AP通信の写真がもたらした憶測

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今年に入り続いてきた中央アジアのカザフスタンの反政府暴動はカザフ軍の治安部隊とロシア主導の軍事同盟の集団安全保障条約機構(CSTO)から派遣された部隊によって鎮圧されたことで外的には落ち着きを取り戻している。トカエフ大統領は10日、CSTOのオンライン首脳会議で、「一連の反政府デモはクーデターを意図したものだった」と非難した。内務省は同日、デモに関連して全国で約8000人を拘束したと発表した。

国連ヘルを被ったカザフ軍兵士の姿が撮影されている(「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」及び「ラジオ・リバティー」の公式サイトから)

▲国連ヘルを被ったカザフ軍兵士の姿が撮影されている(「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」及び「ラジオ・リバティー」の公式サイトから)

カザフ政府は反政府抗議デモを強権で抑えつけ、非常事態宣言、夜間外出禁止を継続する一方、外部世界と通じるインターネットを制限してきた。現地からの情報では、ロシア軍中心の平和維持部隊がカザフ内の重要施設の警護に当たっている。ただ、国民の政府への憤り、不満は消えていないので、抗議デモ、暴動が再発することは十分予想される。現地メディアによれば、今回の騒動で少なくとも164人が犠牲となった。トカエフ大統領は5日、ロシア主導のCSTOに軍事的支援を要請し、7日には治安部隊に「デモ隊への発砲」を許可するなど、強硬姿勢を貫いてきた。

ガス価格の高騰がきっかけで多数の国民が今月2日、抗議デモを行ったが、時間の経過と共に反体制運動の様相を深めていったのは、中東や東欧諸国の暴動でもよく見られる現象だ。身近な不満がきっかけで、これまで溜まってきた不満が一挙に爆発するケースだ。カザフの場合、30年余り君臨してきたヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領(任期1991~2019年)への不満が国民の間では高まってきた。ナザルバエフ氏は退陣後も国家安全保障会議議長として政権に大きな影響を行使してきたが、今月5日、同議長職をトカエフ大統領に譲渡したことから、一時、失脚説も流れた。

今回の反体制派抗議デモの背後にはカザフ指導部内の権力争いが絡んでいた、という見方が欧米メディアでは報じられてきた。ナザルバエフ前大統領の側近で国家保安委員会(情報機関)のマシモフ前委員長が8日、国家反逆罪で拘束されたばかりだ。カザフ政権の内情は外部から推測するのは難しいが、明確な点は、ロシアのプーチン大統領は資源大国・カザフへの影響力を今回の出来事を通じて拡大することに成功したことだ。

ところで、AP通信が1月8日配信したカザフからの写真が大きな反響を呼んでいる。カザフ最大都市アルマトイで軍兵士の中に国連平和維持軍の国連ヘルメットをかぶった兵士たちが混ざっていたのだ。国連平和維持軍がカザフ軍と連携して燃料価格の高騰や独裁的な政治体制に抗議する多数の国民のデモに対して、武器をもって戦ったとは信じられないから、写真は大きな波紋を投じたわけだ。写真はカメラマンのウラジーミル・トレチャコフと独立ジャーナリストのジェイク・ハンラハンが撮影したものだ(「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」1月10日のアモス・チャプル記者)。

写真を見る限りでは、紛争地へ派遣された国連平和維持軍の国連ヘルを被った兵士たちだ。その中には女性兵士の姿も見られた。写真の件について、国連平和維持活動のスポークスマンは1月10日、「写真に写っている武装した兵士は国連平和維持軍関係者ではない。国連軍は、国連安全保障理事会によって義務付けられている国連平和維持活動内で任務を遂行する。その場合は国連の記章を使用することになっている」と説明。ただし、「カザフ軍隊の中には、国連が支援する英語を話す平和維持軍のKAZBATが存在する。彼らは国連ヘルの着用が認められているが、パレードなどの式典か、国連平和維持活動中の時だけだ」という。

ちなみに、KAZBATは、カザフスタン軍の平和維持軍部隊であり、カザフ空軍の空中旅団だ。彼らは北大西洋条約機構(NATO)と国連の基準に従って訓練されているため、勤務中やパレード中に青いヘルメットを着用することが許可されている。KAZBATは2000年1月31日にナザルバエフ大統領の命令によって設立され、カザフ共和国に代わって、外国で平和維持活動と人道的任務を遂行する責任を有している。

カザフ国防総省広報担当官は同日、「写真の兵士はKAZBATの一部だ。彼らは国連の任務の一部ではなく、戦略的オブジェクト、空港、および政府の建物を守る任務を持っていた」と述べている。

AP通信が撮影した写真は誤解を生みやすい。意図的か否かは別として、国連平和維持軍がカザフ軍と連携して反政府抗議デモを鎮圧していた、という憶測生まれてくるからだ。いずれにしても、さまざまな憶測が流れるということは、カザフの政情が依然、不安定であることを物語っているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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