三菱地所は3月30日、新たなスタートアップ投資ファンド「BRICKS FUND TOKYO by Mitsubishi Estate」(BRICKS FUND TOKYO)を開始すると発表した。社会課題の解決や産業構造の転換をテーマに中長期スパンで取り組んでいく。今後5年間で国内外のスタートアップに100億円程度を出資していく計画。スタートアップの技術やサービスの社会実装をサポートし、成長産業の共創を目指す。
スタートアップ投資ファンド「BRICKS FUND TOKYO by Mitsubishi Estate」
三菱地所では、アクセラレータープログラムのほか、スタートアップ向け施設やイノベーション拠点の整備など、2016年から累計約200億円をスタートアップやベンチャーキャピタルなどに対し出資してきた実績を持つ。その多くが既存事業とのシナジー創出を目的としてきた。
今までの出資実績に対し、BRICKS FUND TOKYOは次世代を見据えた新ファンドであることが特徴。三菱地所 新事業創造部の橋本雄太氏は「短期的なシナジー創出や協業は前提とせず、中長期視点で社会課題の解決や新しい産業の創出を実現し、2030年代に向けたビジネスモデル革新につなげていくことが目標。そのためご一緒させていただくスタートアップも三菱地所の既存事業の周辺領域に限らず、今までアプローチできていない成長領域、私たちが探索しきれていない部分にフォーカスしていくことを考えている」と幅広く捉える。
スタートアップ投資ファンド「BRICKS FUND TOKYO by Mitsubishi Estate」を手掛ける三菱地所のチームメンバー
三菱地所 新事業創造部副主事の橋本雄太氏
投資テーマは「新たなライフスタイル」「既存産業のパラダイムシフト」「サステナビリティ」の3つ。注目領域はコマース、サイバーセキュリティ、ヘルスケア、脱炭素など12に及ぶ。対象になるのは、アーリーステージを中心にミドル、レイターステージまで。数千万円から5億円ほどのチケットサイズを想定しており、追加出資も検討する。
テーマと注力領域
新たな投資領域に踏み入れた背景には、三菱地所が2016年から構築してきたスタートアップエコシステムが有機的に機能している点が大きい。「これまでに30社以上のスタートアップに出資し、協業やジョイントベンチャーの設立などを実現してきた。それにより、共創のノウハウや社会実装するための経験値も蓄積されてきている。ビジネスモデル革新に向けて次に何をすべきか考えた時に、時間軸の長い取り組みや領域にもチャレンジすべきではないかと考えた」(橋本氏)と理由を明かす。
そこには「スタートアップに選ばれ続ける企業でありたい」という思いも込める。「国内のスタートアップ投資額が過去最高となり、CVCも連日のように設立されている中で競争環境は厳しい。BRICKS FUND TOKYOは、投資先の事業成長にしっかりと貢献していくことでスタートアップから信頼され、選ばれるファンドになることを目指している。これまでの直接投資とは行動原理も求められるスキルも異なるため、新たなスキームとして立ち上げることで、専門性や継続性を担保し、対外的にも立ち位置を明確にした」(橋本氏)と出発点から見つめ直した。
三菱地所のスタートアップエコシステム
幅広い領域にリーチしていくため、独立系ベンチャーキャピタルのプライムパートナーズとも手を組む。「電通ベンチャーズの運営などで実績を持つプライムパートナーズと共同運営することで、三菱地所だけでは難しかったスタートアップにもアプローチしていけると考えている。海外にも強いネットワークを持っているVCなので、海外スタートアップにも積極的に投資していきたい」(橋本氏)と期待を寄せる。
ファンド名のBRICKS FUND TOKYOは、明治期より日本の産業発展を支えてきた東京・丸の内を想起させるBRICKS(レンガ)をモチーフに名付けたとのこと。「三菱地所の源流は1894年に建設した洋風建築オフィスの『三菱一号館』。世界有数のビジネス街である丸の内の開発を通じ、日本の産業発展を不動産業としてサポートしてきたという歴史を持つ。そうした歴史も鑑みて、スタートアップへの投資活動を通じて成長産業の創出に貢献することが使命だと考えている」(橋本氏)と思いを明かす。
三菱地所が、スタートアップエコシステムに対する出資総額は、国内外のベンチャーキャピタルへの投資などと併せ、 2020年代半ばまでに累計500億円(コミットメント分含む)となる見込みだ。橋本氏は「三菱地所が持つ大手企業やベンチャーキャピタルなどとの豊富なネットワークや様々な事業を通じた顧客接点、丸の内などのエリアを活用しての実証実験だったりと、スタートアップを支援できるメニューは幅広い。BRICKS FUND TOKYOを通じて、日本のスタートアップエコシステムの発展に貢献していきたい」と今後について話した。