大きめ有機ELの2-in-1ならこれ。HP Spectre x360 16レビュー

GIZMODO

Appleシリコン搭載MacBookをいつ買うかが悩ましい今日この頃ですが、WindowsのノートPCも日々進化を続けています。米GizmodoのWindows派、Phillip Tracy記者がHP Spectre x360 16をしばらく使ってレビューしてますので、大きめのWindowsノートPCを検討中の方、どうぞご覧ください!


HP Spectreほどレビューが楽しみなノートPCはなかなかない、って言うと、えぇぇ?って人もいるでしょうね。でも、MacBookはみんな大好き、Dell XPSは超スマート、Lenovoはウンザリするくらいだいたい同じ、そんな中で、HPのフラッグシップほど見た目的に刺激があるものはないんです。

HPが今までで最大となる16インチモデルをローンチしたので数週間使ってみたんですが、これはベストなウルトラポータブルPCのひとつとして、世にある14インチモデルとだって競合できると感じます。

HP Spectre x360 16は、今は亡きSpectre x360 15の後継で、ラグジュアリーなデザインに目が垂涎の有機ELディスプレイ、素晴らしいキーボードとタッチパッドがあります。パフォーマンスはクラス最速ではありませんが、RTX 3050 GPUがグラフィックスにパンチを与えてます。大きな画面のノートPC、とくにタブレットとのハイブリッドがほしい人で、最高のパワーにはこだわらない人なら、Spectre x360 16にはキュンとくるはずです。

HP Spectre x360 16

有機EL搭載の魅力的なハイブリッドマシン、大画面の2-in-1が欲しい人にはベストチョイス。

これは何?:16インチのコンバーチブルノートPCで、有機ELディスプレイのオプションあり。

価格:1,249ドル(約15万円)から、レビュー機は2,120ドル(約25万7000円)/日本未発売

好きなところ:美麗な16インチ4K有機ELディスプレイ、素敵なデザイン、一級のキーボードとタッチパッド、RTX 3050 GPU、Webカムが衝撃的に良い。

好きじゃないところ:大画面のライバルはもっと高パフォーマンス、バッテリーライフは予想通り普通、タブレットとして使いにくい。

使えるラグジュアリー

こいつのレビューをするときは、スーツを着てなきゃいけない感じがしちゃいます。Spectre x360 16のデザインは、コロナ時代の僕のカジュアルすぎる服装とはくっきりとコントラストをなしてます。フタを開けるたび、ジャージでランボルギーニに乗り込むような気分です。Spectre x360 16はほんとに、ラグジュアリーなデザイナーが作っててもおかしくないかもしれません。

ぱっと見てすぐ、先代の15インチモデルと違って、エッジが丸みを帯びてよりソフトな印象になったのがわかります。ただ僕としては、宝石みたいなくっきりした前のモデルのシャープさも好きだったんですけどね。それでもダイヤモンドみたいな角度にカットされた独特のコーナーのデザインは健在ですが、今はそのコーナーもちょっと丸っこくなってます。

もうひとつSpectreに特徴的なのは、マシンのすべての要素をなぞるゴールドのラインです。クロームがフタのエッジに輝き、パームレストを取り囲み、タッチパッドの枠を飾り、ヒンジまで挟み込んでいます。その輝きは、「Nightfall Black」モデルのダークグレーと良いコントラストを作っています。でも僕の好きな色は「Nocturne Blue」で、こっちはもっとアクセントがライトな、スティールブルーです。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

ビルドクオリティも良いです。Spectreのアルミの筐体は、上のカバーをそっと押しても最小限のたわみしかなく、ツインのヒンジは画面を叩いてるときでもグラつきを抑えてます。でも、多少の揺れはありました。大きなノートPCをコンバーチブルにするにあたって、多少の妥協があったんですね。細かいことですが、本みたいに「背表紙」の部分を持ったときには、画面部分と本体部分が微妙に内向きにしなりました。

Spectre x360 16は2-in-1マシン、つまりタブレットにもなるし、動画視聴のときは画面を外向きにしてテントモードもできます。ただし、数分以上手に持ち続けると、次の日腕が筋肉痛になります。サイズは14.1 x 9.7 x 0.78インチ(約35.8 x 24.6 x 0.2 cm)で重量は4.5ポンド(約2.0kg)、重いです。タブレットほどの持ち運びやすさはないので、タブレットモードで使うとしても、据え置きのモニターとして使うか、ひざや机の上でスタイラス使ってお絵かきパッドにするか、が適してます。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

あ、それでスタイラスも、スリーブも同梱されてます。箱に入ってるのはリチャージャブルなMPP 2.0ペンで、ティルト機能搭載ですが、そんなに華々しいものじゃありません。素材はプラスチックで、手の中ではHBの鉛筆みたいな感じ、ボタンが2つ付いてて機能をカスタマイズできます。

ペンのボディをスライドさせるとUSB-Cの充電ポートが現れ、充電中はキャップ周りのリングがオレンジに、充電完了時は白に光ります。使った後はSpectreのフタの右側に磁石でくっつきます。安定はしてないですが、クッションの下に入り込むよりは何だってマシです。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

Spectreですごく良いと思うのは、スタイルが機能を邪魔しないことです。このカテゴリのほとんどのノートPCと違い、Spectre x360 16にはポートがたくさんあります。左側にはHDMI 2.0、ドロップヒンジのUSB-A、ヘッドホン・マイクジャックがあり、反対側にはThunderbolt 4ポートx2と電源ジャックです。良い取り合わせですが、欲を言えばUSB-Cポート2つは右と左に振り分けてくれるともっと良かったと思います。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

家で仕事したり会社に行ったりの、ハイブリッドな仕事環境をよく考えてくれたんだなって機能もあります。

Webカムを止める専用スイッチとかミュートキーは、パンツ1枚でZoomに出なきゃいけないときには神の贈り物です。指紋センサーと赤外線カメラがあることでパスワード要らずになり、ログインが一瞬で可能になりました。500万画素の赤外線Webカメラはショック受けるくらいちゃんとしてます。HPの競合(というかApple)には、注目してほしいとこです。最後に、Bang & Olufsenがチューンしたクアッドスピーカーは大きくクリアな音を(多少薄い感じがしても)出せます。

有機ELの美しさ

筐体の美しさに釣り合うように、16インチ4K+(3840 x 2400)の有機ELタッチスクリーンは、今ある中でのベストのひとつです。色は画面から飛び出し、僕の4K・IPSモニターも、Spectre x360 16の隣では見劣りしてしまいます。映画やTVに限らず、すべてがこのパネルではよりきれいだし、Windows 11のデザイン言語・Fluentも改めて美しく感じられました。鮮やかな色が透明な背景から飛び出し、新鮮なデザインの壁紙がこの画面では生き生きと見えます。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

ロード・オブ・ザ・リングのスピンオフ・『The Rings of Power』の予告動画を見てもAmazon Primeを見る気にはなりませんでしたが、このパネルのおかげで目にはうれしかったです。本当に絵がシャープで、登場人物の鎖かたびらのひとつひとつのチェーンが見え、色もつややかで映画館のようでした。

興味深かったのは白い背景のとき、タテのピクセルレイヤーにより、パネルにテクスチャーが付いてるように見えたことです。この画面がもっと均一で紙みたいな質感だったらよかったと思うんですが、しばらく経つと気にならなくなりました。

バッテリーの消耗が激しくなるのは有機ELディスプレイの宿命ですが、もう一つよく言われる欠点は、明るさ不足です。幸いSpectre x360 16のパネルはそうでもなくて、僕のテストでは386ニトに達しました。米テキサス州の明るい日光の下でも、はっきり見えました。ただ覚えておくべきは、ツヤのあるパネルなので反射があるということと、最大リフレッシュレートは60Hzなので、最高に滑らかな動きを求めるゲーマーには残念ってことです。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

あとは焼き付きについても触れときますね。まず有機ELパネルの焼き付き問題は本当に、問題です。僕のTVに永久に刻まれた「LG」のロゴがその証拠です。HPはSpectreの有機ELパネルに関しては、ベンダーが提供するパネルのクオリティと、PCのオンオフサイクル以外には、特別な焼き付き防止対策はしてないと言ってました。なので僕は静的なコンテンツを表示しっぱなしにしないことと、スリープ設定を有効にしておくことに気をつけてました。

極上キーボードとタッチパッド

Spectre x360 16の有機ELディスプレイは、キーボードに美しい色を投げかけます。バックライト式のキーは大きく、クリック感があり、キー間もしっかり確保してあります。大きくて細いフォントと、キーキャップの色がパームレストに合わせてあることも良いですね。オンラインタイピングテストでは、毎分120ワードで自分の平均を上回ることができ、エラー率は4%でした。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

滑らかで反応の良いタッチパッドは前より39%大きくなり、HP製品の中だけじゃなく、PC全体でも神の領域です。僕のあぶなっかしいスワイプも正確にトラッキングし、意図した通りにカーソルをパネル中に移動させ、Windows 11のジェスチャーも一発で実行できました。

伸び悩むCPU、有能なGPU

Spectre x360 16はスピーディですが、ちょっと「※」が付きます。レビュー機はCPUがIntel第11世代Core i7-11390H、RAMは16GBでした。このCPUは2021年中旬、Tiger Lake H35シリーズのリフレッシュ版としてひっそりとリリースされたもので、今Intelが第12世代を出してしまったのでひとつ前の世代になります。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

H35シリーズの一部であるCore i7-11390HはTDP(熱設計電力)が35W、つまりUシリーズとHシリーズの間のどこかに位置します。この4コアCPUには、Dell XPS 15とかLenovo ThinkPad X1 Extremeみたいな高性能15インチPCみたいなパワーはありません。

それでもSpectre x360は、ほとんどのユーザーには十分にパワフルです。Chromeのタブを何十枚か開いても問題なかったし、Affinity Photosで大きなファイルをいくつかエクスポートしても、バックグラウンドでいくつかプロセスを動かしつつライブ動画をストリーミングしても大丈夫でした。GPUはRTX 3050で、Spectre x360は1080pでゲームもできます。ただしRTX 3050 は今のRTXの中で一番ローエンドのGPUで、それでも僕が持ってるノートPCのIris Xeよりはるかにベターです。『Halo: Infinite』をミディアム設定で数時間、スロットリングやオーバーヒートなしでプレイできるに十分な馬力でした。

Spectre x360 16のパフォーマンスの上限をベンチマークで測ってみました。全体的なテストのGeekbench 5.4では、Spectre x360 16はマルチコアで4,441、シングルコアで1,405という結果でした。これはSurface Laptop Studio(5,817、1,473)やMacBook Pro 14(12,663、1,777)には全然かなわないし、Thinkpad X1 Titanium Yoga(4,767、1,329)にまで負けてました。

Spectre x360 16のCore i7-11390H CPUは、Blenderでの3D画像レンダリングには11分25秒かかりましたが、Surface Laptop Studioでは同じことが7分7秒、MacBook Proではたった3分21秒でした。Surface Pro 8だって8分以下でしたが、Thinkpad X1 Titanium Yogaでは11分38秒かかりました。

HandBrakeアプリで4K動画を1080pに変換するテストでは、Spectre x360 16では5分48秒かかりました。これは唯一良い結果で、Surface Laptop Studioは8分30秒、Samsung Galaxy Book Pro 360は12分29秒でした。MacBook Pro 14では4分56秒でしたが、他のテストに比べると差は小さいです。

『Total War: Warhammer II』を1080pでUltra設定でプレイしたときは、フレームレートは毎秒43フレームで、少なくとも30fpsのベースラインまではまだゆとりがありました。

案の定バッテリーが…

僕はSpectre x360のバッテリーライフにはある意味満足感を覚えています。画面の明るさを200ニトに設定しての動画再生テストでは、8時間48秒で力尽きました。4K有機ELディスプレイのノートPCとしてはそこそこの結果です。ただ、フルHDパネル搭載のマシンに比べると、平均以下です。それでもSpectreは、4K画面=電源から離れられない、というわけじゃないことを示してくれたと言ってもいいでしょう。

こうなると僕はたいてい、画質よりバッテリーライフを重視するなら、フルHDパネルにした方がいいですよと言いがちです。でもSpectre x360に関しては、そう言いきるのがいいかわかりません。というのは、低解像度のオプションが3K(3072 x 1920ピクセル)のIPSパネルなんです。僕はその3Kバージョンを持ってないので、多分4K有機ELディスプレイよりは充電1回あたり若干長持ちするんだろうな、と思うしかありません。でもフルHDとかのパネルみたいに、数時間もバッテリーライフが伸びるかどうかは怪しいと思ってます。なので、180ドル(約2万2000円)の違いで予算を超えちゃうとかじゃない限り、有機ELにしといていいと思います。

で、買うべき?

Spectre x360 16は、ますます混戦を極めるノートPC市場の中でもベターな位置にいるうちのひとつです

その理由のひとつは、大胆な価格です。僕がレビューしたのは2,100ドル(約25万4000円)のモデルでしたが、3K+ディスプレイでCore i7、RAMは16GB、SSDが512GBとまあまあのスペックでも1,639ドル(約20万円)です。この構成は、スリムな筐体に大きなディスプレイがほしい、日常使い目的のユーザーに向いてます。

もっとヘビーなアプリを動かしたい人は、1,859ドル(約22万5000円)ほど払ってRTX 3050搭載モデルにするといいです。Dell XPS 15の4Kディスプレイモデルを見ると、これでもまだまだまともな価格に見えます。

Image: Phillip Tracy – Gizmodo US

Spectre x360 16を競合よりもお勧めすることをためらうのは、競合マシンに比べてパフォーマンスがちょっと心もとないからです。4コアのプロセッサで、Spectreは他の画面大きい系ライバル、MacBook ProやDell XPS、Thinkpad X1 Extremeといったものに水をあけられてます。RTX 3050 GPUをプラスするとそれなりにパワーアップしますが、CPUに負担のかかる仕事をしてるならもっとそれに合ったPCがあります。

とはいえ、アーティストとか学生、デザイナーで、コンバーチブルな柔軟性を求め、パワーよりも画質とサイズにこだわる人なら、Spectre x360 16は欠点のほとんどない夢のマシンです。