「人口が多すぎるから食糧生産が追いつかない」ことが世界的な飢餓の理由ではない

GIGAZINE
2022年05月07日 09時00分



国連によると、2020年には世界中の3人に1人が十分な食糧を手に入れることができず、世界中で7億2000万~8億1100万人が飢餓に直面したと推定されています。飢餓がなくならない理由については、「地球の全人口をまかなえるほどの食糧が生産されていないから」だという説もありますが、カナダのブリティッシュコロンビア大学の上級講師を務めるGisèle Yasmeen氏は、「人口が多すぎるから食糧不足になっているのではなく、根本原因は別にある」と解説しています。

‘Too many people, not enough food’ isn’t the cause of hunger and food insecurity
https://theconversation.com/too-many-people-not-enough-food-isnt-the-cause-of-hunger-and-food-insecurity-179168

飢餓による栄養失調は、特にアフリカやアジア、南アメリカ、カリブ海地域などで深刻です。近年では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックや気候変動により食糧不足が急増したほか、小麦やトウモロコシなどの輸出大国であるロシアとウクライナの戦争も食糧不足に拍車をかける要因となっています。

多くの人々は飢餓の理由について、「地球にはあまりにも多くの人が住んでおり、十分な食糧が生産できていないから」だと考えがちです。これは18世紀に経済学者のトーマス・マルサスが予想したことに端を発する思想であり、記事作成時点でも広く信じられています。しかしYasmeen氏は、「この信念は飢餓と栄養失調の根本原因に取り組むことから私たちを遠ざけます」と述べ、飢餓には別の理由があると主張しています。


Yasmeen氏が指摘する飢餓の根本原因は「不平等と武力紛争」です。「世界はすべての男性・女性・子どもに1日あたり2300kcal以上を供給するのに十分な食糧を生産しています。しかし、階級・性別・人種・植民地主義の影響により構成される貧困と不平等が、地球の恵みへの不平等なアクセスをもたらしました」とYasmeen氏は述べています。

「一体なぜ、十分な食糧が生産されているのに飢餓が発生してしまうのか?」という疑問に対し、Yasmeen氏は「世界の作物生産の半分はサトウキビ・トウモロコシ・小麦・米で構成されており、その多くは甘味料やその他の高カロリーで低栄養価の製品に使用されたり工業的に生産される食肉の飼料やバイオ燃料、植物油などに使われています。世界の食糧システムは、砂糖・塩・脂肪・人工着色料・防腐剤を含む超加工食品を製造する一握りの多国籍企業によって管理されているのです」と回答。つまり、生産された食物の多くは先進国で消費される嗜好(しこう)品の製造に使われ、飢餓に直面する人々に行き渡らないというわけです。

経済的不平等が飢餓を引き起こすという仮説については、アジア初のノーベル経済学賞受賞者であるアマルティア・セン氏によるベンガル飢饉研究でも、「単なる食糧不足ではなく食糧を買うお金がなかったために数百万人が餓死した」と指摘されています。Yasmeen氏は、「食糧は水と同様の権利であり、公共政策はこの考えに基づくであるべきです。残念ながら土地と所得の偏在は依然として激しく、富裕国でさえ食糧不足に陥ることがあります」と述べました。


また、飢餓は武力紛争によって悪化することもわかっています。ソマリアなどの食糧不安が最も大きい国は戦争によって荒廃しており、栄養不足の人々の半数以上、そして発育不良の子どもたちの80%近くが、何らかの紛争や暴力に悩まされている国々に住んでいるとのこと。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、45のアフリカ諸国や後発の発展途上国が小麦の3分の1以上をロシアやウクライナから輸入していることから、両国の戦争によってこれらの国々が「飢餓のハリケーン」にさらされていると警告しています。また、国連世界食糧計画(WFP)も戦争による食糧価格の高騰を受け、活動に支障が出ていると報告しています。Yasmeen氏は、食糧不安に対処するには各地域が「食糧主権」を確立する必要があると指摘した上で、武力紛争を回避するための外交投資を行うべきだと訴えました。

さらに、近年の気候変動や農薬使用による益虫の減少、土壌汚染なども作物生産に悪影響を与えているほか、生産された食品の多くが廃棄されていることもYasmeen氏は指摘。たとえば、日本だけでも食品が捨てられてしまう「食品ロス」の量が年間約570万トンも生じており、人口1人当たりの食品ロス量は年間約45キログラムに達しています。世界全体の食糧廃棄量は年間約13億トンだそうで、人の消費のために生産された食糧のおよそ3分の1が廃棄されていると推定されています


Yasmeen氏は、「貧困と体系的な不平等は、武力紛争と同様に食糧不安の根本原因です。世界の人々を養うための議論において、この考えを中心に据えることが重要です」と訴えました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました