東京大学大学院工学系研究科の武田俊太郎准教授と榎本雄太郎助教らの研究チームは16日、万能を謳う「光量子プロセッサ」の開発に成功したと発表した。高い応用性を備えており、どれほど大規模な計算も最小回路で実行できる「究極の大規模光量子コンピュータ」への応用展開や、光量子技術の実現を加速するとしている。
光量子コンピュータは、ほかの量子コンピュータとは異なり、冷凍/真空装置が不要で、常温/大気中で動作すること、光を用いた量子通信との相性が良いこと、高速な計算処理が可能であることから、近年注目が集まっている。
武田氏らの研究チームは、2017年9月に、どれほど大規模な計算も最小規模の光回路で効率よく実行できる「究極の大規模光量子コンピュータ」方式を考案。これは、ループ構造を持つ光回路により、1つの量子テレポーテーション回路を無限に繰り返し用いて、大規模な量子演算を実行するものであり、量子ビット情報を載せた光パルスを同時に多数発生させ、複数並べる従来の回路よりリソースやコストを大幅に低減させられる。
今回開発した独自の光量子プロセッサは、情報を載せた1個の光パルスに、さまざまな計算を複数ステップ実行できることが検証され、従来の回路にない汎用性と拡張性を兼ね備え、万能な動作を実現した。
研究チームは2019年5月の段階で、「量子もつれ光パルスの合成」まで検証を進めていたが、今回は光量子プロセッサの回路を完成させ、回路の多数の構成要素(ミラーの透過率や光スイッチのオン/オフなど)をナノ秒の精度で時間同期しながら切り替える仕組みを導入。片方の光パルスの測定と、もう片方の光パルスへの操作を、時々刻々と行なって計算が実行できるようにした。加えて、回路の切り替えパターンの変更により、行なう計算の種類や繰り返し回数も変更を行なえるようにした。
光量子プロセッサでは、変位操作、位相シフト操作、スクイーズ操作、ビームスプリッタ操作、3次位相操作の5種類の計算ができれば、どのような計算もできるとされているが、今回開発したものは3次位相操作を除く4種類が実験的に実証され、その3次位相操作も理論的には同じ回路で実行可能であることが示されたとしている。
今回の研究成果は日本発のアイデアである「究極の大規模量子コンピュータ」の実現を大きく前進させられるものであるとし、材料/医薬品の開発、最適化、人工知能などへの応用が期待される。
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