市場に4つの節目

アゴラ 言論プラットフォーム

3月16日は着目すべき日になるかもしれません。市場には「春と嵐」が同時にやってきているように見えます。「春の嵐」ならよいのですが、春と嵐が意味することとは何でしょうか?

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まず、アメリカの中央銀行に当たるFRBが定例の金融政策会議を行い、事前予想通り0.25%の利上げを決定しました。一部には0.50%の利上げもあるかもしれないと見られた中でパウエル議長は2週間ほど前の議会証言での予告通りに0.25%で収めた、というのが正しい表現かもしれません。

私には今回の利上げは周到な準備があったとみています。それには出来過ぎなほど好タイミングの原油価格下落により過度のインフレリスクというボイスを抑え込んだともいえます。また今年残り6回あるFOMCで毎回利上げするポジションを示しています。インフレの具合により0.50%上げることも否定していませんが、少なくとも当面の指針がたったということで市場はこれを消化しながらポジションを新たに設定していくことになりそうです。

次に中国です。劉鶴副首相が議長となる国務院金融安定発展委員会の会議が現地時間の3月16日に開催され、海外の中国上場企業を支持すること、インターネット関連企業の「是正」への取り組みが間もなく終了することを発表しました。それに歩調を合わせるように中国人民銀行(中国の中央銀行)と銀行保険監督管理委員会が資本市場の安定を発表しました。

以前、私は中国株がバリュエーションを無視するほど安く買い叩かれていると申し上げました。特にこの10日間ぐらいは更に根拠のない噂に翻弄され、米中関係の悪化という理由で中国株がバナナのたたき売り状態になっていました。中国のこの報を受けて北米市場に上場する中国企業の株価はロケット砲のように上昇、アメリカから香港に上場先を移す予定のDIDI(滴滴出行)が40%高をはじめ、長らくいじめられていたアリババなどが暴騰状態になっています。この恩恵を受けるのはソフトバンクGで昨日午後2時半ぐらいから急騰しましたが、同社のバリュエーションは更に大きく変化するとみています。

この中国の発表は極めて重要な指針であるとみています。一つは習近平氏の民間企業への粛清が終わったということでしょう。習氏は秋の党大会に向け、自身の継投を万全なものにするため、経済の安定化を図ることにしたと思われます。また、中国国内でコロナが急拡大していることも踏まえ、経済対策は喫緊の課題であったとも言えます。

三つめはロシアです。戦争そのものの行方は引き続き着目していますが、市場はもう優先度をもって見ていません。停戦もまもなく視野に入ってくると思いますが、この戦い、ロシアにとって何のメリットがあったのかといえばNATOがウクライナを入れないことを確認したことだと思います。このNATOの方針が西側諸国の高い政治的戦略的判断であった可能性は大いにあり、プーチン氏の戦意を失わせたとも言えます。この戦いは、私は一般に語られているようなウクライナの善戦ではなく、双方、負け試合だとみています。

問題は今後のロシアで、厳しい経済制裁のため、1991年のソ連崩壊の再現がないとは言い切れなくなりました。私が「嵐」というのはこれのことで、西側諸国のロシア向けビジネス、投資に多額の損失計上となることで基盤を揺るがすほどのショックが出てくる可能性を懸念しています。またロシアに進出していた西側企業も事業損を計上するはずで、これを相殺できるほどの利益を上げていればよいですが、そうでなければ1-3月の決算が発表される4月下旬から5月に嵐がやってくるかもしれません。

尚、野村総研はロシアの外債の比率がさほど大きくないので98年のLTCMのような危機は起きないだろうと分析しています。しかし、投資家の手の内はふたを開けてみないとわからないのは「ご親戚」の野村證券がアルケゴスで痛い目にあったのを横目で見ていたのですからそれほど楽観する話でもないと思います。

四つ目は原油です。現在ニューヨークのWTI相場で100㌦を切っています。原油相場は市場参加者が少ないため、価格のボラティリティが高く、ウクライナ侵攻、ロシア産原油の輸禁発表で一時130㌦ぐらいまで上げたわけですが、今の水準で一旦足場固めをした後、再びじわっとした上昇基調になるとみています。少なくとも原油相場が安定すれば資源相場全般が落ち着くため、市場全般には安ど感が出るかと思います。

但し、暗雲の話をもう一つ。3月15日付のウォールストリートジャーナル、見出しは「サウジ、中国向け輸出を中国元での取引を検討」であります。記事によれば中国とサウジは元建て取引交渉を過去6年近く機会を見て行ってきたものの、今年に入ってその交渉スピードが高まっているというものです。理由はサウジのアメリカへの不信感でアフガン撤退、イラン核合意関係、イエメン問題を含め、バイデン政権はサウジに向いていないことを相当不満に思っているというのが背景のようです。

原油取引は米ドルの牙城で、かつて他通貨での取引の話が出るたびにアメリカは潰し続けてきました。ただ、今回は止まらない気がします。これは私の直観的な勘ですが、中国元は急速に国際通貨として頭角を現し、10年ぐらいすればユーロを凌駕し、ドルに次ぐ規模になっている公算はあり得ます。中国嫌いの読者の方々はむっとするかもしれませんが、私は私情でものは述べないのでそう言うことが起こりえるということを日本政府と日銀は考えておくべきだと申し上げたいと思います。

大きな節目という意味では個人的にはアメリカはコロナとウクライナ問題をうまく処理しつつあるが、アメリカの威信はまだあるのかという点に絞られます。中国はウクライナ問題をうまく自分に利があるように仕向けました。インドの対ロシアの姿勢は日米豪印の戦略対話のポジションに疑問符を残しました。目先春と嵐、それにまだ暗雲もかかっているようでスカッとしない状況はまだ続くでしょうが、市場はしばし、落ち着くとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月17日の記事より転載させていただきました。