ロシア軍のウクライナ侵攻以来、モスクワやプーチン大統領の出身地サンクトペテルブルクなど各都市で戦争反対、プーチン反対などのデモ抗議が行われてきたが、その度に警察隊が動員され、デモ参加者は即拘束され、連行されていった。外電によると、既に1万5000人のデモ参加者が拘束されたという。ロシア軍のウクライナ侵攻が長期化すれば、ロシア国内のデモが更に行われ、多くの逮捕者が出てくることが予想される。
そのように考えていた矢先、14日夜、ロシアのテレビチャンネル1のメインニュース番組「Vremya」で、放送中の女性アナウンサーの後ろから、1人の女性が「戦争反対」「プロパガンダを止めろ」「彼らはウソをついている」などと書かれたポスターを掲げて登場するというハプニングが生じた。女性はマリーナ・オフシャンニコワさん(TV編集員)だ。ほんの数秒だったが、そのシーンが放映されると、短時間で世界中に広がり、ソーシャルメディアで何百万人もの人々によって共有され、コメントされている。
この44歳のジャーナリストには2人の子供がいる、夫は「ロシア・ツデー」(RT)に勤務しているという。彼女は15日、モスクワ市内で裁判を受け、3万ルーブル(約3万3000円)の罰金刑を科せられて釈放された。その直後、質問する記者たちに答え、「14時間、尋問された」と明らかにしている。彼女は逮捕された後、ほぼ24時間、行方不明だった。
モスクワの複数のメディアによると、今回の罰金刑は最初の1歩に過ぎず、彼女は後日、ウクライナ侵攻に関する偽情報を広げたという理由で、新たに施行された刑法に基づいて最大15年の禁錮刑を受けるのでないか、と懸念されている。ウクライナのゼレンスキー大統領は彼女の勇気を讃えている。フランスのマクロン大統領は、「プーチン大統領との次回の電話会談で彼女の件を話す」と語り、支援を申し出ている。
彼女は拘束される前にメッセージをビデオ録音していた。以下、その内容を紹介する。
「ウクライナで今起こっていることは犯罪です。そしてロシアは侵略者です。そして、この攻撃の責任はウラジーミル・プーチン1人にあります。私の父はウクライナ人で、私の母はロシア人です。彼らは決して敵ではありませんでした。私の首のこの鎖は、ロシアがすぐに殺戮戦争を止めなければならず、私たちの兄弟の人々はまだ和解することができるという象徴のようなものです。近年、残念ながら、私はチャンネル1で働き、クレムリンの宣伝に携わってきました。今はとても恥ずかしいです。ロシア人に偽りを伝えてきたことを恥ずかしく思います。私たちは2014年のクリミア侵攻の時、沈黙しました。クレムリンはナワリヌイ氏を毒殺しようとしました。私たちはこの人間不信の体制を黙って見てきました。今、全世界が私たちに背を向けています。そして、私たちの子孫の10世代は、このフラトリサイド戦争(兄弟戦争)の恥を洗い流すことができなくなります。私たちロシア人は考えることができるし、賢いです。この狂気をすべて止めるのは私たち次第です。何も恐れないでデモに行きましょう。クレムリンは私たち全員を閉じ込めることはできません」
ロシア検察当局は15日、収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に対し、詐欺や法廷侮辱の罪で新たに禁錮13年を求刑した。同氏は現在、禁錮2年半の刑で服役中だ。同検察当局がナワリヌイ氏に新たに求刑したのは、ウクライナ侵攻以来続く国内の戦争反対デモ、反プーチン・デモを警戒し、国民を威嚇する狙いがあるものとみられる。
ナワリヌイ氏はロシア軍のウクライナ侵攻後、プーチン大統領に抗議するデモをするよう国民に呼び掛けてきた。反戦デモが頻繁に行われ、大規模なデモに発展すれば、警察当局は彼らを全て拘束することはできなくなる。ロシア検察当局のナワリヌイ氏への求刑、テレビ番組編集者の放送中の反戦抗議はその日が案外近いことを示している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年3月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。