債務残高がGDPの2倍という異常さ – 篠原孝

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<借金が増え続ける日本>

 政府が2010年代初頭にプライマリーバランスの黒字化を目標とした財政運営を着手すると決めてから久しい。しかし、やれ災害だやれ経済の活性化だと蔑ろにされ、そこにコロナという異常事態に追い打ちをかけられいつの間にか先走りしても仕方がないと、あまり声高に叫ばれなくなった。

 2020年度以降、新型コロナウイルス対策で巨額の補正予算が組まれ、2022年度予算も10年連続で過去最高となった。飲食業、観光業等がコロナの影響で落ち込みが激しく税収は延びるはずもなく、歳入の3割強を国債(国の借金)が占めている。

 昨今、各国とも財政赤字の問題を抱えているが、日本の22年度末の債務残高はGDPの2倍強に達し、世界一の借金国なのだ。ただ、日本は対外的には債権国である。

<将来世代へのツケ回しは慎むべし>

 コロナがいくら前例のない緊急事態を招いているとはいえ、財政の健全化を無視していては将来世代に対して申し訳が立たない。これは仕方がないで済まされることではない。贅沢を極めている現代日本に生きる我々自身が痛みを分かち合い、将来の子孫にツケを回さないようにすべきなのである。もちろん、国民の生活は大切であり、財政規律が全てでないにしても、やはりある程度の自制が必要である。コロナ対策もあり歳出増は仕方ない面もあるが、やはり野放図ではまずい。コロナ対策といえども無駄、さらにはGo To TravelでのHISのようなゴマカシが横行する給付金などは厳しく見直す必要がある。

 これに対して、いや心配はいらないという「現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)」が登場した。アルゼンチンやギリシャと違い、日本は円で国債を発行しており、紙幣をいくらでも刷ることができる。つまり国が金持ちの国民・企業から借金しているだけで、破綻する心配はないというのだ。確かに積極財政派にとっては耳障りがいい話である。

<インフレが来たら崩れるMMT>

 ただ、貨幣が市場に出回りすぎるとインフレになる危険がある。日本は異次元の金融緩和で金利を低く抑え、国債の利払いも低く抑えることで、インフレが起きていない。それどころか、デフレが長く続いており、賃金も上がらないでいる。従って、GDPの6割を占める消費は増えず、投資も増えず経済は停滞したままである。このところ円安が続き、ガソリンをはじめ輸入品に頼る食料価格もじわじわと上がり始めており、皮肉なことにグローバル化した経済のトバッチリをうけて、やっと念願の約2%のインフレ目標が達成されるかもしれない。

 ただ、このまま物価が高騰すると金利も上昇し、国債価格は下がり、国債の借り換えも新規発行もできなくなり、政府も資金調達ができなくなる恐れがある。そうなると政府のサービスを維持するために増税し、支出を抑えなければならなくなるという岐路に立たされることになる。

<格差是正には税制改革が必要>

 常識的にみて、やはり国債に頼らない財政運営が望ましく、そのための税制改革が必要である。

 弱者にしわ寄せがいく消費税を、デフレ脱却・景気回復のために一時的に下げるべきというのが野党のコンンセンサスであり、先の総選挙でも主張された。しかし、無い袖は振れない。国債にだけ頼ることなく、他の財源も持たなければならない。

 第一に、単純ではあるが、1980年代に富裕層に有利な税制改正が行われたが、国民の間で格差が拡大していることからそれを元に戻し、所得税の累進課税を強め、金融所得に課税することが考えられる。一億総活躍社会や、分厚い中間層は今や無くなったに等しい。

<平等の国が指摘する富裕層が豊かになる矛盾>

 年末年始、一握りの世界の金持ちが大半の富を独占しているという記事が新聞紙上を賑わせた。

 12月27日の東京新聞にはフランスの世界不平等研究所(トマ・ピケティ所長)の報告を以下のように詳細に報じている。

世界では、
① 1%の富裕層(約5,100万人)が資産の37%を独占、下位50%層(約25億人)が持つ資産は全体の2%
② 最上位の2,750人だけで3.5%に当たる12兆ドル(約
1,490兆円)を占める
③ 過去約30年間で増えた資産の38%を上位1%が占める
④ 上位1%がCO2排出量の17%を占める
⑤ 女性の収入が労働で得られた収入の35%にとどまる

日本では、
⑥ 上位1%が24.5%、下位50%が5.8%でコロナ前後で変化なく、世界の格差よりも緩やか
⑦ また、女性の収入の割合は28%とG7の中で最低で、中国(33%)、韓国(32%)より低い

<アメリカに次いで富裕層の多い日本>

 1月3日の日経も、これまたフランスの「キャップジェミニ」(世界的なコンサルタント会社)のWorld Wealth Reportを引用し、数十億円以上の金融資産を持つ超富裕層の拡大を報じている。コロナ危機で世界経済がマイナス成長に陥った2020年、金融資産を100万ドル(約1億1,000万円)以上保有する富裕層は6%増えて2,080万人となり、更に日本はアメリカ(約650万人)に次いで2番目(約350万人)に富裕層が多いという。

3,000万ドル(約3億円)以上を保有する超富裕層「ウルトラ・ハイネット・ワース」と呼ばれる層も10%増の20万人に達した。富める者がますます富み、一方で日本のように賃金がさっぱり上がらない階層との格差は拡大しているのだ。さすが自由・平等・友愛の三色旗を国旗とするフランスは、不平等は放っておけないようで、問題点をしっかりと指摘している。

<トリクルダウンは起きず、格差は拡大>

 以上からわかる通り、貧富の格差は拡大し、富の集中が強まっているのだ。富裕層が潤えば低所得層にも恩恵があるという安倍政権の提唱する「トリクルダウン」は起きず、逆に大富豪の資産が拡大したのである。つまり、安倍政権こそ「悪夢の政権」だったのだ。

 だから富裕企業の代表である世界的なデジタル企業、GAFAM等が世界中から富を集めていることは明白であり、アメリカもEUも何とかして課税をしようと取り組んでいる。世界一の大富豪ビル・ゲイツは750億ドル(8兆5千億円)の資産を持ち、発展途上国や製薬会社、WHO等に寄附しているが、慈善事業に頼っていてはとても富の再分配にはなりそうにない。

<世界共通で税制を改革>

 岸田首相は昨年の自民党総裁選の折りに、「成長と分配」のスローガンに則って、金融所得課税を打ち出したが、株価が急落するというグロバルマーケットの猛反発を受け、その後の総選挙では何も言わなくなってしまった。国内政治経済が巨大な外国企業に気兼ねしないとならなくなった。過度なグローバル化の弊害が如実に現れたのである。

 こうした中、21年10月のG20、財務相・中央銀行総裁会議で法人税の最低税率を15%に定める合意がなされたのは、画期的なことである。世界各国が企業を自国に繋ぎ止めるために、法人税率を下げる競争をしていたら、ますます企業だけが儲かり、国民や労働者に恩恵はいかなくなってしまう。そして日本企業のように484兆円(20年度)の内部留保というのでは経済停滞の一因となってしまう。

また、これだけグローバル化した世界では各国が協力して課税の仕組みを考えなければ、節税ならぬ脱税だらけになってしまう。消費税より、儲けているのに税金を取られない大金持ち・大企業から税を徴収することが先である。
 将来的には、課税のルールが確立していないデジタル業界で急成長を遂げているGAFAM等から税を集め、財政運営に充てる途を考えるなど、富裕層への課税を真剣に考えていかねばならない。