古いPCのWi-Fi環境強化、メッシュ化とUSB Wi-Fi 6アダプターのどちらが効果的?【イニシャルB】

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 Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)に対応した古いノートPCなどが現役の場合、果たして無線環境の改善にはどのような方法が効果的なのだろうか?

 Wi-Fi 6のルーター親機をさらに1台追加するメッシュ化と、親機はWi-Fi 6単体構成のままでPCへWi-Fi 6対応のUSBアダプターを接続する場合を比較してみた。

Wi-Fi 6対応のUSBアダプターであるバッファロー「WI-U3-1200AX2」(左)と、ASUS「USB-AX56」(右)

古いPCの内蔵Wi-Fiは11acまでとなるのが問題

 Wi-FiルーターをWi-Fi 6対応にしたとしても、家庭内の全ての機器が快適にWi-Fiを利用できるわけではない。

 Wi-Fi 6の恩恵を受けるには、PCやスマートフォン側もWi-Fi 6に対応している必要があるが、少し前までの機器であれば、内蔵されているWi-FiはWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)までの対応となる場合がほとんどで、これにより速度は(IEEE 802.11acなら2ストリームでも866Mbpsに)制限されてしまう。

アクセスポイントがWi-Fi 6対応でも、PCのWi-Fiが古ければWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)で接続されてしまう

 Wi-Fi 6の最大速度は、一般的なスマートフォンで1201Mbps(2ストリーム80MHz幅)、ノートPCなどでは2402Mbps(2ストリーム160MHz幅)なので、単純に866MbpsのWi-Fi 5ではスペック的に劣るが、さらにWi-Fi 5のチップは何世代も古いため、処理性能が低かったり、電波の受信感度が悪かったりすることもある。

 Wi-Fi 6環境にWi-Fi 5対応の機器が混在すると、Wi-Fi 6ならではの機能(MU-MIMOの上りなど)が制限される場合もあるため、理想は家中の機器をWi-Fi 6対応にすることだが、仕事でどうしても古いPCを使わなければならない場合などもあることだろう。

 こうした状況を改善する目的で、2021年末ごろから、USB接続のWi-Fi 6対応子機の発売が目立つようになってきた。本連載でも取り上げたバッファローの「WI-U3-1200AX2」、さらにASUSからも「USB-AX56」が発売済みとなっている。

ASUSの「USB-AX56」

バッファローの「WI-U3-1200AX2」

 PCをWi-Fi 6化するためのデバイスとして、これまでM.2スロット用のWi-Fiアダプターなども発売されていた。しかし、こうした製品はアンテナとセットの状態で技適を取得しているものを利用する必要がある。デスクトップPC内蔵タイプでアンテナがセットのPCIe接続のものならまだしも、アンテナを差し替えることが難しいノートPCでは、利用が難しかった。

M.2用のWi-Fi 6アダプター。アンテナとのセットで使う必要がある

 こうした状況が、今回のUSBアダプターの登場で改善されることになる。Wi-Fi 5対応のノートPCを利用している場合は、この機会にUSBアダプターでWi-Fiをアップグレードすることを検討する価値があるだろう。

PCのWi-Fi 6化と、ルーターのWi-Fi 6&メッシュ化、どっちが効果的?

 このように、Wi-Fi 6対応のUSBアダプターが登場したことそのものは歓迎したいが、ここで1つの疑問が湧いてくる。

 Wi-Fi 6ルーターと組み合わせる場合、果たして以下のどちらが効果的なのだろうか?

  • a)PCはWi-Fi 5のまま、親機側をWi-Fi 6のメッシュ化(または中継機)にする
    。b)親機側はWi-Fi 6単体構成のまま、USBアダプターでPCをWi-Fi 6化する

 前述したように、もちろん理想は両方だ。しかし、家庭向けには予算が限られている場合もあるため、いずれかの選択になる場合も考えられる。そこで、実際にどちらが有利なのかを検証してみた。

ASUS「USB-AX56」と「Linksys Atlas Pro 6」を使用

 今回のテスト環境では、Wi-Fi 6ルーターに「Linksys Atlas Pro 6」を利用した。最大4804Mbps(4ストリーム160MHz幅)に対応したデュアルバンド対応のメッシュシステムで、これを単体で利用した場合と、2台(1階と3階)設置した場合で、iPerf3の値を計測している。

 利用したWi-Fi子機は、手元にあった古いThinkPad。内蔵されているWi-Fiモジュールは「Intel Wireless-AC7260」だった。2013年に発売されたもので、かなり古いが、最大866Mbps(2ストリーム80MHz幅)での通信が可能だ。

 そして、このThinkPadのWi-Fi 6化に利用したのが、ASUSのUSBアダプター「USB-AX56」となる。スペックは最大1201Mbps(2ストリーム80MHz)で、開閉式のアンテナを搭載しているのが最大の特徴となる。

ASUS「USB-AX56」。可動式アンテナを備えているのが特徴

 同社は、以前、IEEE 802.11ac対応のUSB子機である「USB-AC68」を販売していたが、これと全く同じ筐体を採用した製品となる(USB-AC68は何と3ストリーム対応で最大1300Mbps対応だった)。

 税込の実売価格は1万2000円と、同スペックのバッファロー「WI-U3-1200AX2(実売価格税込5436円)」の倍となるため割高だが、開閉式アンテナの凝った筐体、付属のUSBスタンドにゴム足がある使いやすさ、ドライバーを本体内部のストレージからインストール可能な点などが、アドバンテージとなる。

バッファロー「WI-U3-1200AX2」(左)とASUS「USB-AX56」(右)の比較。ASUSは可動式アンテナ採用で台座の完成度が高い。バッファローは低価格なのが特徴

子機をアップグレードする価値大

 これらの機器を利用して、前述したように親機側をWi-Fi 6メッシュ化した場合と、子機側をUSBでWi-Fi 6化した場合で検証してみた。その結果が以下となる。

1F 2F 3F入口 3F窓際
アクセスポイント単体構成 11ac(内蔵) 上り 257 73.1 17.8 15.8
下り 517 266 143 39.4
11ax(USB) 上り 646 496 492 274
下り 832 612 592 343
メッシュ構成(2台) 11ac(内蔵) 上り 281 71.6 225 114
下り 529 222 277 222
11ax(USB) 上り 626 488 434 277
下り 805 653 522 352

※サーバー CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、SSD:NVMe 1TB、OS:Windows 10 ※アクセスポイント:Linksys Atlas Pro 6 MX5500

アクセスポイント単体構成のWi-Fi 5子機

 表の一番下の部分(アクセスポイント単体の11ac)がテスト前の環境と考えて欲しい。Wi-Fi 6ルーターによってWi-Fi 6化されているものの、PCがWi-Fi 5にしか対応していないケースとなる。

 この場合、近距離では下り517Mbpsとそこそこ速いが、3階端の最も遠いところでは、下り39.4Mbpsと速度がかなり落ち込んでしまっている。Wi-Fi 5そのものの限界もあるが、チップの世代が古いことも影響していると考えられる。

アクセスポイント単体構成のUSB接続Wi-Fi 6子機

 続いて、下から2番目の結果(アクセスポイント単体の11ax)を見てみよう。これが、ノートPCにUSB-AX56を装着した場合の結果だ。親機側がWi-Fi 6とはいえルーター単体の構成であっても、1階は下りで最大832Mbps、3階端では下り343Mbpsと従来の8.7倍にもなっており、劇的に速度が向上していることが分かる。

 ピンポイントで特定の機器の速度を向上させたいのであれば、やはりその機器をWi-Fi 6化するのが、最も効果的だ。

メッシュ2台構成のWi-Fi 5子機

 一方、親機側となるルーターを変更した場合を見てみよう。下から3番目のグラフは、PCは内蔵のWi-Fi 5のまま、3階にLinksys Atlas Pro 6をもう1台追加してメッシュ構成にした場合だ。

 この場合、PCがWi-Fi 5のままでもメッシュの恩恵で速度が向上していることが分かる。特に最も遠い3階端では、下りが39.4→222Mbpsと5.6倍になっている。子機をUSBアダプターでWi-Fi 6化した場合ほどではないが、これも効果は大きい。

 メッシュ化の場合、該当するPCだけでなく、ほかの機器も速度を引き上げられるため、ネットワーク全体をグレードアップできるのがメリットだ。しかし、メッシュ化や中継機の導入は、USB子機よりコストが高くなる場合があるので、予算の検討が必要になるだろう。

メッシュ2台構成のUSB接続Wi-Fi 6子機

 最後に両方を組み合わせた場合、つまりフルWi-Fi 6化の場合の例だ。理論的には、これが最も効果が高くなるはずだが、単体の性能は先のWi-Fi 6対対応USB子機の利用時とほぼ同じになった。

 今回利用したルーター親機単体の性能が高く、筆者宅のような狭い木造住宅では単体で十分で、メッシュの威力が見えにくいことが考えられる。

 しかしながら前述したように、親機側をメッシュ化すると、特定の機器だけでなくネットワーク全体の性能を底上げできる上、複数台のアクセスポイントによって子機の収容数が増えたときにも安定した通信ができるメリットがあるだろう。

Wi-Fi 5のPCはUSB子機のWi-Fi 6化による効果大ただし、Wi-FiルーターのWi-Fi 6対応が前提

 まとめると、Wi-Fi 5などの遅いPCはUSB子機でWi-Fi 6化した場合の効果的が大きいが、ほかの機器も含めて速度の底上げが必要ならメッシュ化も検討すべきと言えそうだ。

 もちろん、今回の検証は、肝心の親機(Wi-Fiルーター)がWi-Fi 6に対応していることが前提なので、まだIEEE 802.11ac以前の製品を利用している場合は、そこから改善することが必要となる。その上で、ピンポイントで速くしたいPCをUSBアダプターで高速化することを検討するといいだろう。

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