欧州アルペンスキー国の「懸念」

アゴラ 言論プラットフォーム

オーストリアは今年の第32回東京夏季五輪大会では予想外の成果を上げ、国民は大喜びだった。メダル数では金1、銀1、銅5の計7個を獲得した。メダル総数では2004年のアテネ大会の8個に次いで歴代2番目の成果だ。国民にとって最高のエキサイティングな五輪大会となった。同時に、新型コロナウイルスの感染拡大の下で大きな不祥事もなく、17日間の競技を無事終了したということは、ホスト国日本が世界に誇ることが出来る結果となった。

アルペンスキー国オーストリアの女子大回転(オーストリア・スキー連盟公式サイドから)

オーストリアは本来、ウインター・スポーツのメッカだ。過去2回、インスブルックで冬季五輪大会を開催した実績がある。2006年のトリノ大会では金メダル9個を含め23個のメダルを獲得してメダル獲得数では出場国中3番目だった。2018年の韓国平昌大会では金5、銀3、銅6、計14個のメダルだった。来年2月4日から始まる第24回北京冬季五輪大会にアスリートばかりか国民もメダルへの期待は大きい。オーストリアは、長野冬季大会(1998年)で大回転とスーパー大回転で2個の金メダルを取ったヘルマン・マイヤーや、ワールド・カップ総合優勝8連覇の大記録をつくったマルセル・ヒルシャーを輩出したアルペンスキー大国だ。

ところが、オーストリア・スキー連盟(OSV)関係者から北京五輪に対して不安と懸念の声が聞こえる。OSVでアルペンスキーの組織準備責任者パトリック・リムル氏は、「北京大会はわれわれにとって大きな挑戦だ。問題はアルペンスキー競技が実施されるオリンピック競技場のアルペンスキーセンター(北京市延慶区)を訪ねたことがないことだ。私たちはスキー・クロッサーなど限られた競技の体験しかない。そのうえ、新型コロナウイルスの感染対策は昨年以上に厳しくなった」という。

スキー選手は大きな大会前には必ず現地を訪ね、コースなどを視察し、距離感、傾斜などの感触を学ぶ。W杯大会となれば、一流選手は過去、何度もそのコースを滑ったことがあるので不安は少ない。しかし、北京の場合、選手も関係者も現地を全く視察したことがない。選手や関係者もコースへの不安や雪の状況について懸念を払しょくできないわけだ。

リムル氏は、「前回の韓国平昌大会では、大会前に5回、現地を視察した。延慶では、昨年(男子)と今年(女子)のW杯レースが行われる予定だったが、コロナウイルスのパンデミックのため、レースはキャンセルされた」という。

リムル氏によると、「来年1月22、23日開催されるキッツビュール大会後、中国に飛び、宿泊施設や競技会場をみて、現地の雰囲気を感じたい。選手団は1月28日、29日には中国入りする予定だ。ただ、確認済みのフライトはまだない」という。

参加国に対する中国側からの要請はコロコロ変わるという。リムル氏は、「オーストリアとしては、自国のホスピタリテイ・チームを派遣し、わが国から料理人を連れていきたいところだ。ただし、可能としても現地での食材確保は大丈夫かなど不明な点は多い」と述べている。

オミクロン変異株が広がっていることもあって中国側の検疫体制は厳格なだけに、選手たちにとって負担は大きい。北京大会では選手や関係者と外部との接触は遮断される「バブル方式」だ。

なお、オーストリアのネハンマー首相(国民党党首)は、「五輪参加問題を政治化する考えはない」と強調し、米国、英国、カナダなどの外交ボイコットには加わらない意向を明らかにしている。新型コロナウイルスが広がった時、中国からマスクや医療保護服の支援を受けるなど、オーストリアは中国とは友好関係を維持している。ちなみに、コグラー副首相(スポーツ担当相兼任、「緑の党」党首)は、「中国当局の人権弾圧に抗議する。北京の冬季五輪には参加する予定はない」という。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。