Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
Facebookによって立ち上げられた「OCP」
今週はOCPの規格の話。前々回の『これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯』で示した一覧で、OCPに関しては以下3つの規格があることを紹介した。
また、これ以外に100G CWDM4-OCPというものもあったが。これらを順に説明していきたい。
- 200G-FR4-OCP 200G
- 400G-FR4-OCP 400G
- 800G-FR4-OCP 800G
まずはOCP(Open Compute Project)について。Facebook(現Meta)によって立ち上げられたプロジェクトであるが、最初のデザインは2009年にスタート。2011年にそれをOCPというかたちで公開し、ここからプロジェクトがスタートしている。
OCPそのものは、幸い僚誌「クラウドWatch」にいろいろ記事が上がっているが、立ち上げ前後の事情は、『データセンター標準化の流れになるか ハードのオープンソース化目指す「OCP」』が分かりやすい。
要するにOCPは、Facebookのみならず自社でサーバーを立てたいと考える企業や、そうした企業にシステムを導入したいと考えるベンダーに対してのデファクトスタンダードを提供する組織で、そこにはサーバーの仕様だけでなくネットワークスイッチやEthernetそのものも含まれている。
OCPとしては、互換性とか相互接続性が担保されるのであれば、必ずしも標準化が済んでいなくても積極的に採用する方向を見せており、その意味では、過去に紹介したさまざまなMSAと非常に近い立場にある。
そのOCPが2017年1月9日に最初にリリースしたのが、「Facebook: CWDM4-OCP 100G Optical Transceiver Specification」である。ちなみにこれはSpec Version 0.1となっているが、この状態でShared(共有)とされ、この内容でほぼ確定している。OCPとしては、IEEEのように、きちんとVersionを1.0まで引き上げるということには頓着していないようだ。
CWDM4-100Gをベースに仕様を緩めた「CWDM4-OCP-100G」
そのCWDM4-OCP-100Gであるが、仕様そのものは恐ろしく簡単だ。ベースになる「CWDM4-100G」はCWDM4 MSAが定めたもので、こちらの記事でも紹介している。その仕様を緩めたのが「CWDM4-OCP-100G」で、具体的な違いは以下の通りだ。
最初の変更点は、2kmの到達距離を500mへと縮めたことだ。『25Gbps×4をSMF1本に集約し100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」と、10/20/40kmの「4WDM MSA」』ではGoogleのデータセンターに絡めて触れたし、『400GbEはFacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張』ではFacebookのデータセンターの例を示しているが、データセンターそのものがかなり巨大で、500mの到達距離では十分ではない、というのがCWDM4 MSAの出発点である。
こうした事情が特に変わったわけではない。例えば、Facebookのデータセンターの例を出した記事でも示した以下のスライドにもあるように、全体の79%は500m未満である。そうであれば、残りの21%は到達距離2kmの規格を使うとして、近距離の配線はより短距離向けの規格で代替しても支障はないことになる。
次の変更点は、Passive Coolingでの動作だ。CWDM4-100Gの場合、2kmの到達距離を実現するために出力を高める必要がある。また、CWDM4ということで4波長を安定して出力する必要もあることから、モジュールにはActive Coolingが必要とされていた。
要するに、冷却ファンなどを取り付けることで強制的に風をヒートシンクに当て、温度を下げる方策が必要である。実際には、モジュール側へファンを付けるのは現実的ではないため、レセプタクルの側にヒートシンクとファンを取り付け、これで冷却を行うかたちとなる。
ただ、当然ながら発熱は増えることでもあるし、ファンということはモーターを動作させるわけで、可動部があるコンポーネントをシステム内に入れれば、故障はその分増えることとなる。
到達距離を500mまで減じたということは、送信出力を抑えても到達できるということででもあり、これはそのまま消費電力を減らせることにつながる。
Passive Coolingでも動作させるカギは温度範囲の設定にアリ
そこで、Passive Coolingでも動作するところまで消費電力を減らすというのが、2つ目の目的になった。
これに関係するのが動作温度範囲だ。CWDM4-100Gでは、0~70℃という動作温度範囲が設定されている。こうした動作環境が、CWDM4 MSA側では読み切れない以上、この程度の幅を持たせるのはある意味当然である。
ただ、OCPの場合、利用するデータセンターの環境なども別の仕様で定められているため、ここまで厳しい動作環境を想定する必要がない。そこで動作温度範囲を15~55℃へと緩めることとした。
これは発光/受光素子の動作条件を緩めることになり、より安価な素子を利用してトランシーバーを構築できることになるわけだ。要するに、CWDM4-100Gをベースとしつつ、OCPが想定しているデータセンターの、比較的近距離の接続向けと割り切って最適化を図ったものが、CWDM4-OCP-100Gというわけだ。
その結果、OMA Each Laneの最小値である「Tx OMA」が、-4dBm(≒0.4mW)から-5dBm(≒0.3mW)へ、OMAからTDPを引いたLaunch Powerの最小値である「Tx OMA-TDP」が-5dBmから-6dBm(≒0.25mW)へそれぞれ減っており、BERに5E-5を保証した状態での受信感度も、-10dBm(0.1mW)から-9.5dBm(≒0.11mW)へ引き上げるといった仕様変更が可能になった。また、Link Lossも3.5dBから5dBへ引き上げられており、やや質の悪いSMFであっても利用可能となっている。
ちなみに、例えば送信側で言えば、レーンあたりの最大出力であるAverage Launch Power, each lane(max)の値である2.5dBm(≒1.78mW)や、全レーン合計での最大出力であるTotal average launch power(max)の8.5dBm(≒7.1mW)といったパラメーターそのものは変更されていない。このため、既存のCWDM4-100Gのモジュールをそのまま利用することも、もちろん可能である。
ただ、こうしたものはあくまでも最大値であって、実際はもっと出力を落としても利用できるという話だ。そして、その分消費電力を減らして、Passive Cooling可能なモジュールをCWDM4-OCP-100Gとして定義した、という格好である。
低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
問題は、このモジュールやスイッチを誰が製造するのか?という話なのだが、これも仕様が発表された時点で、トランシーバーモジュールをColorChipとII-VI Incorporated(旧Finisar)が、スイッチをEdgecore NetworksとCelesticaがそれぞれ提供することが明らかになっている。
その後も各社からこれに対応したトランシーバーやスイッチがそれぞれ提供されているので、入手性という意味でも悪くはなさそうだ。
あくまでOCPの仕様に沿ってデータセンターを構築する場合でなければ、いろいろと面倒はありそうだが、低価格な100G Ethernet規格として比較的広く流通を始めているのが、この「CWDM4-OCP-100G」というわけだ。