アマゾンの「ラストワンマイル」担当者にインタビュー–置き配やロッカーにかける思い

CNET Japan

 コロナ禍で活用が増えているECサイト。物流の総量の増加に加え、荷物を直接手渡さない「置き配」や受け取り場所の拡大など、サービスの選択肢も増えているのが現状だ。

 通販サイト「Amazon.co.jp」の配送における“ラストワンマイル“を担当するアマゾンロジスティクスで事業部長を務めるAwanish Narain Singh氏に話を聞いた。


アマゾンジャパン アマゾンロジスティクス 事業部長 Awanish Narain Singh氏

——まず、アマゾンロジスティクスの担当領域を教えてください。

 アマゾンロジスティクスは、アマゾンの配送におけるラストワンマイルを担当しています。お客様に笑顔とともに商品を届けられるよう、日々継続したイノベーションに取り組むことが最大のミッションです。

 また、配送業務に携わる従業員や、さまざまな配送パートナーたちが気持ちよく仕事できる職場作りにも注力しています。安全、安心に仕事ができる環境から商品をお届けすることが、お客様の安心につながる最も重要な点と認識しています。

 日本では、2018年の東京デリバリーステーションの立ち上げから事業を開始しました。スピードと確実性、品質に注意しつつ、新しいテクノロジーを活用してさまざまな観点から顧客体験の向上を図っています。

——日本でのこれまでの具体的な展開を、いくつかお話いただけますか。

 2018年から2021年にかけて、配送拠点となるデリバリステーションを28都道府県に29カ所開設し、配送ネットワークを強化しました。

 2019年には、非対面、非接触で配達が可能となる「置き配」の日本での展開を開始しました。新型コロナウイルスの流行が始まる少し前からスタートしています。

 再配達の必要がないためドライバーの負担が軽減できる、二酸化炭素の削減につながるというメリットがあり、実際に開始してみると、配達先となるお客様からも利便性という観点で好評をいただいています。

 3月には、アジア地域ではじめて、オートロック付きマンションへ商品をスムーズにお届けできる「Key for Business」を開始しました。ドライバーが配送アプリから安全にオートロックを解除できるため、お客様が不在でも置き配を利用できる、というサービスになります。

 大東建託パートナーズや綜合警備保障(ALSOK)をはじめとする認定パートナーと協力して、東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、福岡県の200棟のマンションへの導入からスタートしました。Apaman Property、東急不動産ホールディングスグループなどの管理物件にも拡大し、北海道、千葉県、埼玉県、京都府、兵庫県などを対象地域に追加しました。今では10都府県、1000棟以上のマンションで利用いただけるサービスとなっています。

 9月には、注文した商品を指定した配送先で受け取れる「Amazon Hub」の配送先として、「Amazonロッカー」を追加しました。お客様が指定したロッカーへ配達が完了すると通知メールを送信し、バーコードの読み取りや認証キーの入力、「Bluetooth」接続などでロッカーを開けることができるサービスです。

 130近い企業と連携してロッカーを設置し、11月には23都道府県で約1800個のロッカーを用意しています。使用する電力も少なく、環境へも配慮したサービスとなっています。


Amazonロッカーのイメージ

 商品を配達いただくドライバーへの取り組みとしては、日本の配送パートナーとなるヤマト運輸、佐川急便、日本郵政などとの連携に加え、個人事業主がデリバリーパートナーとなって働けるプログラム「Amazon FLEX」と、パートナー企業で構築している「デリバリーサービスパートナープログラム(DSP)」という2種類のプログラムを用意しています。

 ドライバー向けの地図といった新しいテクノロジーの導入や、業務の方法、スタンダードな作業オペレーションなど、スピードと確実性、品質を両立できる取り組みに注力しています。

 中でも、コロナ禍への対応は大きなトピックといえるでしょう。安全、安心に働ける環境のため、スタッフ、ドライバー、パートナードライバーなど、業務に携わる全ての方の検温、消毒などを実施しつつ、従業員やスタッフ同士が間隔を保ちつつお互いを目視で確認できるなど、環境作りに注力してきました。変更したオペレーション数は200ほどに上り、アマゾンのガイドラインのほか、WHOなどのさまざまなルールに準拠しています。

——やはりコロナ禍への対応は大きなトピックスですよね。何か他に始めたこと、変更を余儀なくされたことなどあれば教えてください。

 日本だけでなく世界的に、コロナ禍、特にロックダウン中の需要は増える傾向があり、実際に配達する総量は増えています。

 しかし、テクノロジーやインフラの整備などさまざまに取り組んできた結果、配送のスピードや品質は強化できています。これらはコロナ禍へ対応するための新たなプログラムというよりは、もともと準備していたものを実行したという説明が正しいでしょう。国境をまたぐ採用など、予定していながら実現できなかったこともありますが、大きく影響したものはありません。2020年の計画という観点では、取りこぼしなく全てが計画通りで、皆様からも高い評価をいただいています。

——コロナ禍で特に何か準備したというよりも、普段からのサービス強化がコロナ禍にもつながったわけですね。特に評価が高い、代表的なものなどありますか。

 大きく評価をいただいているサービスとしては、置き配があげられるでしょう。日本では名古屋で試験サービスを実施したのですが、その後東京で実施した際では、そのニーズが大きく異なりました。一軒家が多い名古屋に対し、マンションなどの集合住宅が多い東京、というエリアごとの特徴があったのです。

 今では、日本独自の展開として、置き配先を「玄関の前」「自転車のかご」「車庫」「マンションの宅配ボックス」「マンションのレセプション」「ガスのメーターボックス」の6カ所から選択できるようにしました。置き配自体は他国でも展開するサービスですが、学んで試行錯誤する必要性を再認識しました。

 また、置いた荷物が違う、なくなるなどが万が一あった場合、カスタマーサービスセンターが都度対応しています。置き配サービス提供前後でのトラブル数は増加しておらず、全体的な満足度が向上しています。お客様に最高の顧客体験を提供するだけでなく、常に向上を意識している結果だと思っています。

——Awanishさんは日本に来る以前は、インドでもお仕事をされていたと伺っています。置き配のほか、日本独自のものはありますか。ラストワンマイルにおける、日本の特徴などあれば教えてください。

 ほかに日本独自に開発したものとしては、フルフィルメントセンターがあります。日本でいわゆる倉庫と呼ばれるものは、他の国だと比較的広く、地上階だけで対応できることが多いです。

 しかし、日本はの場合は土地が狭く、2~4階建てが一般的です。日本独自のエンジニアリング、テクノロジー開発が必要な点といえるでしょう。

 また、東京はかなり複雑に入り組んだ土地です。配達が少しでも楽になるよう、ドライバー向けの地図アプリにはナビゲーション機能を加えています。

 アマゾンには世界での20年以上の経験があり、さまざまな経験や学びを各地域に伝えています。日本で学んだ知見やセーフティープロセスも、他の地域に伝えているところです。

 日本のラストワンマイルの特徴は、スピードと利便性を重視していることでしょう。もともと物流の仕組みができているので、配送は結構早いんです。eコマースやオンラインショッピングにも比較的慣れていて、ある程度の土台ができている。社内でイノベーションを考える際も、スピードと利便性というところに特に注力するよう心がけています。

 また、安心、安全への意識も高いですね。ほかの国で開発されたベストプラクティスを検討する際は、まずは現場の方々からのフィードバックを確認していますが、常に安心、安全といった観点からのフィードバックが多く集まりますね。そういった安心、安全への意識は最終的に荷物をお届けする先にも伝わると捉えているので、意見を主張する場や、主張しやすい職場環境の構築などにも力を入れています。私たちが一番大事にしている点と言えるでしょう。


コロナ禍のためマスクを着用

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