スポーツカイトをご存知だろうか。2本のラインで空中のカイトを自在に操るスポーツだ。スタントカイトとも呼ばれ、練習次第ではかなりアクロバティックな技もできるようになるらしい。つまりこれ、習得したら週末に風と戯れられるわけだ。まさに大人のホビー。わくわくしながら教えてもらいに行ってきました。
※2006年2月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
金城さん
今回スポーツカイトを教えてくれるのは金城さん。ほりが深くて色が白いので日本人には見えないが実は沖縄の人だ。
金城さんはカイト以外にも様々な特技を持っている。タイ語を話したり、ふじいあきらさんみたいに風船を飲み込んだりもできる。本人いわく役に立たないことならほとんど出来ます、とのこと。現在TANTRIXというパズルの記録保持者でもある。
カイトを教えてくれるということで待ち合わせをしたはずなのだが、金城さんは剣道の竹刀ケースを肩にかけて現れた。開けると中から棒がでてきた。
「じゃ、はじめますか」
へんな準備体操をしはじめた。もしかしてカイトって沖縄では変な隠語だったのかもしれない。困ったな。
そうこうするうちに金城さんはロープの先にボールの付いた道具を取り出してぶんぶん回し始めた。
「これ、ポイっていうんですよ」
はあ。
「ニュージーランドの戦闘具です。」
そうですか。
金城さんのポイは加速する。ブンブンブンブン。ポイの回転は徐々に熱を帯び始める。もう僕には止められない。もしかしたら今日の特集、カイトは飛ばさないのかもしれません。
ポイ、はじめました
「どうぞ」
ついにポイを渡されてしまった。
「まずは基本の形からはじめましょうか。」
よっしゃ、始めましょう。
「こうです。」金城さんのポイはぶんぶんきれいに回る。「こうっすか。」だけど僕のはへにゃへにゃとしか回らない。しかも頭上で2個のボールがぶつかると頭に向かって落ちてくるのだ。それが天誅っぽくてすごくいたい。これ、すげえ硬いけどいったい何でできてるんだよ。
「テニスボールに小豆をつめたんですよ。自作だから。本物はもっと柔らかくて当たっても痛くないんですけどね。」
本物でやろうぜ。
回しているとどうしても怖くて腰が引けてしまう。だけど怖がると逆に玉が襲ってくるのだ。堂々と、しかも少々やみくもに回すくらいがちょうどいいのかもしれない。
何度も頭とすねと股間に小豆の塊が直撃した。うずくまる僕を金城さんがなぐさめてくれる。
「あんどうさん、筋がいいですよ。もうほとんどできてますから。」
カイトやらせろ。
だいぶ慣れてきました
練習すること小一時間。おかげでポイの基本的な動きをマスターすることが出来てきた。これ、はまると面白いよ。だけど油断するとラインが絡まって小豆の塊がすねに当たるから気をつけろ。
もしかしてこれって、2本のラインを操る、っていう点でカイトの練習なのかもしれない。一見関係なさそうなことが後々になって役に立つなんてベストキッドみたいだ。がんばろう。
本題に入ります
「それじゃ、そろそろカイト始めますか。」
金城さんはようやくカイトを竹刀袋から取り出した。よかった、僕は本当に今日はポイで終わりだと思っていた。
スポーツカイトは組み立てると戦闘機みたいな格好をしていた。子供の頃飛ばしたゲイラカイトとはずいぶん違う。骨組みはグラスファイバーで出来ていて軽くて丈夫。このカイトは小さいものらしく、大きなやつだと2メートル以上あるという。
「いい風出てきましたね」
金城さんが両手に持ったラインを大きく後ろに引っ張ると、カイトはビビビッとすごい音をたてながらほぼ垂直にテイクオフした。本当に戦闘機みたいだ。
金城さんの巧みなラインさばきでカイトは大空を自在に飛び回る。ゲイラカイトとの違いは上達すると思い通りにカイトを操れるところだ、それもかなりのスピードで。
実はこの取材、カイトを習得しようというのは建前で、本当はスポーツカイトの破壊力を体感しよう、という筋で考えていた。頭に乗せたりんごをカイトで打ち落としてもらおうと思っていたのだ。
しかし条件にもよるが、カイトは100キロ近くのスピードで飛んでくる。アメリカの警官がスピードガンで測ったら170キロ出ていた、という話もある。グラスファイバーでできた鋭角の物体がそんな速さで飛んでくるのだ、へたしたら刺さる。安全を優先し、りんごはやめておくことにした。
で、どうしよう
僕もカイトを借りて飛ばしてみたのだけど、どうしても低いところで急旋回して地面に刺さってしまう。風と戯れるどころじゃない。ポイの練習が全く生きないということもわかった。
とにかく一朝一夕にマスターするのは無理っぽい。もしかしたらかなり練習しないと上達しないんじゃないか。りんごも打ち落とさなかったし、どうやってこの企画を収束させようか。
やっぱりそうなりますか
「デジカメしばって飛ばしてみましょうか。」
でたよ、誰もが思いつくけどカメラがもったいなくてやらない技だ。確か前に林さんも同じようなことをしていた。
金城さんは言う。
「こっちのカイトなら浮力が強いので揚がると思いますよ。」
金城さんが新しいカイトを準備し始めていた。さっきのカイトと違い骨がなく、パラグライダーをそのまま小さくしたような形のカイトだ。カイト界ではさっきのカイトをデルタ型と呼び、こっちのカイトをフォイル型と呼ぶ。
やらずには終われない雰囲気になってきた。しかたがないのでソフトに着地させることをお願いし、僕のデジカメを凧に縛って飛ばすことにした。
「大丈夫です、中心に縛れば安定するし。いい絵が撮れると思いますよ。」
僕も自分のデジカメでなかったら同じことを言っていただろう。まあここは流れ上しかたがないのであとは金城さんにゆだねるとする。いい写真が撮れることを祈ろう。セルフタイマーをセットしてその場を離れた。
「いきますよー」
金城さんがラインを引くとシュパパッ、という大きな音をあげてパラシュート型のカイトは上空高くへと飛んでいった。僕のデジカメを乗せて。
金城さんは言っていた。このカイトならふわっと着地させることができると思います、と。信じていたのだが、実際にはパラシュート爆弾みたいな勢いで降下してきた。そして着地した瞬間、横風を受けてカメラもろとも数メートル引きずられた。だめだ、と思った。
やっぱり壊れました
ということでまんまとデジカメが壊れたのでこれ以降の撮影が出来なかったです。金城さんの手前その場では「大丈夫ですよ、これはこれで面白いので」って言っていたが、実はかなりへこんだ。
しかし後日メモリーから写真を吸い出すと、カメラが最後に捉えた写真がちゃんと残っていた。それはもう見事に飛んでいる写真が。そしてこれが僕のデジカメの最後の仕事となったわけだ。グッジョブ、そしてありがとう、僕のデジカメ。
いい趣味を見つけました
カイトを習得して風と戯れようという今回の企画、デジカメを失ったけどそれ以上に得たものも多かったと思います。ポイも回せるようになったしね。
どうでしょう次の週末あたり、晴れたら凧揚げでも楽しんでみませんか。
※カイトは人のいない場所で飛ばしましょう。それからデジカメを乗せたのは金城さんが上級者だからです。普通の人は危ないのでやめましょう。