プーチン氏の独演会

アゴラ 言論プラットフォーム

あまりウクライナの話題を連続で振りたくないのですが、ここは極めて重要な局面ですのでお付き合いいただければと思います。

21日にウクライナ東部の親ロ派二地域の独立承認、国民向け長時間ビデオメッセージ、そして22日の同地域への派兵令署名と本格的展開が始まりました。これはそれまでの欧米を中心とした外交努力のステージから一歩踏み込んだもので、24日に予定されている米ロ外相会談、および一旦合意した米ロ首脳会談の実現性が微妙になり、外交的解決策の模索ステージが後退したものとみています。

プーチン大統領 クレムリン公式HPより

もちろん、欧米は引き続き対話の機会を求めていくと思いますが、ロシアの侵攻のステージごとに欧米はその態度をより硬直化し、プーチン氏との距離が広がっていく逆効果を生むとみています。

例えば22日にドイツは完成済みのノルドストリーム2について運用承認を留保し、英国は独自の金融制裁を発表しました。他国も経済制裁に踏み切る可能性があり、アメリカの出方も注目されます。

ではプーチン氏はそれにめげるか、といえば全て計算ずくであり、欧米が頑なになればなるほどウクライナ侵攻をより積極的に進めるとみています。個人的にはもう、止まらないのではないか、とみています。

止める方法は唯一、NATOと米軍が本気でロシアと対峙する姿勢を見せるしかないとみています。モスクワに銃口を向けるしかありません。外交的解決は一旦、閉ざされたように見えます。

プーチン氏は1999年から国家のトップとして君臨し、国家をどう守り、どう発展させるか、という野望を抱いています。非民主主義国家であるがゆえに自身の野心を国家運営に反映することが可能です。野心に火がつくと、様々な戦争の歴史からはほとんどそれを止めることはできず、武力と武力の戦いとなり、それを抑えることができないのが過去でした。

ある識者が「なぜ今なのかわからない」とあったのですが、私は今だからこそやるのだと思っています。一昨日、タイミング的な点を述べました。しかし、もっと本質的なことは民主主義が揺らいでいることへの挑戦であり、その弱みに付け込んだ、とみています。

私はこのブログで再三、近年、民主主義がどう変わったのか、私の考えを提示してきました。過去は多数決の原理で51:49の民主主義理論でしたが、今は1/100の声も拾い上げるSDGsの時代となり、物事をまとめられず、一体感が出ない社会が生まれました。平和な時はそれでも自己満足の世界で好き勝手なことをしていればよいのですが、いざ何か事が起きた時、一致団結できないという弱点が生まれたのです。ここを誰も指摘していません。

ロシア、中国、北朝鮮のみならず、トルコやひょっとしたらブラジルも権力主義という新たな時代の確立に突き進んでいます。私から見れば中国も北朝鮮も本来の共産主義とは大きく形を変えた国家統制主義的な体制になっているとみています。言い換えればかつては資本主義対共産主義の戦いだったものが今は民主主義対権威主義に代わっているのです。双方のドクトリンが変化したと私は考えています。

経済的制裁が大きく進んだのがトランプ氏の時代でした。中国、イラン、北朝鮮、ベネズエラなどに厳しい制裁を科し、国家を絞り上げました。確かに苦しそうな国もありますが、音を上げた国はありません。むしろアングラ経済が活性化し、「不良国家」が大手を振って歩くようになりました。国民が貧すれば銃を取るというのは昔の話で今ではパソコンが銃になる時代です。

今回、ロシアに各種経済制裁を行った場合、ロシアが更に「不良国家」となる公算は非常に高いとみています。ロシアは世界を敵に回しますが、ロシア人がより無謀な行為に出て収拾がつかなくなるリスクは非常に大きいと思います。世界各地に散らばるロシア人が諜報や悪さをいつどこでやるとも限りません。私が「戦争そのものは短期かもしれないけれど場外戦は長くなる」と申し上げたのはその意味です。

国連は安全保障理事会を開催してますが、その常任理事国に当事者であるロシアが入っています。これで機能するわけがありません。まずは国連がロシアを常任理事国から除名する手続きを進めるべきでしょう。私からすればNATOも何のためのNATOだか全く分かりません。戦えない集団ならあってもなくても同じであり、ゼレンスキー大統領がそれでもNATOに固執する意味もわかりません。助けてくれないNATOはそんなに魅力的でしょうか?

プーチン氏は少なくとも戦後77年続いた一つの時代を変えるかもしれません。まだ変わっていませんが、冷戦時代すら抑止力が働いたのに今は欧米の足元を見てやりたい放題になりつつある、これが現実です。日本では今回の一連の流れについて戦局だけを報じているものがほとんどですが、本質は何処にあるのか、もっと深く議論すべきだと思います。真の意味で「なぜ今なのか」であります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月23日の記事より転載させていただきました。