原付バイクが走行できる高速道路があった
以前からやっておきたいと思っていたこと「バイクで高速道路を走る」これを叶えてきた。
原付バイクで走れる高速道路
基本的に、原付バイクと呼ばれる排気量125cc以下の小型のバイクは、高速道路(自動車専用道路)などを走ることが禁止されている。うっかり間違えて入って、走っちゃった場合、交通禁止違反ということで、違反切符を切られ、5000円ぐらいの罰金を払うことになってしまう。
しかしながら、一部例外的に原付バイクでも走れる高速道路がいくつかあるらしく、そのひとつが横浜にある。
横浜新道(よこはましんどう)と呼ばれるこの道は、今井インターチェンジと戸塚までの区間が一般道路と同じ扱いとなっているので、125cc以下のバイク、つまり50ccの原付バイクでも、走行することができる。
はい、ここで「タイトル詐欺、高速道路じゃない、ふざけるな」と憤慨された方もいるかもしれない、もうしわけない。
実際「高速道路」という言葉の定義がどんなものなのか、よくわからないけれど、今ここで言う高速道路は、なんだか道案内の看板が緑色で、制限速度が80ぐらいで、お金を払って走る道路。というのを、なんとなく「高速道路」と呼称しているんだなこいつは……程度にお考えください。そしてお読みください。
ややこしい原付バイクの区分
高速道路に乗るため、横浜市保土ヶ谷区の横浜新道今井インターチェンジに向かう。ちなみに、今回高速道路を走る原付バイクは、110ccの原付バイクだ。
原付バイクとひとくくりにいっても、50cc以下の真の原付バイクたる「原付一種」と、51cc〜125ccのちょっとグレードの高い高級原付バイクの「原付二種」のふたつに分かれており、このふたつは幼稚園と高校ぐらいの差がある。
まず、50cc以下の原付一種のバイクだが、これは普通免許(普通免許を取得すると、おまけでついてくる)か、50ccのバイクにだけ乗れる原付免許を取得すれば運転できる。
今はどうかしらないけれど、ぼくが原付免許をとった25年前は、運転免許試験場に行って、スクーターのアクセルをふかして10メートルぐらい動かしたらおしまいの技能教習と、一般常識があれば正解できる学科試験を受けて試験に合格すれば、すぐ免許がもらえた。
ぼくはこの、すぐもらえる免許証を後生だいじに25年過ごしてきたが、去年、普通自動二輪の免許をとるため、バイクの合宿免許にいった。
学科教習を受けていたとき、たぶんぼくより年下の教官が「この中で原付免許持ってる人はいつとりましたか?」と、生徒に聞くシーンがあった。
みんなおそらく17歳とか18歳ぐらいの子供たちで「去年です」とか「2018年です」とか答えるなか、ぼくが「平成7年か、8年……だったかな」と答えた時、教室内がシーンとなって、トタンに落ちる雨粒の音だけが異様にでかく感じられたのが印象的だった。
閑話休題。原付免許だけで乗れる原付一種のバイクは時速30キロまでしか出してはならないことになっており、交差点での右折も、二段階右折という自転車と同じようなめんどくさい曲がり方をしなければいけない。そして、二人乗りは禁止である。
しかし、原付二種のバイクは、スピードを60キロまで出してもよく、二段階右折の制限もなし、二人乗りも(免許取得1年後から)できる。
ただし、原付二種のバイクは原付免許(普通免許も)では乗ることができず、小型限定普通二輪免許(125ccまでのバイクを運転できる免許)を取得するか、それ以上のバイク免許(普通自動二輪か大型自動二輪)をとる必要がある。ややこしいけれど、今はそういうことになっている。
いよいよ原付バイクで高速道路を走る
横浜新道、今井インターチェンジの方に話を戻す。
バイク免許は、路上教習がないので、もちろん高速道路を走る高速教習なんてものもない。そのため、自分が運転(ドライブ)する車(マシン)で高速道路(ハイウェイ)を走るのは、人生ではじめてのことである。46歳になっても、初めての経験ってまだまだあるものだ。
横浜方面から、旧東海道をたどり、途中丘陵地の住宅街を抜けると、視界の上や下にでかい道路が出現しはじめる。高速道路への期待と不安が否が応でも盛り上がる。
環状2号線のでかい陸橋の下をくぐり、大きなカーブを曲がると、いきなり「進入禁止」の標識がデデーンと出現し、心臓が口から出そうになる。
いや待て待て、これは高速の出口だから、誤進入を防止するための標識だよ。と、自分に言い聞かせる。
今あらためてキャプチャ画面をみると進入禁止マークは控えめな大きさだけど、ぼくの心象としてはメガネの両レンズに進入禁止マークがビターンと貼り付いたぐらいのインパクトがあった。
はじめて走る道路は、初見だと勝手がまったくわからず、慌ててしまうことがある。間違えたら、即ゲームオーバーで違反切符と罰金5000円である。怖い、怖すぎる。
でも、逆にスリルがあるといえばある……という感情もある。勝手に手に汗握ってごめんなさい。常に安全第一を心がけ、お先にどうぞという謙虚な姿勢でアクセルをふかしております。
さて、ナビの案内に従って、国際ゴルフ場北側の交差点を左折すると、いよいよ高速道路の入口だ。しかし、高速道路に、どこからどういうふうに進入すればよいのか、まったく情報がない。ナビも地図もそこまで詳しく案内してくれないので、まったく手探りで心細い。
そんななか、橋を渡りきったところにまた進入禁止の看板を発見してしまう。
はい、また口から心臓が飛び出した。本日2回目、今度はさっきよりやばい。助けてください! 誰かー、男の人呼んで!
上の写真を見てほしい。これ、原付バイクがどこに入ったら正解かわかるだろうか? ちなみに、左手には写真に写ってないけれど、こんな看板もある。
125cc以下は通行できないとの看板。え、まってください、話が違う。乗りものニュースの記事でも横浜新道は原付バイク走行可って書いてありましたよ。なに言ってんですか?
錯乱状態のまま、交差点上でぼーっとしていても邪魔なので、エンジンを切り、歩道に退避して周りの状況を確認してみる。こういう時、エンジンを切って押して歩けば、バイクは歩行者扱いになるので便利だ。自動車だとそういうわけにいかない。
情報を整理したい。
横浜新道の原付バイク走行区間は、今井インターチェンジから戸塚までの区間であり、ここ今井インターチェンジから東京方面は、マジの高速道路になるので、125cc以下の原付バイクは通行禁止となっている。つまり、左手にあった「125cc以下……」の通行禁止看板はこのことを言っている。
続いて、正面にあったでかい進入禁止の看板はどういうことか。
進入禁止看板の向きがそれぞれ微妙に違っており、オルタナティブバンドのファーストアルバムっぽいが、こんなふうにみさかいなく進入禁止の看板をとりつけると、どこが進入禁止なのかわかりづらくなってる気もしないでもない。
これはつまり、東京方面から来た車が出てくるところだから、入るんじゃねえぜ、よろしくな! ということを強く主張しているのだろう。
誤進入で逆走されると、重大事故に繋がりかねないので仕方がないことかもしれない。
ということは、この出口の隣にある入口、つまり「小田原方面」と書いてある道に入ればよいのではないか。おい、ここから入れるぞ!
態勢を立て直し、おそるおそる高速入り口の坂道を下る……。え、まって、料金所は? このまま行っていいの? あれ、合流じゃない? え、車走ってる! やばい、マジで高速道路だ!
などと、ひとりで絶叫しつつ(脳内で)、徐々にバイクのスピードを上げる。
いまから25年以上まえ、鳥取で高速バスの車掌係として、毎日鳥取と大阪を往復していた。この仕事は2年していたので800回ぐらい高速道路を通ったことになる。
高速道路を通った回数で言えば、人並み以上にあると自認しているけれど、自分が運転する車で高速道路を走ったのはこれが初めてだ。感慨もひとしおである。
しかも、走行風を直に受けながら走るのも初めてである。若干寒いものの、とても心地よい。
以前、デイリーポータルZ編集部の安藤さんと、オープンカーに乗って木更津まで寿司を食べに行ったことあるけれど、オープンカーは屋根がオープンしていても風はあまり吹き込んでこない構造になっているのに驚いたことがあった。フロントガラスがあるかないかだけで、冬と夏ぐらい違う。
ぼくのバイクには風防をつけていないので、風は容赦なく体にアタックしてくる。これはまさに飛んでいるような感覚にちかい。
高速道路を、荒井由実は滑走路だと形容していたけれど、ほんとうにそうだ。このままグッと体を起こすと、離陸してしまいそうな気もちにちょっとなった。
横浜新道の原付バイクが走れる区間は、4キロほどなので、バイクで4分もかからず、料金所に着いてしまった。
ぼくのバイクにはETCなんて小洒落たものはついていないので、料金は現金で支払う。原付の交通料金、80円。
録画していた映像をみると、料金所のおじさんに、やたら「すいません!」「すいません!」を連発していた。別に違法なことをしているわけでもないけれど、無事に走りきった安堵感からか、つい口をついてでてしまう。こうみえて私、気の小さい男なんです。すいません。
安全運転でスリルを楽しみたい
全裸、あるいは、ズボンをはき忘れた状態で、うっかり外に出てしまい「しまった!」となって、急いでどこかへ行く……という夢をよく見る。このとき、しまったと思いつつも、幾ばくかの解放感やスリルを感じていることも、正直なきもちとしてはある。
遵法精神の欠如ととられてもしかたないかもしれないが、そう思うからそういう夢を見るのだろう。こればっかりはどうしようもない。
現実世界でそんなことをするともちろんダメだが、原付バイクで高速道路を走る。という行為は、それに近い解放感とスリルが味わえる。
普通免許を所持していて、車でしか高速道路を走ったことがないという人は、原付バイクをレンタルして、ぜひここを走ってみてほしい。
おそらく、体験したことのない感情がわいてくると思う。