AR の利用拡大は、本格的に進んでいるのか:スナップは注力分野の AR で生き残りを目指す

DIGIDAY

スナップ(Snap)はこれまで、ソーシャル界での競争において、大きく遅れを取っていた。だが同プラットフォームは現在、以前から一貫して注力してきた分野のARにフォーカスすることで、事業強化を狙っている。一部の識者はこれについて、「ARという没入型のコンテンツならば、若いオーディエンスとの繋がりを維持し、従来のソーシャルメディア広告の枠を越えて行く力になりうる」と指摘する。

近年、スナップはAR分野へのフォーカスを一段と高めてきた。だが本当に、AR要素を自社プラットフォームに加えることが、競争の激しい先の見えないこの業界で成長を続ける一助になるのか? それこそが、同社が今まさに直面している疑問だ。

ARへの注力は「必要不可欠」

ARへの方向転換はおそらく、スナップにとって必要不可欠なことだ。それは低迷するソーシャルメディア事業の多様化に、踏み切らざるを得なくなったFacebookやインスタグラムの親会社メタ(Meta)の状況と似ている。加えて、同社だけでなく業界全体にとっても、状況は困難という事実もある。2022年、スナップは配信大手Netflixに引き抜かれ、広告事業の鍵を握る幹部を失った。その元幹部らが現在、Netflixの広告事業を牽引している一方、スナップは再建策の一環として従業員の2割を解雇した。

だが現在、人々を魅了するARの使用法は拡大を続けており、これを上手く利用すれば、スナップが再成長を遂げるための道を敷けると、複数の専門家は断言する。実際、一部のマーケター勢はARをメタバースの窓口として試しており、これには若いオーディエンスを引き込む力がある。また、こうした類の機能を素早く提供およびアップデートできる力がスナップにはあり、それを活用すれば競合他社を上回る魅力を高めることも可能だと、専門家らは指摘する。

「混沌に苛まれているソーシャル界において、スナップは常に安定した、頼りになるパートナーであり続けている」と、データドリブンメディアエージェンシーのゲイル(GALE)でチーフイノベーションオフィサーを務めるベン・ジェームズ氏は話す。「この業界では確かに、キラキラと輝く新しいものがもてはやされ、安定は必ずしも評価されないが、スナップのARに対するフォーカスは同社を競合他社と一線を画する存在にしている」。

ライバルの苦境はチャンスとなるが

経済の不透明感と広告セクターの低調を受け、ソーシャルメディア界の大手勢でさえ創業以来初の収益減に見舞われるなか、スナップは同業他社の一部を上回る業績を上げ、アドポータルで着実な成長を見せた。たとえば、同社は前四半期の10月、Twitterのトラフィックが減少するなか、アドポータルへのトラフィックを増やし始めた。

具体的にいうと、インテリジェンスプラットフォームのシミラーウェブ(Similarweb)によれば、プラットフォーム上の動きとは異なるTwitterのアドポータルのトラフィックは、2022年10月、前年比19%減だった一方、スナップのアドポータルへのトラフィックは前年比47%増だった。また、スナップのアドバイイング用サブドメインも2022年10月、テスラのトップであるイーロン・マスク氏がTwitterの乗っ取りに勤しむなか、163%増を記録した。

TikTokは米政府当局による規制に動きがあり、メタのアプリにおけるユーザー数の伸びは停滞し、Twitterはマスク氏による買収によって未来が不透明になるなか、スナップにはそうしたライバルたちの苦境を自らのチャンスに変えられる可能性もある。2022年第3四半期の決算報告によれば、スナップの収益は前年比5.7%と微増の計11億3000万ドル(約1469億円)を記録し、デイリーアクティブユーザー数は前年比19%増の3億6300万人だった。ただし、たとえスナップがAR分野のリーダーとして競合他社との差別化を図るとしても、その投資を回収できるのは、まだ何年も先の話だと思われる。

広告面における成長の潜在力

とはいえ、あるエージェンシー幹部が説明したとおり、ARには若年層ユーザーを惹きつけ、ブランド勢に違った形のソーシャル広告を試させる潜在力がある。「そうした経験を作り出せるスナップの潜在力は、さまざまな商業利用性と併せて若いオーディエンスにとっての価値を付与する、ほかとは異なる手だてを与えてくれるはずだ」と、スタグウェル・ブランド・パフォーマンス・ネットワーク(Stagwell Brand Performance Network)のグローバルチーフエグゼクティブであるジェームズ・タウンゼント氏は話す。

加えて、一部のARコンテンツは、ほかの形態の広告よりも優位性を持ちうると、パフォーマンスマーケティングエージェンシーのジャーニー・ファーザー(Journey Further)でチーフストラテジーオフィサーを務めるジェームズ・アデルストーン氏は指摘する。

「ARの利用では通常、そのブランドあるいはブランドを象徴するアセットが体験を通して常に存在するという形態が一般的であり、だからこそ、優れたAR広告には、たとえば静的ソーシャル広告やデジタルディスプレイといった、注目度がとりわけ低く、ブランド想起度が低いものをはるかに上回る、有意な優位性をもたらせる」と、アデルストーン氏はいう。

スナップは今回、コメントの要請に応じなかった。ただ、同社は2022年12月、「自社のユーザーがAR体験を試す回数は、1日当たり平均計60億回に上る」と発言している。

エンターテイメントを越えるARの潜在力

ARの機能は、その大半が現在、エンターテイメント目的で、たとえば外見を変えたり、新たなファッションアイテムを試したりすることに利用されているが、ビジネス利用の余地はまだまだあると、専門家らは話す。ジャーニー・ファーザーのエグゼクティブクリエイティブディレクターであるベン・ダッカー氏は、スナップのAR機能は「たとえば、スナップがソーシャルコマースにフォーカスする力も付与できる」と話す。

「家具や服が届いてみたら、ウェブサイトのイメージとは似ても似つかない代物だったという経験は、誰もがしていると思う」とダッカー氏は述べ、「このスペースにおけるARの未来力は莫大であり、ワクワク感に満ちている。きっと、斬新な商品広告技術をもたらしてくれるに違いない。カタログ写真の時代は、もはや過去のものだ」と期待を込めている。

アデルストーン氏は、「スナップはいまのところ、メタが有するアプリやGoogleなどのような標準的マーケティングミックスの一部ではないが、近い将来、より大きな予算を惹きつける存在になりうる」と語る。

「いま現在、スナップとARは人目を引くことが第一のトップオブファネル認知用と見られているが、プロダクトとしてのボトムオブファネル活動用への移行が今後、さらに進んでいくだろう」とアデルストーン氏は話す。

その点においてスナップの有利に働くのが、ARと触れ合うユーザー行動がすでに「スナップでは本格的に起きている」という事実だと、あるエージェンシー幹部は話す。「今後、さらに多くのブランドがARをソーシャルにおいてだけでなく、より広範なマーケティング計画の一環として採り入れていく図が予想できる。2023年度は、そこがスナップの成功の鍵を握ることになるだろう」。

スナップは2022年、世界中の30万人を越えるクリエーターおよび開発チームが約300万種のARレンズを創造したと発表した。レンズとは、同プラットフォームにおけるAR体験の総称であり、それにはゲームやショッピングをはじめ、さまざまなインタラクティブコンテンツが含まれる。スナップはさらに、さまざまなデジタルグッズやARアイテムおよびツールを利用したレンズ開発についても、クリエーターおよび開発者からなる小集団と実験を続けており、それらは将来的に、いくつか厳選した市場への投入が計画されている。

[原文:Can Snap make it as an AR company?

Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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