ThinkPad P1 Gen 4に観る、大和研究所ノートPC放熱設計の神髄 ~筐体サイズや煩わしいファンの振る舞いを抑えて、いかにして膨大な発熱増に対応したのか[Sponsored]

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レノボ・ジャパン合同会社 プロダクト・サーマル・デザイン・イノベーション 北村昌宏氏(左)、レノボ・ジャパン合同会社 プロダクト・サーマル・デザイン・イノベーション マネージャー 内野顕範氏(右)

 レノボ・ジャパンが販売している「ThinkPad P1 Gen4」は、16型WQUXGA(3,840×2,400ドット)のディスプレイ、CPUにIntel 第11世代CoreやXeonを搭載し、dGPU(単体GPU)としてNVIDIA RTX A5000を選択できるという、現時点では考え得る限りで最高スペックのモバイルワークステーションとなっている。

 その名称からもわかるようにThinkPad P1 Gen 4は、ThinkPad P1としては第4世代で、従来の第3世代(Gen 3)と同じブランド名ではあるが、実のところ完全な新製品とも言えるほど大きく進化している。特に「熱設計」については、 本体サイズを維持したまま、57%もの発熱量アップに対応するという、驚異的な進化を遂げている

 そうしたThinkPad P1 Gen 4の熱設計の詳細を、レノボ・ジャパンのヤマト研究所で製品設計を担当している北村昌宏氏と内野顕範氏に話を伺った。

16型16:10のディスプレイを新採用

左が従来の15.6型16:9のアスペクト比を採用した従来モデル、右が16型16:10アスペクト比を採用した第4世代。新モデルでは縦が長いことがわかる

 ThinkPadシリーズは、法人向け製品と位置付けられており、レノボ直販サイトで中小企業などへの直販のほか、大企業向けの一括導入などの販路を中心に販売されている。ThinkPadは、1992年にIBMがThinkPad 700シリーズをグローバルに販売開始したのがその始まりで、それ以来「黒いお弁当箱」、赤いポッチのTrackPoint(トラックポイント、スティック型のポインティングデバイス)というデザインアイデンティティーを守り続け、どんな製品でも外観を見るだけでThinkPadとわかる伝統が守られている。

 入力しやすいキーボードや高性能といった、ビジネスPCで重要視されるポイントで高い評価を受け続けており、そうした 不変のアイデンティティと不変の高いユーザビリティなどがビジネスユーザーの絶対的な支持を受ける大きな理由になっている

 もちろん、不変であることが支持だけの理由ではない。 進化すべき所は新しい製品でしっかり進化を遂げており、特に性能面では年々進化するCPUやGPUを採用 し、かつそれを生かす設計が施されている。

 そうしたThinkPadシリーズだが、現在はいくつかのシリーズに分かれている。「X」(ウルトラポータブル)、「T」(モバイル)、「L」(スタンダード)、「P」(モバイルワークステーション)などのスタンダード製品群があり、加えて「X1」(プレミアムウルトラポータブル)、「P1」(プレミアムモバイルワークステーション)といったプレミアムセグメント向けの製品群が用意されるという構造になっている。

 つまり今回紹介するThinkPad P1シリーズは、プレミアム向けモバイルワークステーションという位置付けになる。一昔前まで、ワークステーションというと、CPUやGPUの性能を最大化するために、主にデスクトップPCが使われていた。しかし、近年、特に昨年のパンデミック以降は、エンジニアもテレワーク、リモートワークで仕事を行なうことが増えてきており、モバイルワークステーションに注目が集まっているのだ。

 ThinkPad P1 Gen 4はそうしたThinkPad P1シリーズの第4世代の製品で、これまでの製品を振り返ると以下の表のようになっている。

【表1】ThinkPad P1の歴史(レノボが公開している資料より筆者作成。主な仕様で、CTOなどでは別の選択肢がある場合がある)
ThinkPad P1 Gen 1 ThinkPad P1 Gen 2 ThinkPad P1 Gen 3 ThinkPad P1 Gen 4
CPU 第8世代Core 第9世代Core 第10世代Core 第11世代Core
最大dGPU NVIDIA Quadro P2000 NVIDIA Quadro T2000 NVIDIA Quadro T2000 NVIDIA RTX A5000 Laptop GPU
NVIDIA GeForce RTX 3080
最大メモリ 64GB(DDR4-2666) 64GB(DDR4-2666) 64GB(DDR4-2933) 64GB(DDR4-3200)
最大SSD 2TB(PCIe Gen 3)×2 2TB(PCIe Gen 3)×2 2TB(PCIe Gen 3)×2 2TB(PCIe Gen 4)×2
ディスプレイ 15.6型3,840×2,160ドット/15.6型1,920×1,080ドット 15.6型3,840×2,160ドット/15.6型1,920×1,080ドット 15.6型3,840×2,160ドット/15.6型1,920×1,080ドット 16型3,840×2,400ドット/16型2,560×1,600ドット
サイズ 361.8×245.7×18.4mm(非タッチ)/361.8×245.7×18.7mm(タッチ) 361.8×245.7×18.4mm(非タッチ)/361.8×245.7×18.7mm(タッチ) 361.8×245.7×18.4mm(非タッチ)/361.8×245.7×18.7mm(タッチ) 359.5×253.8×17.7mm(非タッチ)/359.5×253.8×18.2mm(タッチ)
重量 1.7kg(非タッチ)/1.8kg(タッチ) 1.7kg(非タッチ)/1.8kg(タッチ) 1.7kg(非タッチ)/1.8kg(タッチ) 1.81kg(非タッチ)/1.86 kg(タッチ)

 レノボ・ジャパン合同会社WS & クライアントAI事業部 シニア・プロダクトマネージャーの高木孝之氏は、「 ThinkPad P1 Gen 4の目玉の1つが16型化 。画面サイズだけを比較すると約11%大きくなるのに、筐体の外形寸法はほぼ変わっていない。16:9の画面縦横比は16:10になっており縦方向に延びている。16型は今後ワークステーションの世界でも業界トレンドとなっていくであろう。これにより可搬性を損なうことなく生産性を向上させることができる」と、16型化のメリットを説明する。

第3世代から第4世代への開発背景

 ThinkPad P1 Gen 3までは底面積が361.8×245.7mmになっていたのに対して、ThinkPad P1 Gen 4では359.5×253.8mmとなって、横幅はわずかに狭くなり、縦がわずかに延びている。つまり 底面積はわずかに約2.6%しか大きくなっていないのに、ディスプレイパネルのサイズは約11%増となっている のだ。

 これを実現できた理由は2つある。1つは従来製品よりもさらに狭額縁化を進めたこと。左右などの縁をさらに薄くすることで、底面積に対する表示域を大きくした。もう1つは画面縦横比(アスペクト比)を従来モデルは16:9だったのを、ThinkPad P1 Gen 4では16:10とした。しかも、この16:10のパネルは、いずれも縦方向の表示面積が増えている。

 従来モデルのUHDパネルでは3,840×2,160ドットドットという解像度だったが、Gen 4のWQUXGAパネルは3,840×2,400ドットとなっており、240ドット分だけ縦長の表示が可能になる。

 しかし、同じ筐体サイズでディスプレイを大型化した製品はほかにも多数ある。そんな中、ThinkPad P1 Gen 4で目を見張るのは、筐体サイズをほぼ維持しながら、驚異的とも言えるほど排熱性能を向上させた点にある。

瞬間最大発熱量が高まる最新のCPU/GPU

 ThinkPad P1 Gen 4の最大の強化点が、CPUとdGPUの強化になる。 ThinkPad P1 Gen 4では上記の表の通り、CPUもdGPUのどちらも新世代のものへと強化 されている。

 CPUは第11世代Coreを採用。CPUの世代だけだとGen 3に比べて1世代進化しただけに見えるかもしれないが、IntelのCPUの内部アーキテクチャは、第7世代第10世代まで共通になっており、違いはCPUコアの数程度となっていた。これに対して第11世代Coreでは、「Cove系」と呼ばれる新しい世代のCPU内部アーキテクチャが採用されており、1つのCPUコアあたりの性能が大きく向上しているのだ。

 ThinkPad P1 Gen 4に採用されている第11世代Coreは最大8コアに対応した「H45シリーズ」になっており、モバイルワークステーション向けIntel CPUとしては現時点で最高峰の性能を持っている。

写真中央上部左に見えるのがGPU、その右がCPU(第11世代Coreプロセッサ)、下側のチップがPCH

 dGPUも同様だ。従来のThinkPad P1 Gen 3では開発コードネームTuringで呼ばれるアーキテクチャを採用したNVIDIA Quadro T2000/T1000というdGPUが採用されていた。これに対してThinkPad P1 Gen 4では開発コードネームAmpereで知られる最新世代のアーキテクチャを採用したNVIDIA RTX A5000、A4000、A3000ないしはGeForce RTX 3080/3070などのGPUを選択することができるようになっている。

右側の正方形のチップがGPU(NVIDIA RTX A5000)

 これらのCPU、dGPUは、 従来製品と比べ、性能が上がっているのと同時に、消費電力も増えている 。より正しく表現すれば、バッテリ駆動時にはできるだけ電力を節約して動作するが、性能を必要とするときには電力を多く消費してでもクロック周波数を引き上げるなどして、処理能力を上げるという動作をする。このため、PCメーカーとしては、正しく電力供給できる電力回路と、かつそれにより発生する熱をうまく放熱する機構を設計する必要がある。

 第11世代Core H45シリーズは、TDP(Thermal Design Power)と呼ばれる定格動作時の熱設計消費電力は45Wだが、CPUがターボモードと呼ばれる一種の公式オーバークロック動作をするときには、より高いクロック周波数で動作し、同時により電力を消費する仕組みになっている。

 Intelが公式に公開している仕様では、瞬間的に最大109Wまで電力供給して動作させることが可能になっており、その後放熱が追い付かなくなるとクロックを下げ、それに併せて消費電力が段階的に下がっていき最後は定格近くで落ち着くという動作をする。PCメーカーとしては、できるだけその最高クロック(109W)に近いところで長い時間動作するように放熱設計を行なうことで、総合的な処理能力を引き上げることが可能になるのだ。

 dGPUも同様だ。NVIDIAが公開している公式なスペックでは、Gen 3で採用されていたQuadro T2000のTGP(Total Gpu Power、最大消費電力)は40~60W(TGPに幅があるのはメーカーがその間で自由に設定できるため)。それに対して今回のGen 4に搭載されているNVIDIA RTX A5000は80~165Wになっており、最も低い設定でも最大時の消費電力は倍になるし、最も高い設定同士で比較すると倍以上になる。

 このように、現代のノートPCでは、半導体メーカーは少しでもより高い性能を発揮できるように熱設計消費電力の枠に幅を持たせてある。このため、同じCPUやGPUを採用していても、PCメーカーの設計によっては性能に違いが出てくる。ただ、放熱機構を大きくして、重たくて大きな筐体にしてしまうと、可搬性が損なわれてしまう。つまり、 可搬性を損なわず、できるだけCPUやdGPUが性能を発揮できる熱設計がPCメーカーにとって重要な競争領域になりつつある のだ。

CPU/GPUの性能を極限にまで引き出すソフトウェア調整

レノボ・ジャパン合同会社 プロダクト・サーマル・デザイン・イノベーション マネージャー 内野顕範氏

 ThinkPad P1 Gen 4では、こうしたハードウエア側の工夫だけでなく、ソフトウエア側でも熱設計をしっかり行ない、少しでも性能を向上させることができる仕組みが用意されている。

 レノボ・ジャパン合同会社プロダクト・サーマル・デザイン・イノベーションマネージャーの内野顕範氏によれば、ThinkPadでは最大限性能を発揮させたいというユーザーのニーズに応えるべく、ソフトウエア側でもそれをアシストする設計を行なっている。その特長は主に3つにまとめられる。

  1. CPU/GPUの性能を極限にまで引き出すウルトラパフォーマンスモードの搭載
  2. 天板を閉じた状況でも性能を維持する”リッド・クローズ・モード”の搭載
  3. ファンの動作をソフトウエア的に制御

 Windows 10ではタスクバーの通知領域にある電源のアイコンをクリックすると、「パワースライダー」と呼ばれるスライダーが表示され、それを左側に寄せると省電力、右側に寄せると性能を優先順位にして電力設定が行なわれるようになっている。 ThinkPad P1 Gen 4では新たに独自の「ウルトラパフォーマンスモード」という新しいモードが追加され、CPUやGPUが性能を限界まで引き出せるようになっている

パワースライダーに新しい設定が追加される

 また、こうしたモバイルワークステーションを利用する場合には、外付けキーボードと外付けディスプレイを接続して、デスクトップPCのように使う使い方も多い。その際、ノートPC側のディスプレイは使わないので、ディスプレイは閉じて使うようにしているというユーザーもいる。

 だが、ディスプレイを閉じると、ノートPCは放熱上は厳しい条件に置かれることになる。というのも、キーボード面からも放熱を行なう設計になっているためで、閉じていると熱が籠もる分、やや性能を落とす設計になっている製品がほとんどだ。

 これに対して、 ThinkPad P1 Gen 4では、閉じることでキーボード面の吸気口から聞こえるファンのノイズがやや減るという点を逆手に取り、ファンの回転数を上げている 。これにより騒音レベルを上げずに、開いているときと同じ性能を維持できている。

リッド・クローズ・モード

 さらに、ThinkPadシリーズのファン制御は、顧客の期待に沿うべく設計が行なわれているという。実際、うるさくてもいいからファンを回して最大限の性能を発揮するようにするとか、その逆にこのアプリを使っている時には性能よりもファンの静かさが大事だからあまり回さないようになど、300種類もの使用環境で、どのようにファンの動作を規定するか検証している。

 外見からは分からないが、 ThinkPadでは、独自の温度センサーによるファン制御に起因する点もあるというのも見逃せない 。一般的なPCでは、CPU温度センサーをもとにCPUファンの回転数を調節する設計にしている場合が多いが、ThinkPadでは、CPU温度センサーではなく、マザーボード上にある独自の温度センサーから取得する温度を利用してファンを制御しているのだ。

 これにより、ターボモードでCPUの温度が上がっても、システム全体ではまだ余裕がある場合などに無駄にファンを動作させて騒音を上げないで済む。また、あまり負荷がかかっていない時には非可聴音量と呼ばれる、音はしていても人間の耳には気にならないレンジになるようにファンの速度を調節することで、ファンが不快に動作する時間を減らすなど実に決め細かな制御を行なっているのだ。

ファンの動作をソフトウェアで制御

前世代と比較してCPUは4割、GPUは約8割の性能向上

 こうした制御や設計などを行なった結果、ThinkPad P1 Gen 4では前世代と比較して、グラフィックスベンチマーク(3DMark Sky Diver)で78%、CPUのベンチマーク(Cinebench R20)で41%、PCの総合的なベンチマークで16%ほど性能が改善されている。また、4Kのエンコードでも16%前後の処理時間の短縮が見られている。

 特にGPUの性能を示すグラフィックスとCPUのベンチマークが大きく向上しているが、前述のとおり、筐体サイズやファンノイズなどは維持したままで、これだけの性能向上は驚異的と言っていい。

ベンチマーク結果

 テレワーク時代に、持ち運ぶことができて、かつ性能が高くデスクトップの代わりに利用できるモバイルワークステーションの需要は確実に増している。 ThinkPad P1 Gen 4は、ファンノイズやキーボード面の温度など、スペックシートには現われにくい快適性の点でも、新設計の排熱機構やウルトラパフォーマンスモードなどを活用したCPU/dGPUの最大性能の引き出しという点でも、確実にユーザーの期待に応えてくれる製品 だと言っていいだろう。

写真: Koji Yamanaka

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