丼物定食チェーンのそばって意外と悪くない。以前の記事でそう感じた私(中澤)は本丸を攻めてみることにした。吉野家と松屋である。この2社はサイドメニューとしてのそばではなく、そば用の店舗を展開しているのだ。
吉野家は『そば処吉野家』、松屋は『松そば』。丼物定食チェーンのライバルはそばにおいてはどちらが上なのだろうか。
・松そば
まだまだ店舗数が少ないこの2つ。そば処吉野家は全国で30店舗くらいしかないし、松そばに至っては東京都清瀬市にしかない。というわけで、まずは松そばに行ってみた。
実を言うと、私は松そばについては2019年11月の開店時に訪れて食べている。当時の記事にも書いているが、正直に言うとそばとしては結構ダメだった。
・別物
350円くらいで十割そばなのはチャレンジしているものの、麺はやたら細くてプチプチ切れるし、つゆも牛丼つゆみたいな味だし。食べながら「350円の十割そばだしなあ……」と感じてしまったことを覚えている。が、まず訪れてみて驚いたのは……
十割そばではなくなっていたこと。
二八そばに変わっているのだ。それゆえか、そばにコシがあり、十割そばの時にあった素麺っぽさは皆無。つゆもかつお出汁が強くちゃんとそばつゆの味がする。
つゆの味自体は辛めだが濃厚ではないため、個人的にはどっぷりつけて食べるくらいでちょうど良いように感じた。いずれにせよ、せいろ(330円)でそばチェーンとも十分渡り合える味になっている!
素晴らしい。開店当時の記事は「松屋ならできる」と期待も込めて締めさせていただいたが、まさかここまで別物になっているとは。マイナーチェンジどころではない明らかな変化に努力の跡が垣間見られた。昔を知ってるだけにちょっと泣きそうになったぞ。
十割を諦めることにより強さを手に入れた松そば。まさかこんな少年マンガみたいな胸アツ展開をそば屋で目の当たりにすることになろうとは。
・因縁
そば処吉野家はそんな松そばとどういった戦いを演じるのか? 一番近いイオンモール川口前川に行ってみたところ……
十割そばだとォォォオオオ!?
バカな! まさに、松そばが涙をのんだ十割そばの店ではないか。なんてこった……この戦い、予想以上に因縁が絡み合っているぞ。面白くなってきやがった。価格も「もりそば(税込み448円)」と松そばに比べると少し高め。
・やれんのか吉野家
だがしかし、十割そばは丼物定食チェーン未踏の領域。ゆえに、その代償が大きいことは松そばが証明している。やれんのか! 吉野家! 食べてみると……
普通に本格派ッ……!!
乱切りの十割そばはそばの風味が強い。つゆも濃厚なため、半分くらいだけつけて食べた時、そばの風味とのバランスがちょうど良くなるのも本格的な感じがする。吉野家SUGEEEEEE!
・松そばの道
というわけで、そばのクオリティーは吉野家が圧倒的であった。しかし、いざこういう結果を味わってみると、自分でも意外な結論が頭をよぎった。それは、近所に2つともあったとしたら私は松そばを選ぶかもしれないということ。なぜならば……
セットのバランスが良いのだ。
まつのや併設なので、ロースかつ丼も松のやクオリティーだし、松屋自体は『ヽ松(てんまつ)』もやってるので天丼も普通に守備範囲。専門店展開により培われたものが店に集まっていて、どの丼も一線で戦える感じがする。
一方、そば処吉野家は、丼の種類こそ多いものの、中身は吉野家のそれだ。どの丼にしようか迷う松そばに対し、そば処吉野家のセットは、結局牛丼を選んでしまいそう。よって、店に行く時のワクワク度は圧倒的に松そばの方が上なのである。
個人的には、そば専門店ならそば処吉野家の勝ちだが、街のおそば屋さんとしてなら松そばだ。要するに、この2店は戦っているフィールドが違うのだ。
勝負には負けても、試合には勝っている松そば。十割そばを捨てるという選択はこのためにあったのかもしれない。何かを選ぶということは他の何かを捨てるということ。臆するな! 進め!! 松そばにそう言われた気がした。
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.