見沼代親水公園駅

新交通システムの果ては、ちょっと怖い(JUNERAYさん)

③鞍掛橋交差点

ビルとビルの隙間にロゴがある(トル―さん)

④品川浦

品川浦の舟だまりでぼーっとする(ほりさん)

⑤下神明駅

下神明の3つの線路が交わる立体交差がずっと見ていられる(いまいずみひとしさん)

【西日暮里駅】日暮里舎人ライナーで心がお祭り騒ぎ

そんなわけで朝9時、つくばからはるばる西日暮里駅に来ました

何はともあれ、日暮里舎人ライナーにはぜったいに乗りたいと思っていた。

わたしを含め先頭の特等席を陣取る人々は今か今かと熱っぽく出発を待つ。一方練習試合か何かに向かうジャージ少年集団は、友だちとのおしゃべりとゲームに夢中だ。彼らの日常に触れ、おお、わたし、今観光に来てるな!と旅の思いが強まる。

家かと思うほどくつろいで車窓を眺めるおじいちゃんもいて、おそらく日々の散歩コースなのだろう。羨ましいな

JUNERAYさんによれば、日暮里舎人ライナーは乗るだけでレジャー、ちょっとしたアトラクションだという。ベルが鳴ってドアが閉まって、ぬるっと滑るように車体が動き出あっちょっとこれ結構急に加速しますね?!モーター音の高まり、ガタガタゴトゴト足元から伝わる振動、そして眼前にはこのコースよ。

うねり・登り・下る、随分自由奔放な性格と見た!!

これは確かにアトラクションだ。20分で13駅、加速と減速を短く繰り返しながらコースを進んでいく。

ようやく乗り心地に慣れた頃、今度はリバービューに
高速道路と、もう次から次へと見どころばかり、祭りだ祭りだ
古いマンションの屋上で時々見られる、使途不明の小屋と茂った草木が鑑賞し放題なのもよすぎて動悸がした
そして終わりは唐突にやってくる。

散々興奮させといて、最後にこの終わり方だ。

最高だ、こんな顔にもなるってわけ。

【見沼代親水公園駅】緑道で誰かの絶景のおすそわけ

さて、どうするか。このまま日暮里舎人ライナーの復路に臨むか。興奮冷めやらぬまま、ぐるりと周りを見回し、あるものが目に留まった。

駅前に停められたママチャリに
埼玉県のゆるキャラ、コバトン

地図で見てみると、なるほど、日暮里舎人ライナーの終着点であるここ、見沼代親水公園駅はちょうど東京都と埼玉県の県境に位置するらしい。

いい道ね

木漏れ日の美しさに誘われ、県境の川へと続く緑道を歩くことにした。

パアア…って効果音が似合う、いい感じの光が降り注ぐパイプ椅子を発見
ちょっと失礼、腰掛けて上を見やったら 
あら〜と声が出た。これは絶景だ

きっとこの椅子は、この景色を見るために置かれたんじゃなかろうか。この地での暮らしを心得たひとが見つけた絶景ポイントだ。

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元ピアノの先生が営む実家喫茶で朝ビールを飲む

ありがたく絶景のおすそ分けを頂戴して、さらにズンズン進み川へ出た。

この向こう側が埼玉県とのこと
川沿いを歩いてたら不意に目があった

まつげバッサバサの、眼力強めのキリンショベルカーを通り過ぎると、またひとつ気になるものを見つけた。

民家に喫茶店の看板が掲げられている
ウオオ

この折りたたみ式の網戸と虫コナーズ、友達んちにあった!!めちゃくちゃに高まりつつ、しかし本当に入っていいのだろうか。

網戸を折りたたむ勇気が出ずに覗き込んでいると、ちょうどお使いから帰ってきたところだというママさんが迎え入れてくれた。

ハ〜良すぎ、良すぎ丸ですわ
コーヒー?ビール?と聞かれて元気よくビール!と答える午前11時。本当に飲むの?冗談のつもりだったのよ?と笑われた。

カバーがかけられたピアノ、家族写真にお孫さんが学校で描いた絵と、家庭のリビングそのまんまである。聞けば近くで長く喫茶店を営んでいたのを、3年前にここ実家に移転したということで、これは確かにまごうことなき実家喫茶だ。

さっき買ってきたんだけど食べる?とマグロと山芋ののおいしいやつもいただいた。
今夜は宴会の予約があるらしく、仕込みの様子を見せてもらった。

月に一度の定例となっている宴会、毎度何人来るのか、何を食べるかも決まってないらしい。「いつも出たとこ勝負なのよ」とママさんは笑う。

注文を取るのではなく、まだお腹へってる?パスタでも食べる?なんてお客さんと話しながら、その場で作って出すんだそうだ。

 

なんですかその最高システムは…わたしもその宴会参加してもいいですか…胸がいっぱいになったところで、ハッと今日のミッションを思い出す。

そうだ、わたしの旅はまだまだこれからなのだ!

【鞍掛橋交差点】イマジナリー・トル―さんと連れだって休日のオフィス街を歩く

行ってらっしゃい、また来なね、とママさんに送り出され、気分は桃太郎の旅立ちの朝。

まだ慣れぬ電車に揺られ、乗り継ぎたどり着いたのは秋葉原である。

秋葉原から馬喰町へと、休日のオフィス街を歩いてビルの隙間に挟まるロゴを探しに行く。なんと地味な冒険か。
ピカピカのビルの隙間に、味のある建物が隠れており油断ならない
クリーム色の地に剥がれかけの優しい黄色の切文字がかわいい
持って帰りたい衝動に駆られるがぐっと耐えた
そうこうしているうちに目印の交差点だ

これがどうして、なかなかビルの隙間に挟まるロゴが見つからないのだ。

通り過ぎた?見逃した?と何度も通りを往復しながらビルとビルの隙間に目を凝らす。

あっ!

あった!めちゃくちゃ高いところに、思っていたよりもずっと隙間に、かのロゴはあった。

トル―さんはどうやってロゴに気づいたのだろう。背が高いとあんなところまで見えるのだろうか。

確かにこれは「わ〜よく見つけたね」「でしょ、ほんと偶然でさ」と話して眺めたいタイプの絶景だ。

一人で来てしまったので気持ちの行きどころがわからず、とりあえず記念写真を撮った。

イマジナリー・トルーさんを召喚し、語らいながら次の駅へと歩いていると、「あ、あそこにもありますよ」とトル―さんが声を上げた。※想像上の出来事です

あっ
あの隙間にもロゴ(?)だ!

思わずトル―さんと手を取り合い(※想像上の出来事です)、ビルのもとへ走って向かう。

1階はガソリンスタンドという珍しいつくりのビルだ

ビルの様子を見るに有料駐車場と書かれていたのだろうか。「隣のビルもなかなかレトロでかわいいですね」「ね、挟まれてからかなりの年月が経ってそうですね」

一人で見つけていたらtwitterにあげて終わりだったかもしれない。でもきっとこれからは、ビルに挟まるロゴを見かけるたびにイマジナリートル―さんがにゅっと顔を出すのだろう。

元の紹介記事はこちらからどうぞ!
ビルとビルの隙間にロゴがある
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【東日本橋駅】静かに燃える執念を感じる配管ビュー

絶景は絶景を呼ぶのか。ここまでで十二分に旅の運を使い果たしたと思ったのだが、次へと向かう地下鉄で圧巻の配管ビューに遭遇した。

都営地下鉄浅草線、東日本橋駅
この見事な曲げられ方を見てよ
天井を埋め尽くす配管
この配管の、螺旋を描くかのようなまとめかたが一番ぐっと来た

地下の薄暗くじっとりした雰囲気のなかで、一本一本几帳面に配管を這わせる職人の横顔が浮かぶようだ。この仕事ぶり、どこかで表彰されていてほしい。まだだったらわたしがトロフィーを贈呈します。

【品川浦】舟だまりにて日替わりC定食を食べる

ふたたび地上に出て、絶景めぐりも終盤戦である。

どうしてもこの昼下がりの時間に行きたいところがあった。ほりさんが紹介していた舟だまりスポットだ。

町の中華料理屋で日替わりC定食をテイクアウトしてさ
この細い道を通ったらさ
この眺めよ!トタン小屋とにょっきり生えた脚がかわいい
C定食は高菜卵炒め コーンスープ付き

この舟だまりで、だらだらお昼ごはんを食べるのがやりたかったんだ。

静かで眩しい舟だまりの向こうでちいさく聞こえてくる、バーベキューを楽しむ声。

各々よろしくやってますなあ、目を細めつつ大盛りのごはんとやさしい味の高菜たまごを交互に食べて、こんなに穏やかな気持ちの昂りがあるだろうか。

犬がきて、目の前でめちゃめちゃにいきんで、そしてUターンして帰っていった。君の勇姿、しかと目に焼きつけたぜ
元の紹介記事はこちらからどうぞ!
品川浦の舟だまりでぼーっとする

【下神明駅】立体交差線路を眺めながらドーナツをかじる

品川浦が真昼のイメージなら、下神明の立体交差は夕方4時が似合うと思う。

その前にちょっと寄りますね
ぺかっとした公園と、
たこに群がる人々を通り過ぎ、
いい路地を抜けて、(この旅で路地の良さに気づいた)
ほらほら、背後から差す西日がよく似合う。
行儀よく並ぶ椅子三つは、品川区が設置したオフィシャル椅子だ。わかってるじゃん品川区…!
さっそくうまい空気ことフレンチクルーラーをかじりながら線路を眺めますよ
唐突なライフハック:何かを鑑賞するときは「ドーナツをひとつ食べるあいだ」と決めるとしあわせに、かつ集中して見ることができる。

デザインや古び具合がちょっとずつ違う線路、行き交う電車の音、三線電車が揃うラッキータイム。

建築物としての面白さと、川の流れを眺めるような魅力があわさった絶景だ。良さをドーナツとともによくよく噛んで飲み込んだ。

ところで、この高架下をくぐったらちいさな空き地を見つけたんですけどね
パンダが。空き地にパンダが一頭。
どういう状況…?
つまりこういうことか
パンダの背中にまたがって二つ目のドーナツをほおばり、電車を眺める。こんな休日があっていいのだな

偉くなったら絶景に椅子を置きたい

道中いくつもの絶景に椅子が置かれていたのが良かったなあとしみじみ思い返す。絶景を分かち合い、味わうための椅子。

お金と権力を持つとインフラに手を出し、自分を冠した名所をつくりたくなるのが世の常だが、わたしが偉くなったあかつきには、地味な絶景に椅子を置きまくってやろうと心に決めた。

帰る前にどうしても乗りたくて、もう一往復日暮里舎人ライナーを堪能した。夢のような一日だった

 

取材協力:Kitchen & Cafe イアーズ
〒340-0031 埼玉県草加市新里町1609−10 

 2022GW特集! 身近な絶景 

 企画のご説明 

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