1. 現実的になりつつあるリスク可視化のテクノロジー
多量のデータの蓄積とAIによるリスクパターンの検知により、いよいよ近未来のリスクを予見できるようになりつつある。理屈上は可能ではないかと想像はしていたが、実装されて検証が始まるということは、いよいよ実用段階に入るということか。
すでにApple Watchで一命を取り留めたという事例はいくつか報じられているところだ。最近でも「元看護師が心臓の異変を知ることができ、おかげでペースメーカーを付ける必要が分かった」と語ったことが報じられている(Engadget日本版)。
日本でもさまざまなリスク予知の取り組みがある。まず、筑波大学発のスタートアップ企業、プライムスが開発したのは高齢者のための嚥下(えんげ)計「GOKURI(ゴクリ)」だ(日経ビジネス)。「ネックバンドの内側に備えたセンサーが聴診器のように飲み込む音を聞き取り、正しい飲み込みができていれば外側のランプが緑色に、できていなければ赤色に光る」という装置だ。この装置によって嚥下機能の低下を早期に発見できれば、誤嚥を防止するための対応を取りやすくなる。
自動車事故の防止というテーマでは東京海上ホールディングスが「AIを活用して自動車事故の予兆を検知し運行管理者やドライバーに通知するシステムの実証実験」を開始した(ITmedia)。「ドライブレコーダーから収集したGPSや映像のデータ4400万時間分を活用し、ドライバーが普段と大きく異なる運転をすると事故の予兆として検知し通知する」という仕組みだ。
さらに、ソフトバンクと本田技術研究所は、5G技術などを利用する「歩行者と車による事故低減に向けた技術のユースケース検証」を開始したと発表している(ケータイWatch)。「車両から目視できる歩行者の事故低減」「車両から目視できない歩行者の事故低減」「車両から目視できないエリア内の情報の共有による歩行者の事故低減」などをテーマとしている。
また、街の安全を守るための取り組みも報じられている。西武鉄道では「人や自転車の通行が比較的多い3か所の踏切でAIや3D画像解析を用いた検知システムの導入試験」を発表している(トラベルWatch)。「踏切内の異常(主に「人」の滞留)を検知した際に、特殊信号発光機を動作させ運転士へ危険を知らせる」としている。
三菱地所でも大手町・丸の内・有楽町エリアのカメラ映像により、人流の把握だけではなく、「目が不自由な人や、案内板前で迷っている人、車いす利用者や、転倒したりうずくまっていたりする人をAI画像解析により自動的に発見できる。また、刃物や不審物の放置、暴力行動など、異常な事態についても早期発見が可能になる」としている(Impress Watch)。
柏の葉キャンパス駅周辺でも屋外に設置したカメラ画像から、通行人の異常行動や立ち入りの検知と人流分析を行う(BUILT)。「異常行動の検知では、カメラ画像をAIが分析し、倒れる、うずくまる、つかみかかる、凶器所持行動と判断した場合に検知メールを警備員に発信。立ち入りの検知では、カメラ画像をAIが分析し、立ち入り行動と認識した場合にメールを警備員に送る」という機能を持つ。
そして、凸版印刷とハイフライヤーズは保育園での園児の居場所や健康状態を可視化する実証実験を実施した(ASCII.jp)。「カメラとBluetooth技術を連動することで、園内での園児の居場所が確認できるほか、『MEDiTAG』を園児に装着することにより、脈拍、転倒検知、ストレス値等を計測。園児の急な体調不良の発見等ができる」ということを検証した。
アシックスでは「センサーが内蔵されたシューズを履いてもらい、歩容データをアプリケーションにて記録・分析する」という取り組みを始めた(Impress Watch)。今後のデータ蓄積により、「変形性膝関節症」の改善に向けた研究を行うとしている。
ニュースソース
- データで救う高齢者の命 不慮の事故、AIがリスク先読み[日経ビジネス]
- 自動車事故の予兆を検知して通知 東京海上HDがハワイで実証実験[ITmedia]
- 西武鉄道、AIや3D画像解析を用いた検知システムの導入試験を3か所の踏切で開始[トラベルWatch]
- 凸版印刷、健康状態を把握できる「ID-Watchy Bio」を活用した実証実験 保育園での園児の居場所や健康状態を可視化[ASCII.jp]
- ソフトバンクとHonda、歩行者と車による事故低減に向けた技術検証を開始[ケータイWatch]
- 丸の内エリアに「次世代カメラ」 刃物を持つ不審者も検知[Impress Watch]
- AIカメラを柏の葉スマートシティーに導入、街区での異常行動の検知と人流分析を開始[BUILT]
- 「Apple Watchは私の命を救ってくれた」退職した元看護師が語る[Engadget日本版]
- アシックス、スマートシューズの歩行データを医療に[Impress Watch]
2. 人体を支援するテクノロジーの数々
いま改めて「メタバース」という単語が注目されるとともに、さらには障がい者をいかにデジタル技術で支援するかという課題意識の高まりもあり、人間の感覚とデジタルとをいかに融合するかは今後の研究課題となるのだろう。最近、報じられている人体のセンシングや擬似感覚を実現するテクノロジーについて紹介しておく。
電気通信大学野嶋研究室の研究チームは喉の皮膚を引っ張ることによって「食べ物を飲み込んだ感覚」を再現する嚥下感提示装置を開発した(ITmedia)。「何も食べてないにもかかわらず、飲み込んだ感覚だけを提示できる」としている。
臭覚については、AIによって「食品や化粧品などの匂いを『フルーティ』『フローラル』などの項目でスコア化するシステム『官能評価AI』」の提供をREVORNが始めたことが報じられている(ITmedia)。
さらに障がい者支援のソリューションとしてはスウェーデンのTobii Dynavoxはアイトラッキング技術を専門とする企業で、同社の技術ではタブレット機などを使用し、視線を動かすと大きな円形のカーソルがすぐに動き始め、視線を少しの間固定するとタップ操作が行われ、ボタンを押したりアプリを開いたりできる仕組みを実現する(CNET Japan)。
さらに、グーグルでは言語障害を持つ人向けの「Project Relate」を発表した(ケータイWatch)。「一連のフレーズを録音し、アプリはこれらのフレーズを使用して、独自の音声パターンをよりよく理解する方法を自動的に学習する」としている。そのうえで、「リッスン」=「音声をリアルタイムでテキストに変換する」、「リピート」=「ユーザーが声に出したことを、合成された音声があらためて言い直す」、「アシスタント」=「Relateアプリ内からGoogleアシスタントに直接話しかけると、照明の点灯や曲の再生など、さまざまなタスクをこなす」ということができるという。
ニュースソース
- 食べずに「のどごし」を体感できる装置、電通大が開発 バーチャル環境で飲食を再現[ITmedia]
- “どんな匂いに感じるか”を定量評価する「官能評価AI」 人間頼りの作業を機械化[ITmedia]
- 視線で「iPad」を操作–新たな支援機器「TD Pilot」が登場[CNET Japan]
- グーグル、言語障害の人をサポートする新アプリ「Project Relate」[ケータイWatch]
3. デジタル通貨の普及に向け「デジタル通貨フォーラムNFT分科会」旗揚げ
NTTドコモとKDDI、凸版印刷、HashPort、ディーカレットは「デジタル通貨フォーラムNFT分科会」を設立したと発表した(ケータイWatch)。
この分科会では「『デジタル通貨決済を実現する付加領域』と『デジタル通貨を管理する共通領域』で構成される二層構造のデジタル通貨を用意し、デジタル通貨に対応したNFTマーケットプレイスでの流通を検証する」としている。実証実験では、NFTマーケットプレイスにて販売されるNFTを、デジタル通貨で決済することを想定している。
NFTについては多くの事業化が進んでいるが、画像などのデジタルデータの真正性担保が主な用途だが、今後のビジネス的な応用を考えると、仮想通貨との連携という課題については興味深い点である。
ニュースソース
- ドコモとKDDIら、デジタル通貨普及に向け「デジタル通貨フォーラムNFT分科会」を設立[ケータイWatch]
4. 活発化するドローンの応用事例
ここにきて、ドローンを応用する実証実験や実際のサービスが多数報じられている。
配送系では長野県伊那市とゼンリンのサービス(ドローンジャーナル)やセブン-イレブン・ジャパンとANAのコンビニ商品のドローン配送(Impress Watch)、KDDIの富山県での物資搬送の実証実験(ケータイWatch)、KDDI、JR東日本、ウェザーニューズ、Terra Drone、日本航空によるフードデリバリーサービスの実証実験(ケータイWatch)と、いよいよ現実になりつつある印象を受ける。
新たな観点としてはドコモが行っている「『羽根のないドローン』で、空中を飛行しながらさまざまな色に光らせることができ、アクションカメラの搭載が可能な新型機体」(ケータイWatch)も今後の展開が興味深い。この「羽根のないドローン」は「ヘリウムガスで満たされた風船の浮力によって浮遊し、空気ポンプとして動作する超音波振動モジュールによって推進力を生み出すことで、空中を移動する」という技術で、実用化されればこれまでとは違う用途がありそう。
そして、KDDIと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、パーソルプロセス&テクノロジーでは「全国13地域で同時に飛行するドローンの運行管理システムの実証実験」を実施したと報じられている。「『有人地帯における補助者なし目視外飛行』(レベル4)を見据えた取り組みで、複数のドローンを制御し安全に飛行させる運行システムを開発。検証の結果、全国から機能・オペレーションの両面で運用可能なことを確認した」としている(ケータイWatch)。こうした支える技術がドローンが普及するうえで重要であることは忘れてはならない。
ニュースソース
- 長野県伊那市とゼンリン、河川上空を利用した長距離ドローン配送サービスを開始[ドローンジャーナル]
- セブンとANA、ネットコンビニでドローン配送[Impress Watch]
- ドコモ、「羽根のないドローン」に新型機体、LED搭載でアクションカメラに対応[ケータイWatch]
- ドコモ、新ブランド「docomo sky」でドローン事業を加速–SkydioもLTE通信対応へ[CNET Japan]
- 50機超のドローンを1カ所で同時に管理、KDDIなど3者が「レベル4」見据え実証実験[ケータイWatch]
- KDDI、富山県の中山間地域でドローンを活用した物資搬送の実証実験[ケータイWatch]
- KDDIら5社、ドローンでのフードデリバリーを実現する実証実験[ケータイWatch]
- リアルグローブ、国交省主催「ドローンによる巡視体制の強化」実証実験に協力[ドローンジャーナル]
5. 岸田内閣によるデジタル社会推進の動き
岸田内閣における国のデジタル化に向けた計画が動き出している。
まず、「総務省デジタル田園都市国家構想推進本部」が設置された(総務省)。
そして、デジタル化を進めて都市と地方の格差を是正する「デジタル田園都市国家構想」の実現のために、総務省分としては1311億円超を2021年度補正予算案に計上する方針であることが報じられている(ITmedia)。
さらに、半導体の供給不足が問題視されているなか、経済産業省の補正予算案に7740億円を計上する方向で最終調整をしていると報じられている(ITmedia)。
加えて、データセンターについては大規模災害に備える必要があるとして、新たな経済対策のなかで「地方に分散して整備するための費用を盛り込む」とも報じられている(NHK)。