「移動する家」の進化に業界注目 – 中川寛子

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ジブリ映画「ハウルの動く城」のように、土地にしばられず自由に移動できる家「トレーラーハウス」がいま人気だ。駐車する感覚で設置が可能なのにキッチンやトイレ等一般住宅と同じような設備がついているのがその魅力だが、人気の背景にはいくつか理由があるようだ。業界のキーパーソンたちに話を聞いた。

ジェットバス付きのトレーラーハウスが公園内に出現

大阪府の「泉南りんくう公園」内に2020年に7月にオープンした、トレーラーハウスを使用したグランピング施設の設計を手がけた建築設計デザイン会社「9(ナイン)株式会社」の代表久田一男氏は、当初プレハブで予定されていた施設をトレーラーハウスに変更した理由を次のように説明する。

大阪府の「泉南りんくう公園」内にオープン。高い稼働率が続くトレーラーハウス利用のグランピング施設「URBAN CAMP HOTEL Marble Beach」

「まず、企業にとっては節税になります。一定の要件を満たしたトレーラーハウスは建築物ではなく自動車として扱われるため、固定資産税がかかりません。また、減価償却の期間も車並みに短いという利点もあります」。

さらに、建築確認申請をはじめ、建築に関わる様々な規制から自由になるという。

「公園の建蔽率は一般には2%ですが、トレーラーハウスならそれも気にする必要がなくなります。基礎工事の杭を打つ必要がないので、いまトレーラーハウスを置いている土地を今後違う用途で使おうとした時にも、住宅を建てるより原状回復が容易になります。そのため、例えばある場所でトレーラーハウスを使い営業してみてうまくいかなかった場合には、他の土地に移動してその場所でまた営業を始めることも簡単にできます」(久田氏)。

トレーラーハウスは100%工場で作れてしまうので、現場では持ってきたトレーラーハウスを設置するだけ。水道、電気等ライフラインも工具不要で簡単に脱着できるようにしておかないと車扱いにならないことがあるので、短時間で接続可能だ。現場での作業がほとんどないので、当然人件費も不要で、人が現場で作ることでの誤差も生じにくい。

同社が今回のグランピング施設に設置しているトレーラーハウスは、バーベキューができ、ジェットバスがあるテラスが付いている。「プレハブでグランピングと言われても贅沢気分になるのは難しいところですがトレーラーハウスではそれが可能で、利用客は遠くに出かけなくても十分日常から離れた気分を楽しむことができます。作る側にも、利用する側にもメリットがあるわけです」(久田氏)。

観光地ではない浜辺が人気レジャースポットに

また、2020年9月に鹿児島県いちき串木野市にオープンしたトレーラーハウスを利用したグランピング施設「吹上浜フィールドホテル」も稼働率が90%を切ったことがない人気ぶりだという。

観光地でもない浜辺にできた施設に子どもからお年寄りまで幅広い層の人が訪れており、来訪者のうちの9割が県内からだという。トレーラーハウスが置かれたことで、浜辺に産業が勃興したのである。

同施設を手がけ、全国でトレーラーハウスの販売を行う「株式会社パークホームズ」の池田昌弘氏は「これまでの観光はその土地にある自然や歴史等を売りにしていましたが、この施設は観光が目的ではなく、体験を楽しむ場。温泉やバーベキュー、花火にSUP等の多種のコンテンツを用意し、それらを家族や友人と一緒に楽しんでいただきます。これなら観光資源がないと思われていたところにも新しい遊びの空間を作れます」と話す。

地方だけではなく、東京都心部の駐車場を利用した新たなレジャースポットも登場している。例えば2021年11月から実証実験が行われた移動型宿泊施設「HUBHUB 日本橋人形町」は駐車場に6台のトレーラーハウスを並べて作られており、利用者は宿泊、バーベキュー設備付きのパーティールーム、フィンランド式サウナが楽しめるプールの3つの機能を楽しむことができる。

HUBHUBの特徴は、置く場所によって他の用途のほうが良いと判断すればワークスペースやフィットネスジム等、違う機能の空間を接続することもできる点だ。もちろん、移動も簡単。都心の駐車場や遊休地を利用するにはぴったりである。

冒頭にご紹介した久田氏も蔵王のスキー場にサウナ付きのトレーラーハウスの設置を企画しているそうで、テントだと辛い雪国の冬もトレーラーハウスなら冬景色と温浴が同時に楽しめるという。

葬儀場としての利用も、多様化するトレーラーハウス事情

レジャー振興に一役買うだけではなく、防災にも役立つのがトレーラーハウスの利点だ。愛知県岡崎市の「株式会社BMC」は、2016年12月から住宅建設の技術を結集、高気密高断熱な一般の住宅以上にこだわったトレーラーハウスを販売している。

代表の青山徹氏が開発にあたり背中を押されたのが、2016年に発生した熊本地震での公的な避難所としてのトレーラーハウス利用だった。トレーラーハウスなら必要な場所に持っていくだけで不自由のない生活を始められる。

販売以来、質へのこだわりが評価されて、同社の製品の販売台数は年々増えており、ここ数年で3倍以上になったという。コロナ禍でネット検索する時間が増えたからだろうか、ネット経由での問い合わせが急増しており、特に最近目立つのは企業の利用だという。

「ポストコロナ、ウィズコロナ時代の変化に対応することを名目に中小企業等を対象に用意された事業再構築補助金を利用、トレーラーハウスを利用して新規事業を始める例が多いのです。建物を建てるとなると大きな費用が掛かり、時間もかかりますが、トレーラーハウスなら設置するだけですぐに使える。その利点を生かして飲食、民泊等のカテゴリで新たに事業を始める例が目立ちます」(青山氏)。

 

また、ちょっと変わったところでは葬儀場としての利用がある。近年は家族だけで故人を見送る家族葬が増えており、広い会場は要らない。トレーラーハウスでも十分なのである。しかも、トレーラーハウスなら建築ではないので葬儀場を新設する際の建築許可が不要。鍵を渡しておけば遺族は自由に出入りでき、夜勤スタッフを置かなくても良くなる。「トレーラーハウスを葬儀場として利用」と聞くと違和感があるが、冷静に考えるとトレーラーハウスは様々な用途に利用できるのである。

長崎県の高台にある買い物に不便なマンションの共用部分にトレーラーハウスを使って24時間利用できる無人コンビニを設置した例もある。

顔認証を導入し電子決済を可能にすれば防犯や人件費等のコストの問題もクリアできる。これまでニーズはあるものの人口が少ないからという理由で空白地帯になっていた場所にコンビニが作られるようになり、買い物難民が生じている郊外や地方の課題解決に繋がるかもしれない。

マンション共用部に設置された無人コンビニ
https://www.anabuki-housing.co.jp/news/content.php?news_id=209
https://nordot.app/694775333937579105

 

コンビニに限らない。社名は出せないものの、ファストフードを始めとする飲食業界ではすでにトレーラーハウス利用で郊外や住宅地等に複数店舗を出店する動きも出始めているそうだ。

個人でのトレーラーハウス購入は伸び悩んでいる理由

企業だけでなく、地方公共団体もトレーラーハウスに着目している。冒頭のグランピング施設も元々は市が大阪府から土地を借り、運営を民間に委託したものだ。前述のパークホームズの池田氏は「1970~1980年代に自治体が設置したキャンプ場、各種公園を再度人の集まる場に再生したいという依頼が西は福岡市、北は旭川市と幅広い地域から舞い込み、対応しきれないくらいです」と話す。

一方、個人購入のニーズはそれほど伸びていないという。昨今のアウトドアブームを考えると欲しい人は少なくないはずだが、問い合わせは増えているものの、実際に購入する人となるとかなり減るという。実は、トレーラーハウスは決して「安い買い物」ではないのだ。

トレーラーハウスと聞くと勝手に安価と勘違いしている人もいるが、コンパクトなものでも設置まで考えると数百万円は必要で、大きなものになると2000万円近いものもある。

トレーラーハウスはタイヤの上に載っているものの、多くの事業者は通常の住宅と同じような高い性能を目指している。そのため、購入者もそれなりの質を求めるならそれなりの金額になるのである。

そこで購入に立ちはだかるのが、ローンの問題だ。住宅購入には低利の住宅ローンが使えるがトレーラーハウスの場合は車扱いになるため、融資期間が短く、通常金利が3~10%と高いカーローンを利用することになってしまい、非常に不利。事業者なら事業融資が使えるが、個人で借り入れとなると途端に難しくなるのである。一部の銀行では金利2%からのトレーラーハウスローンの取り扱いが始まるものの、普及はこれからという。

また、まだ再販に至った例が少なくトレーラーハウスの中古市場が成立していない状態のため、中古の価値の判断が難しく融資自体も受けにくいという。

さらに、トレーラーハウスが固定資産税の対象にならず節税ができるという先述のメリットも、融資を受ける際にはデメリットに働くことになる。つまり、トレーラーハウスが建物と車の間の微妙なポジションにあり法的な曖昧さを含むことが融資の受けづらさに繋がっているのだ。(もちろん無法状態でなんでもできるというわけではなく、設置して使う時には建築基準法住指発第170号通達
http://www.fleetwood-parkhome.jp/qa/pdf/qa_01.pdf、運ぶ時には道路交通法の規制は受ける)。

いずれ市場が形成され、トレーラーハウスの個人購入も一般的になれば法律がより整備され融資は受けやすくなるが、その分自由度は低くなるだろう。

進化するトレーラーハウス

最後に、進化するトレーラーハウスについて紹介したい。

青山氏は小屋として置いて使うことも、タイヤの付いたシャーシ(車台)の上に載せ、移動して使うこともできるトレーラーハウスの商品「nokoya」を開発。用途と目的によって選ぶことができ、気軽に新しい空間を生み出せることを売りに普及を図っていこうとしている。

池田氏は様々な業態の大手企業と共同開発を進めている。そのうちのひとつはオフグリッド化(電気を自給自足する状態のこと)だ。元々、トレーラーハウスの要件は土地に固着しないこと。それに加えて電気、水を自給自足できるようになれば住空間としては無敵だ。災害時もトレーラーハウスの中にいればいつもの生活を続けられる。

「使い終わったバッテリーを再生、家庭用バッテリーとして使えるようにし、ソーラーパネルを組み合わせることで電気は自給自足できますし、水も空気中の水分を水として取り出して使う手があります。そうすれば、災害に強いだけではなく、環境にも優しい空間を作り出せるはず。5年以内にトレーラーハウス1台で生活に必要なものがすべて揃うことを目指しています。」(池田氏)。

さらに筆者が面白いと思ったのは事業者向けに販売されている188万円(税別)と安価なトレーラーハウスだ。

現在、日本で売られているトレーラーハウスはいわば注文住宅のようなもの。同社の場合、躯体は海外の工場で作るためそれほど手間はかからないものの、それ以降の注文に応じた内装や現地でのデッキ作成・設置等の要望に対応するには人手が足りていないのが現状だ。そこで同社は、建設会社向けにタイヤの付いた躯体のみを安価で販売し、最初からパートナーにというわけではなく、彼らにノウハウを蓄積してもらうことで、将来的にパートナーになってくれることを目指すと言う話なので、省略しないほうが良いかと。設置等に関するノウハウを蓄積してもらい将来的にパートナーになってもらうことを目指しているという。

住宅と考えればDIYもできるわけで、腕に覚えのある人なら個人でもできるかもしれない。内装以上に、どこにどのように設置するか等必要とされる要件をクリアするほうが大変かもしれないが、トレーラーハウスの可能性を大きく広げてくれる試みである。

ちなみにオフグリッドで使う場合の住空間として考えると大きな問題は「広さ」だ。道路を移動する際の制限があるため、池田氏の会社の特許取得製品でも最大で幅3.5m×長さ13mで、広さは最大で約45㎡弱となる。「並べて置くことで空間を広くすることは可能ですが、現状では連結ができません」(池田氏)。

そのため池田氏は今後トレーラーハウス同士を簡単に連結、脱着できる仕組みを考えているという。広さの問題がクリアできるようになれば、RC造(鉄筋コンクリート造)よりも高気密、高断熱、高床式で湿気とも無縁と良いことづくめで、住環境としてのメリットも大きくなるだろう。

しかも、住宅と違い、移動ができる。トレーラーハウスは自走できず車両での牽引が必要なのでキャンピングカーほど自由には動けないが、それでも好きな土地に家ごと引っ越せるのである。狭さも掃除や家事が楽と考えるとそれほど悪くはない。

土地の高い東京では難しいかもしれないが、それ以外のところでは新しい暮らし方としてあり得るかもしれない。今後の進化が楽しみである。

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