呼吸を忘れる。漫画『ちはやふる』を読むといつもそうだ。ページを開いた途端、全神経が作品に持っていかれ、読了後はくたくた。
それでも続きを楽しみにせずにはいられない。いつまでも登場人物たちと、一緒にもがき苦しみながら挑戦する人生でありたい。
しかし物語には、始まりがあれば終わりがある。長きにわたり連載していた同作も、ついに最終回間近という話だ。ならばと、この場を借りて作品の魅力を語らせてほしい。
・かるたをメジャーにした『ちはやふる』
アニメ化に実写映画化された『ちはやふる』のテーマは競技かるた。少年少女たちが、情熱をかるたにかけてかけて、かけまくる漫画である。
雑誌『BE・LOVE』にて連載が始まった2007年当時、記者は国文学部の大学生だった。学部生の間で「かるた(小倉百人一首)を題材にした漫画があるらしいよ。正気かな」と話題になっていたことを思い出す。
と言うのも、今でこそ割とメジャーなかるた(小倉百人一首)だが、当時はそうでもなかった。国文学部生であっても卒業論文で百人一首を取り上げる人は、ひとりふたりであったように記憶している。
それがどうだ、これほどまでに周知されるとは……!! 現在は学校の部活動でも競技かるたは人気だと、高校教師をしている友人が言っていた。ひとえに『ちはやふる』のおかげと言っていいかもしれない。
同作は記者のような文系人間にとってのキャプテン翼なのだ。一度読んだら最後、かるた(小倉百人一首)に何らかの形でかかわりたくなること必至。それもこれも、作品の持つパワーがすさまじいからこそ。
まだ少し手に取るか迷っている人の後押しになればと、以下にその魅力を簡単にまとめてみた。
・登場人物たちと共に成長できる
まず登場人物ひとりひとりに、物語があるところが良い。かるたにかける熱量も、取り続ける理由も、その先にある思いも、目指す進路もみんな違っている。
それぞれの思いを抱えながら、目の前のかるたを時には一人で、時にはチームで取り続ける。誰もが楽しい気持ちだけで挑めるわけではない。
なかなか上達できない苦しみや、自分より後から始めた人に追い越される悔しさや嫉妬や諦め、あらゆる感情が渦巻く。
彼ら一人ひとりに感情移入してしまい、読んでいるとこちらまでしんどい。その上、競技かるたという性質上、一方が勝てばもう一方は負けるのだ。
どんな名人でも、無敗とはいかない世界。つまりは、負けたところからが勝負……とは言え、作中の人物が悲しめば悲しむほど、こちらまで辛くなって来る始末。
しかし登場人物たちは次はどうすべきか、ほかに何ができるかと考えを止めない、諦めない。その姿勢に読者は勇気づけられ、励まされる。
個人的に大好きなのは、主人公・綾瀬千早たちを指導する原田秀雄先生の言葉。弱音を吐く、千早の幼馴染・真島太一にこう言うのだ。
青春全部懸けても強くなれない? まつげ(太一)くん 懸けてから言いなさい 「2巻7首より」
何度このセリフを読んだことか。現実世界で諦めそうになった時、思うようにいかない時、いつも原田先生の言葉に支えられた。作品を通して登場人物たちと共に自分も成長させてもらった気がしている。
・かるたを取るということはダイナミックで美しいと知る
そうして心を鷲掴みされた次は、視覚的に魅了される。かるたを取る際の登場人物たちの、姿勢と動きが息をのむ眩さなのだ。凛とした佇まい、そして取りにいく時の俊敏な動き。
リアルに競技かるたを見る時は、その動きの速さから奇麗に目で捉えることができない(記者の動体視力が低いせいもある)。しかしコマ送りにすれば、こういうことなのかもしれないと思える。
知りたかった世界がそこに広がっているのだ。これほどまでに、かるたを取る動きはダイナミックで美しいものだったのかと改めて感心せざるを得ない。
作者・末次由紀先生は一体どれほど観察し、この境地に至ったのだろう。言葉だけでは伝わらない競技かるたの魅力、絵を通して一瞬で理解させるその力量に脱帽だ。
・さまざまなアプリなどで無料配信中
ほかにも、語り出したらキリがない。なんなら一話ごとに登場する歌と、作品の素晴らしさについて話したいくらいである。かるたに興味はなくとも、一冊読み終えるころには俄然気になっていると断言しよう。
折よく2022年2月10日・11日の2日間限定で、単行本47巻分がマガジンポケットで無料公開中。そのほかマンガアプリPalcy(パルシィ)でも3月9日まで、無料チケットで全話読むことができる。
作品は残念ながら……本当~~~に残念ながら、49巻が最終巻とのこと。約15年、生活の一部であったために今は悲しさしかない。
しかしあちらこちらで、物語の終わりに向けて盛り上がりを見せている今。この機会に乗じて、記者も改めて読み返すつもりだ。一人でも多くの方にこの素敵な物語が届くよう願っている。