音声SNS「Clubhouse」はポルノや嫌がらせといった問題の取り締まりに苦戦している

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2020年4月に立ちあげられた音声SNSの「Clubhouse」は、新型コロナウイルスのパンデミックで人々の交流が難しくなっている中で大きな注目を浴びました。ところが、「Clubhouseではポルノのやり取りやユーザーへの嫌がらせなどが行われており、運営によるコンテンツのモデレーションが不十分だ」と訴えるユーザーの声を、インドのメディアコングロマリット・Network18 Group傘下のニュースウェブサイトであるMoneycontrolが報じています。

Porn, Bullying and Body-part Auctions: Inside Clubhouse India’s Content Moderation Struggles
https://www.moneycontrol.com/news/business/porn-bullying-and-body-part-auctions-inside-clubhouse-indias-content-moderation-struggles-7790081.html

2021年11月28日の夕方、Clubhouseのヒンディー語ユーザーが集まる部屋において、男性グループが「女性のオークション」を行っていたことが判明しました。Twitterに投稿された音声記録によると、ある人物が特定の女性の名前を挙げ、「私は(女性の名前)のために5ルピー(約7.5円)を支払う」と言えば他の男性が「彼女には1パイサ(100ルピー:150円)の価値がある」と返すなど、女性の容姿に値段を付ける会話を行っていたとのこと。

このオークションの対象になってしまったというSwaty Kumarさんは、「私は汚されたと感じ、嫌悪感を覚えます。荒らしたちによって体の一部をオークションにかけられるのが好きな女性はいません」と、Moneycontrolに対して述べています。音声記録がTwitterに投稿された後、「Singlepur」というこの部屋はすでに削除されましたが、KumarさんはClubhouseの運営からこの一件についての説明を受けていないと主張しています。


Clubhouseはパンデミックによる都市封鎖や移動の制限が各国で導入された2020年に登場し、既存ユーザーからの招待を受けた人物のみが参加できる招待制SNSとして、シリコンバレーの起業家やアーティストなどを中心にユーザーを獲得してきました。2021年1月にはテスラのイーロン・マスクCEOがClubhouse内の番組に登場して話題を呼び、多くのユーザーがこぞって招待を求めました。

Moneycontrolの取材に応じたRahulという人物も2021年2月にClubhouseデビューを果たしましたが、当初は有名人が多く集まるSNSだったことから、自分の存在が場違いなものに感じたとのこと。しかし、Clubhouseが2021年5月に招待制を廃止して一般ユーザーも自由に参加可能になるにつれ、交わされる会話もより平凡なものにシフトしたため、Rahul氏はClubhouse内で友達を作って何時間も入り浸るようになりました。

8月頃にRahul氏は、「もっと下品な話ができる部屋が欲しい」という友人たちと共に、Clubhouse内に「18禁のクラブ」を作りました。Clubhouse内では特定の興味を持つユーザーが集まって「クラブ」を作り、クラブ内で開催されているイベントやショーに参加することが可能です。当時はClubhouse内に汚い話ができる18禁の部屋はほとんどなかったそうで、Rahul氏らのクラブで開かれた部屋には、時に1000人以上ものユーザーが集まることもあったとのこと。「私たちは午後2時から午前3時、4時まで1日中話すことができました」とRahul氏は述べています。

当初18禁のクラブで作られる部屋は必ずしも下品な話題ばかりではなく、多くの医学部生がセックスやオナニーなど、性教育に関する質問を受け付けるような部屋もありました。ところが、18禁のクラブが人気を博するにつれて、多くの苦情を集めるようになったとのこと。Rahul氏は「私たちが何か悪いことをしたのかどうかはわかりません。コミュニティガイドラインは、このような部屋を作成するなとは言っていません。私たちは誰にも話を強制しません……それは全て合意です」と述べています。Rahul氏はすでにクラブを抜けたそうですが、記事作成時点では4万人以上のユーザーが今もクラブに参加しているそうです。


実際にMoneycontrolの記者がClubhouseの18禁クラブに潜入したところ、一部のクラブではヌード写真を交換する部屋やプライベートのセックスビデオチャットに誘導する部屋、「ライブの音声ポルノ」を提供する部屋などが作られていたとのこと。ある部屋では、「ヌード写真が欲しければクラブに参加して、電話番号を送信してください」とリスナーに呼びかけ、カウントダウンが終わるまでに実行した男性をスピーカーにして、実際にヌード写真が共有されたことを証言させるといったやり方が行われていたそうです。

また、若者がWhatsAppの番号を交換するための「Cash or Exchange(現金か交換)」という部屋も開かれています。この部屋ではホストが1人の男性または女性をスピーカーにして、部屋の中にいる「WhatsAppの番号を交換したい相手」を指名させ、その相手もスピーカーにして話し合いをさせます。2人が話し合った結果、お互いに合意すればWhatsAppの番号を「交換」し、合意に至らなければ会話のお礼として「現金」を指名した相手に渡すという仕組みです。

Cash or Exchangeに参加しているKarthigaという19歳の女子学生は、「私たちは性的なものを望んでいません。これはただ、楽しんで人に会うためのものです」と述べています。しかし、時には思い通りに番号を交換できなかった男性が女性に暴言を吐いたり、嫌がらせをしたりするケースもあるとのこと。「ええ、何人かの男性が私を侮辱するために下品な言葉を使った時、私はハラスメントに直面しました。しかし、これまでのところ、より深刻な問題にエスカレートしていません」とKarthiga氏は述べていますが、中には苦情を申し立てなければならないほどの嫌がらせを受ける女性もいるとKarthiga氏は認めました。

Clubhouseでは基本的に本名での登録が義務づけられているため、嫌がらせがClubhouse上にとどまらず、別のSNSに波及することもあります。ある性的少数者の男性はLGBTQ+に関する部屋に参加して意見を述べたところ、複数のSNSで嫌がらせを受けるようになったとのこと。また、Clubhouseでの議論に参加したある大学生は、大学のウェブサイトを経由して個人情報やWhatsAppの番号を入手されてしまい、嫌がらせのメッセージを受け取ったそうです。

テクノロジー関連に詳しい弁護士のRaj Pagariya氏は、Clubhouseの運営が受け取る苦情はTwitterやInstagram、Facebookなどのプラットフォームが受け取る苦情の4%に過ぎないものの、本当の問題は嫌がらせがClubhouseを超えて別のプラットフォームに波及することだと指摘。「あなたのオンライン上のアイデンティティを見つけることは難しくありません。私たちは多くのソーシャルネットワークを使っているため、人々は優秀なサイバーストーカーになれます」と、Pagariya氏は述べています。


また、Clubhouseにおける嫌がらせを警察に報告しようとしても、音声ベースのSNSであるため証拠が残りにくいという問題があります。TwitterやFacebookではオンライン上に残されたテキストや画像、動画などが証拠となりますが、Clubhouseでは口頭での暴言や嫌がらせが主体となるため、事前に録音しようと試みていなければ、決定的な証拠をつかむことが困難です。また、インドの警察は音声ベースのSNSについての知識を持っておらず、Clubhouseでの嫌がらせに関する報告書の提出を拒否するケースも多いとのこと。

Moneycontrolが、Clubhouseに対して18禁の部屋における嫌がらせや節度のモデレーションについて尋ねる詳細なメールを送信したところ、広報担当者は「あなたが入手した情報の多くは不正確です。問題となっている部屋のアクターには対処が行われており、私たちは問題の報告の増加を見ていません」「Clubhouseにはいじめ、ヘイトスピーチ、虐待を行うための場所はありません。毎日何十万もの部屋が作られ、その多くは何事も起きません。コミュニティガイドライン違反が報告され、確認された場合、迅速な措置が講じられます」「私たちはモデレーションについての専門家チームを拡大しており、ここ数カ月間で応答時間が劇的に改善しました」と返答しました。しかし、Moneycontrolが挙げたいくつかの個別事例については、返答がなかったそうです。

Clubhouseのコミュニティガイドラインには、プラットフォームは18歳以上のユーザー向けであると記されていますが、個人の身元をしっかりチェックするわけではないため、実際には18歳未満のユーザーも多数参加していることが指摘されています。Karthiga氏が参加していた「現金か交換か」の部屋でも、18歳未満のユーザーが見つかって退出させられたケースが何度かあったそうで、中には退出させられずに済んだケースもあったと予想されます。


Clubhouseのモデレーションがうまくいっていない理由の1つに、当初のClubhouseはコンテンツのモデレーションに消極的な姿勢を取っており、規模が拡大してから真剣にモデレーションを考慮し始めたということが挙げられます。

Clubhouseの共同創設者兼CEOのポール・デイヴィソン氏はメディアに対し、「ライブグループオーディオでは、人々が何を言おうとしているのか、コンテンツがどのようなものになるのかが事前にわからないので、他のメディアとは本当に異なります」「この問題に対処する特効薬はありません。ニュアンスもオーディオを特別なものにしていますが、これは(プラットフォーム側の)強制を難しくする可能性もあります」と述べ、音声ベースのSNSにおけるモデレーションの難しさを語りました

記事作成時点のClubhouseは、日常生活がパンデミックから回復しつつあることや、TwitterやFacebookなどが音声サービスを展開し始めたことなどを受け、成長の鈍化に直面しています。アダルトコンテンツの増加や嫌がらせなどの問題は、Clubhouseのブランドイメージを傷つけ、さらに収益化を困難にする可能性もあると指摘されています。

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