3党連立政権が問いかける結束力

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単独で政権が維持できた時代は既に過ぎた。選挙で第1党となった政党は議会で過半数を獲得し、安定政権を発足させるためにジュニア政党を探し、連立交渉をする。そして双方が譲歩し、歩み寄ることができれば連立政権が実現できる。そうでない場合、連立交渉は失敗したということになる。

新首相宣誓式に臨むショルツ氏(2021年12月8日、連邦議会公式サイトから)

2党連立政権はまだいいが、3党、それ以上の政党による連立政権となった場合、その政権は明確な政策を貫徹できるだろうかという疑問が出てくる。政権が誕生し、首相や閣僚の地位を得たが、政策や公約は実行できないという事態に陥るケースが考えられる。

ドイツ連邦議会で8日、社会民主党(SPD)、「緑の党」、そして自由民主党(FDP)の3党から成るショルツ連立政権が発足した。これを受け、16年間続いた「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)主導のメルケル政権は幕を閉じ、ドイツ政権はいよいよポスト・メルケル時代に入る。

9月26日の連邦議会選でSPDは第1党となり206議席を獲得、「緑の党」158議席、そしてFDPが92議席を獲得し、3党の総数456議席で下院の過半数(定数736議席)を占める。議席数からいえば、3党連立政権は安定政権だが、3党は同じ政治信条、政策を信奉しているわけではない。

ドイツの場合、4週間を超える3党連立交渉ではその相違を克服するために全力が投入されたというより、3党連立を実現するために歩み寄りが最優先された。ポスト・メルケル時代に突入する現代、ドイツの政界は刷新し、新しい時代の課題を乗り越えていかなければならない、といった使命感が3党には強かった。連立協定のタイトル「自由、正義、持続可能性の為の同盟」をみても、3党の連立政権発足への意気込みを感じる。

問題は、連立交渉が成功裏に終わり、連立協定がまとめられたからと言って、各党の相違が霧消したわけではないことだ。例えば、連立交渉では、増税を強く反対するFDPの主張を他の2党は受け入れ、高速道路のスピード制限でも「緑の党」はFDPの意向をくみ、それを連立政権の公約から外すなど譲歩した。連立交渉では、SPDと「緑の党」の間の相違より、同両党とリベラル政党FDPとの相違をいかに克服するかに焦点が注がれた。

ドイツでは州レベルでは3党連立政権は過去にもあったが、連邦レベルでは今回が初めてだ。その意味でショルツ3党連立政権が任期4年間を満了できるか、それとも連立解消で早期選挙の実施となるかは、現時点では判断できない。

奇妙な言い方だが、ショルツ政権はラッキーだ。コロナ感染が猛威をふるい、その対策に没頭せざるを得ない時、ショルツ連立政権はその大義のもとで結束できる。新型コロナウイルスの感染が拡大し、新規感染者が増加し、オミクロン変異株が拡散の気配を見せている時だ。新政権の緊急課題はコロナ感染対策だ。その意味で、与野党は一致している。ショルツ首相は政権発足前から、「連邦首相府にコロナウイルス危機対策チームを常設する」と表明するなど、コロナ感染対策に全力を投入する決意を表明してきた。

問題は、ウィズコロナ、ポストコロナ時代に突入した時、政治信条が異なる3党が果たして連立の結束を維持できるかだ。例えば、コロナ救済策の財源を確保するために増税の必要性が出てきた時、シュルツ政権は3党間でコンセンサスを見つけ出すことが出来るだろうか。

一国の連立問題だけではない。欧州連合(EU)の加盟国数でも分かるように、加盟国が増えればそれだけコンセンサス作りが難しくなる。フランスのマクロン大統領はバルカン諸国のEU加盟には消極的だ。EUとして共通政策、外交、防衛政策の実現が一層難しくなるからだ。

21世紀はグルーバルな世界であり、社会は多様性を標榜する。各自が独自の意見を語り、各党が独自の政策を主張する。その社会で連帯し、結束することは容易ではない。コロナ感染問題はその多様化社会、グルーバル世界で違いを超え、結束、連帯できる“大義”を提供している。パンデミックを克服するという大義だ。

多くの人は立場の違いとは関係なく、ポストコロナ時代の到来を待っている。大義を掲げることができるコロナ時代に、我々は忘れかけてきた社会の結束、連帯を取り戻すべきだろう。ポストコロナ時代はその前の時代よりコンセンサスを見出すことが一層難しくなることが予想されるからだ。ドイツの3党連立政権の今後の動向に関心を注ぎたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年12月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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