川崎フロンターレの選手、腕組みの左右が年によって入れ替わる理由を探る

デイリーポータルZ

※選手の写真は、川崎フロンターレ公式の許可を得て掲載しています

腕を組むとき、右腕が上になる人もいれば、左腕が上になる人もいる。
どちらにせよ、「だいたいいつもはこっちが上」と決まってる人がほとんどだろう。

ところが、年によってそれがブレる人物がいるのだ。川崎フロンターレに。

【2019】腕組みリーグ開幕

川崎市には、Jリーガーの腕組みを無料で鑑賞できるスポットがあるのをご存じだろうか。

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商業施設「マルイファミリー溝口」と「ノクティプラザ」

それは、マルイファミリー溝口(みぞのくち)の連絡通路だ。

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2022年3月撮影

ここは川崎フロンターレの特設コーナー。選手の写真や等身大パネルが展示されている回廊だ。フロンターレファンには高揚感を、ライバルチームのファンには緊張感をもたらす空間である。

このコーナーが気になり始めたのは3年前、2019年のことだった。急で申し訳ないがタイムスリップさせて頂きたい。

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2019年6月撮影。これは一部であり、全体では30人の選手が載っている

当時在籍していた選手の写真がずらりと並ぶ。
ここで私は、選手の腕組みが2種類あることに気づいてしまった。

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谷口選手は「右腕が上」
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登里選手は「左腕が上」

写真が載っていた選手30人のうち、「右腕が上」は13人、「左腕が上」は17人だった。
おそらく、撮影の際に「腕組みをすること」は全体で取り決めがあったんだろう。だが、左右どっちの腕を上にするかはどうやって決めたんだろうか?そこに何らかの法則はあるんだろうか?

手始めに、選手のポジションごとに腕組みを分類してみた。

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今明かされる、フロンターレの腕組みフォーメーション

DFは右と左が半々。GKは全員左腕が上。法則らしきものは見出せない。

ならば、血液型とか出身地とか、もっとパーソナルな情報で決まっているのではないか?
幸いなことに、フロンターレの公式サイトでは選手のプロフィールが詳しく紹介されている。今「詳しく」と聞いて皆さんが想像した詳しさの10倍詳しく紹介されている。

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公式サイトからほんの一部を抜粋

生年月日、身長、体重などは序の口で、
・サッカーを始めたきっかけ
・子どもの頃に一生懸命やったトレーニング
・好きな芸能人
・朝食はご飯派? パン派?
など、項目数は実に200を超える。いにしえのインターネットで流行ったバトンのようだ。
これだけ材料があるなら、きっと腕組みを分ける秘密が隠れているはず!

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プロフィールをまとめた長大なExcel

夜空に星座を探すような心境で、膨大なリストを丹念に眺める。
あきらめずに観察すれば、腕組みにつながる手がかりが……

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挫折

見つからなかった。
もし、ルールを発見できれば紫綬褒章も視野に入る偉業だったのだが、私の分析力では「ご飯派が多いんだな」ぐらいの感想が精一杯だった。

【2020~2021】腕組みリーグ異変

紫綬褒章を惜しくも逃した年が明け、再びマルイを訪れた。

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2020年3月撮影。写真はシーズンごとに新しくなっているようだ

私はなんとなく、前年の写真と見比べていただけなのだ。GK・ソンリョン選手に異変が起きていることなど予想できただろうか。
ソンリョン選手の比較をご覧頂こう。

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ソンリョン選手の腕組みが変わっている!

説明なき路線変更。しかも、こんな変化が起きているのはチーム内でソンリョン選手だけなのだ。
いったい彼に何があったんだろうか? たけのこ派がきのこ派に鞍替えするかのような一大決心をしたはずだ。

これほど気になる振る舞いを見てしまっては、調査を止めるわけにはいかない。光陰は矢の如く過ぎて2021年。

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2021年4月撮影。調査は3年目に突入

この年も、ソンリョン選手の腕組みは「右腕が上」だった。

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ソンリョン選手の腕組み史

「右腕が上」に変わった2020年、フロンターレはJ1リーグ優勝を果たしている。もしかして「右を上にしたら優勝できたから2021年もこっちでいこう」という判断なのだろうか。サッカーってそんなスポーツだったっけ?

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【2022】腕組みリーグ閉幕危機

2021年もJ1リーグ優勝を飾ったフロンターレ。まさか腕組みの効果ではあるまいな、と冷や汗をかきつつ、今年も私はソンリョン選手のチェックに向かう。

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2022年3月撮影

しかし、今年の展開はひと味違っていた。

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4年目にして予想外の事態

なんと、腕組みがフレームアウトしていて見えない!
どうした、ソンリョン選手。謎を残したまま歴史に終止符を打つつもりなのか。
いや、一流のスポーツ選手がそんな中途半端な決着を許すはずはない。何か意図があるはず……

なるほど。言わんとしていることはわかったぞ。

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来たよ!

直接その目で確かめろ、ってことだな。

真実は現場にある

2022年3月12日、川崎フロンターレ vs 名古屋グランパス戦。

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試合前に水を撒いているグラウンド

呼ばれた気がしてやって来た。
サッカーの試合中、選手が腕組みをする機会があるかどうかはわからない。だが、もしその瞬間を激写できれば動かぬ証拠になるはずだ。この目でソンリョン選手の生腕組みをとらえよう。

……と意気込んでいたら、試合が始まる前に答えがわかってしまった。
それはキックオフの直前に流れる、フロンターレのスタメン発表。

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スターティングイレブン、と読む。かっこいい。

選手が一人ずつスタイリッシュな映像で紹介されるのだが、その冒頭。

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「1番! ゴールキーパー……」
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「チョン ソンリョン!」

あっ!

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左だああああああああ!

2022年の腕組みは、新作ゲームのPVみたいな豪華さで公開された。そうか、マルイで隠していたのはこれを見せるためだったのか。小説のようにあざやかな伏線回収だ。

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ソンリョン選手の腕組み史(NEW!)

こうして歴史に刻まれた1ページは、2年ぶりに「左腕が上」のフォームに戻ったことを示していた。腕組みを変えるだけでは優勝できない、と初心に帰る決意だろうか。それとも、優勝と腕組みは元々無関係だったんだろうか。

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パスを出すソンリョン選手

ちなみに、試合中もソンリョン選手の動きにずっと注目していたのだが、一度たりとも腕組みをすることはなかった。サッカー選手の腕組みは貴重なのだ。

結局、なぜ腕組みを変えてるのか?

スタジアムでの取材によって、調査の打ち切りは回避できた。だが、最大の疑問である「ソンリョン選手の腕組みがブレる理由」は不明のままだ。
これはもう、公式にあたるしかないだろう。

デイリーポータルZ編集部を通して川崎フロンターレの広報に質問したところ、有難いことにソンリョン選手ご本人に確認して頂けた。その回答がこちらだ。

「ソンリョン選手の撮影時の腕組みに関して、特にこだわりがあるわけではなく意識もしていないとのことでしたが、強いて言えば撮影時に着用しているグローブのデザインに合わせて、手の位置を変えているようです。(右手を出した方がグローブのデザインが見やすいなど)」

つまり、腕組みは何かしらのジンクスを信じて変えているのではなく、写真映えを意識してのことだったのだ。グローブをはめるゴールキーパーならではの事情である。

4年にわたる調査と公式の証言によって、ゆるぎない結論が得られた。発表しよう。

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サッカーはそんなスポーツではないのだ!

これからもソンリョン選手には、紫綬褒章を授与されるぐらいの活躍を期待したい。

スタジアムでサッカーを観戦したのは初めてである。フィールドからはかなり離れた席だったのだが、観客席の一体感を存分に味わうことができた。家の中では体験できないリアルな空気を吸い込んだ気分だ。また行ってみたい。

なお、試合は1-0でフロンターレが勝利した。やったね。

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ふろん太くんと筆者。下から強烈なライトで照らされてて少々怖かった

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