北京五輪「新たな冷戦」を演出? – 船田元

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 第24回冬季オリンピック北京大会がいよいよ始まった。去る2月4日の「鳥の巣ドーム」の開会式は中国随一の映画監督・張芸謀(チャンイーモウ)氏が演出を手がけたという。彼の作品で高倉健さんが主演した『単騎、千里を走る』は日本でも有名だ。プロジェクション・マッピングとリアルをうまく使い分けたり、上品な色彩で全体を構成した舞台は、さすが映像のプロである。半年前の東京オリンピック開会式は、直前まで演出担当者が交代するなどにより、残念ながらこれに見劣りする出来だった。

 東京大会に引き続き、コロナ禍の中でのオリンピック開催となったが、東京大会で採用したいわゆる「バブル方式」で選手の感染を防ぐ方法は、半ば成功しているのではないか。今回もやはりほとんどの競技が無観客となったが、感染力の強いオミクロン株が世界を席巻する中で、よく開催に漕ぎ着けたと思う。

 一方北京大会は、習近平現政権の基盤を強める道具として使われているとの報道も多い。今年秋の全人代で3選目の主席を確かなものにしたいようである。実はオリンピックの政治利用や、政治に翻弄された例は数多い。1936年ベルリン大会では、ヒトラー率いるナチ党のプロパガンダに塗れてしまった。1972年ミュンヘン大会ではイスラエル選手11名が、テロ襲撃で殺害された。1980年のモスクワ大会では、ソ連のアフガン侵攻に抗議して西側諸国がボイコット、次のロサンゼルス大会では、意趣返しで東側諸国がボイコットしている。

 今回の北京大会も、新疆ウイグル自治区やチベット、香港での人権抑圧問題や、台湾の武力による統合の可能性が囁かれている中での開催だ。香港や台湾の選手団入場の時には、会場内は何とはない溜息と緊張が走った。欧米諸国も「外交的ボイコット」したが、果たして効果があったのだろうか。

 習近平主席はオリンピックを機に、ロシアのプーチン大統領との中露首脳会談をセットした。ややギクシャクしていた中ロ関係の改善を確認したが、ロシアはウクライナ問題を抱えており、専制的国家同士が民主主義国家群を敵に回して、新たな冷戦を演出するという舞台装置に利用されたといっても、言い過ぎではないだろう。

 テレビ中継では観客席に山下泰裕JOC会長の姿を認めた。1980年のモスクワ五輪での日本選手団不参加を決める会合で、涙流して悔しがった彼の姿を思い出した。やはりオリンピックは「アスリート・ファースト」でなければならないと痛感した。

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