林芳正外相がテレビでスルーした大問題とは

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林芳正外相が今週日曜(11月21日)朝、フジテレビ系列で全国生放送された「日曜報道 THE PRIME」(日曜午前7時30分)にスタジオ生出演した。外務大臣就任後、これが初めてのテレビ生出演。当然ながら、多くの関係者が注目した。

日曜報道 THE PRIMEに出演する林芳正外相

なかで、番組の松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員)が「対面での日中外相会談を行う考えはあるか」問うと、林外相は「(王毅外相との)電話会談で、中国側からは訪問のインビテーション(招待)がありましたが、現段階でまだ何も決まっていません」と答えた。続けて、松山キャスターが「訪中に向けて調整していくのか」問うたが、林外相は「まだ具体的な調整が始まったわけではない」とかわした。

林外相は明言を避けたが、残念ながら今後、訪中することになろう。げんに、上記番組を放送したフジテレビ系列(FNN)自身、「外務省幹部はFNNの取材に林外相の訪中について検討に入ったことを明らかにした」と報じている。

この日、林外相は、BS朝日の報道番組「激論!クロスファイア」にも出演し、こう明言した。

「日中外相電話会談でも招請は受けましたので、(訪中の)調整はしていこうと」

やはり、訪中に向け、動き出すようだ。産経新聞の「主張」(社説)を借りよう。「就任直後に、軍事的威嚇をするような国へいそいそと出かけるべきではない。外相訪中には慎重な判断が必要である」。

そのほか論ずべき点が少なくないが、ここでは以下、上記フジ番組がおかした大誤報を指弾しよう。

以前「週刊文春」(2017年4月13日号)で紹介されたとおり、私は基本的にテレビを録画再生でしか視聴しない。それがこの日、珍しく生でテレビ番組を視聴した私は、画面を見て驚き、その証拠写真とともに、朝こうツイートした。

写真には、林外相の姿に加え、番組名の横に《「6年以内に台湾有事」現実味? その時、日本は》と書かれたコーナー・タイトルと、その下に「林外相 就任後初テレビ生出演」とのテロップ、そして問題のフリップが写っていた。

フリップのタイトルは「平和安全法制」。以下の5つが上から並んでいた。

「武力攻撃事態など」
「存立危機事態 米艦防護など」
「重要影響事態 米軍などへの後方支援など」
「グレーゾーン事態」
「平時」

……また炎上必至と構えていたが、なぜか一向にその気配がない。すると夕刻になって、米ハドソン研究所の村野将フェローが、同じフリップの写真とともに、こうツイートした。

そのとおり。②そもそも「グレーゾーン事態」に関して「平和安全法制」は一条文も整備していない。さらに言えば、①防護対象は「米軍」だけではない(先日、豪軍艦を防護したばかり)。次の行で二度も「など」を付しておきながら、なぜ「米軍」に限定したのか。

……など、問題だらけのフリップだった。念のため補足すると、フリップに従えば、閣議と国家安全保障会議で「存立危機事態」と認定しない限り、平時の「米艦防護」すら、できないことになってしまう。

正しくは以下のとおり。「存立危機事態」と認定できる有事なら、日米共同対処となる。「米艦防護」という武器使用(警察権)ではなく、防衛出動による武力行使(自衛権)である。似て非なる法概念であり、混同は許されない。

そこで「今朝ツイートした件。」とコメントを付して上記を引用リツイートしたが、ボヤの気配すら起きない。ちなみに2017年9月14日放送のBSフジ「プライムニュース」でも、「北朝鮮の暴走で日本が陥る可能性のあるケース」として「防衛出動」「存立危機事態」「どちらでもない」の3項目を並べた出鱈目なフリップを使用していた。「存立危機事態」なら「防衛出動」となるので、完全な間違いである。そう当時もツイートしたが、なんの反応もなかった。

フジテレビは論外として、スタジオ出演していた林外相も、レギュラーコメンテーターの橋下徹弁護士(元大阪市長)も、いまだに平和安全法制を正しく理解していないのではないか。もし違うなら、これほど重大な問題を、なぜ、その場で指弾しなかったのか。まさか、フジテレビに忖度したわけでもあるまい。

番組での「訪中(招待)」発言は話題を集めたが、そこで使用されたフリップ(および関連発言)の問題を指摘したのは、見た範囲で、村野(と私)しかいない。失礼ながら、大多数の視聴者も気づいていないと見た。

なるほど、外相の「訪中」発言は重要な問題をはらむ。だが同時に、番組で外相が発言しなかった上記経緯も、ひとしく重要ではないだろうか。

きっと中国当局も、日本外相の初出演番組に注目したに違いない。上記経緯は名実とも、彼らに対する誤ったメッセージとなった。