MINISFORUMの小型PCを何度もレビューしている筆者でさえ、今回は少々驚きを禁じ得ない。それもそのはず、MINISFORUMが10月30日に発売する「EliteMini X500」では、AMDの「Ryzen 7 5700G」を搭載している。
何がスゴイってRyzen 7 5700Gは、8コア16スレッドに対応するれっきとしたデスクトップ向けのAPUだ。本来はそれなりのサイズの筐体で運用するべきAPUを、どうやったら約15cm四方のコンパクトなケースで運用できるというのか。性能面はもちろん、APUの温度や動作音など、気になる部分を細かく検証していこう。
各部にメッシュ構造を採用し、エアフローを強化
EliteMini X500は、手の平サイズの筐体を採用する小型PCだ。メモリのサイズが異なる3モデルを用意しており、16GBのメモリと512GBのSSDを搭載する最小構成の実売価格は10万6,980円。執筆時点では直販サイトで予約すると1万円引きで購入できる。
【表1】MINISFORUM EliteMini X500のスペック | |||
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OS | Windows 10 Pro | ||
CPU(基本クロック) | Ryzen 7 5700G(3.8GHz) | ||
搭載メモリ(空きスロット、最大) | DDR4-3200 SO-DIMM 16GB(なし、64GB) | DDR4-3200 SO-DIMM 32GB(なし、64GB) | DDR4-3200 SO-DIMM 64GB(なし、64GB) |
ストレージ | SSD 512GB(PCI Express 3.0 x4) | ||
拡張ベイ | 2.5インチシャドウベイ×1 | ||
通信機能 | Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)、Bluetooth 5.1 | ||
主なインターフェイス | DisplayPort、HDMI、USB 3.1×4、Gigabit Ethernet×2、ヘッドフォン、マイク、ライン入力、microSDメモリカードスロット | ||
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 154×153×62mm | ||
重量 | 0.95kg | ||
直販価格 | 10万6,980円 | 11万5,980円 | 13万1,980円 |
こうした小型PCでは、主にノートPC向けのCPUやAPUを採用することが多い。サイズが小さい小型PCでは、高性能だが発熱も大きいデスクトップPC向けのCPUやAPUを冷却できるような、きちんとしたCPUクーラーを搭載することが難しいためだ。
しかしEliteMini X500は、同社製のノートPC向けCPUを搭載する小型PCとほとんど変わらないサイズの筐体を採用する。例えば、今回性能比較でも取り上げる同社の「EliteMini TL50」は、MINISFORUM製の最新小型PCで、ノートPC向けの「Core i5-1135G7」をCPUとして採用する。
このEliteMini TL50の横幅と奥行きは149.6mmで、厚みは55.5mmだ。それに対してEliteMini X500の横幅は154mm、奥行きは153mm。厚みも62mmと、EliteMini TL50とほとんど変わらないことに驚く。
筐体の特徴は、前面、側面、天板など各所にメッシュ構造を取り入れたエアフローに優れた構造を採用すること。こうしたメッシュ構造の天板越しに内部を見ると、横幅と奥行きが約100mm(実測値)のヒートシンクと、90mm径(同じく)のファンを搭載するかなり大きなCPUが組み込まれていることが分かる。
今まで見てきた小型PCのCPUクーラーとしては、かなり大型だ。メッシュ構造の天板を通して外気をこのCPUクーラーで取り込み、Ryzen 7 5700Gをしっかり冷やすということだろう。前面に装備するのは電源ボタンと細いピンで挿すリセットボタンのみで、USBポートはない。
また左側面にはmicroSDカードスロットを備えるが、やはりUSBポートはない。USBメモリなどを頻繁に利用するなら、背面のポートから引き出す延長ケーブルや、USB Hubなどを用意するとよいだろう。
背面の映像出力端子は、DisplayPortとHDMIの2系統。どちらもリフレッシュレート60Hzの4K出力に対応しており、同時に利用して2画面のマルチディスプレイ環境を構築できる。4基のUSBポートはすべて10GbpsのUSB 3.1(USB 3.2 Gen 2)対応だ。2基の有線LAN端子は、どちらもGigabit Ethernet対応となる。
メモリスロットやM.2スロットへのアクセスは容易
内部へのアクセスは容易だ。四隅のネジを外し、背面のポートとかぶさっている部分をゆっくりと押し込みながらフックを外す。そして底面カバーをじわじわと持ち上げて外すと、内部の様子が見えるようになる。
一番上にあるのは、プラスチック製の2.5インチシャドウベイ用トレイだ。2.5インチSSDやHDDを取り付け、ストレージ容量を追加できる。このトレイを外すと、さらに2基のメモリスロットとM.2スロットにアクセスできる。
M.2スロットは、上の写真の右にあるSSDが装着済みの1基と、写真の左にある空きスロットの合計2基だ。空きスロットは2242サイズまでなので、自作パーツショップなどで購入できる一般的な2280サイズは利用できない。ただ、ネットショップなどではこのサイズのM.2対応SSDもいくつか存在する。
2280サイズ用のM.2スロットには、薄型のヒートシンクを備えるSSDが組み込み済みだ。これを外して別のM.2対応SSDに換装することも可能。スペックシートによると、このM.2スロットはPCI Express対応なので、搭載CPUを考えるとPCI Express 3.0 x4のM.2対応SSDが利用できる。空いている2242サイズのM.2スロットは、SATA 6Gbpsのみの対応だ。
ちょっと基板をずらしてみると、基板もケースから外すこともできそうだ。ということで外してみたのがこの写真である。なお、無線LANのアンテナケーブルがケースに繋がっているため、これが断線しないように作業は慎重に行なおう。
こちらの面には、ユーザーが利用できるスロットなどはない。カスタマイズ目的ならここからの作業はまったく必要ないので、注意が必要だ。
基板の表面には、CPUと冷却用のCPUクーラーが固定されている。バックプレートとネジ止め式のCPUクーラーであり、4カ所のネジを外すと、そこにはCPUソケットとRyzen 7 5700Gが組み込まれていた。スペックには記載されているのだから当たり前だが、それでもすごいなあとは思う。
前述の通り、通常のカスタマイズではここまでする必要はまったくない。ただ数年使ってグリスが劣化して熱暴走が起きたときには、CPUクーラーまで分解してグリスを塗り直すなどのメンテナンスができる。こうしたメンテナンス性の高さも、EliteMini X500の大きな魅力と言える。
デスクトップPC向けAPUらしい性能を発揮
ここからは、気になる性能について検証していこう。比較対象は、大きさ比較でも取り上げたEliteMini TL50だ。EliteMini TL50が搭載する「Core i5-1135G7」は、4コア8スレッド対応のミドルレンジクラスCPUだ。
このCPUは、小型PCだけではなく液晶一体型PC、モバイルノートPC、A4版ホームノートPCなどで広く利用されている。こうした一般的なPCとEliteMini X500を比べることで、そうした一般的なPCとどの程度性能が違うのかが分かる。
まずは一般的なアプリの使用感の目安となる「PCMark 10 Extended」の結果を見てみよう。総合スコアは、EliteMini X500の方が約22%優れているという結果となった。そのほかの項目も総じてEliteMini X500が優れていた。
MINISFORUM EliteMini X500 | MINISFORUM EliteMini TL50 | |
---|---|---|
PCMark 10 Extended score | 5,298 | 4,332 |
Essentials | 10,496 | 9,188 |
App Start-up score | 13,802 | 11,312 |
Video Conferencing score | 8,891 | 7,735 |
Web Browsing score | 9,424 | 8,867 |
Productivity | 10,107 | 6,236 |
Spreadsheets score | 12,603 | 5,598 |
Writing score | 8,106 | 6,947 |
Digital Content Creation | 7,010 | 4,636 |
Photo Editing score | 10,030 | 6,777 |
Rendering and Visualization score | 6,992 | 2,925 |
Video Editting score | 4,912 | 5,029 |
Gaming | 2,865 | 3,586 |
Graphics score | 3,715 | 4,745 |
Physics score | 26,279 | 13,157 |
Combined score | 1,199 | 1,588 |
3Dグラフィックスの表示性能を計測できる「3DMark」では逆に、EliteMini TL50の方が優れているという結果になった。Core i5-1135G7では、Intelの最新GPUコア「Intel Iris Xe Graphics」を内蔵していることもあり、こうした結果になった。とは言えEliteMini X500の結果も優秀で、設定次第ではPCゲームも十分に遊べるレベルだ。
MINISFORUM EliteMini X500 | MINISFORUM | |
---|---|---|
Time Spy | 1,304 | 1,533 |
Fire Strike | 3,471 | 4,277 |
Night Raid | 16,089 | 16,626 |
主にCPU性能を検証できる「Cinebench」と「TMPGEnc Video Mastering Works 7」では、EliteMini X500のスコアが際立っている。Ryzen 7 5600Gは、CPUコアとして最新の「Zen 3」アーキテクチャを採用する。しかもCore i5-1135G7が4コア8スレッド対応であるのに対し、8コア16スレッドだ。こうしたCPU性能の勝負では、EliteMini X500に部がある。
MINISFORUM EliteMini X500 | MINISFORUM | |
---|---|---|
CPU | 12,162 pts | 5,362 pts |
CPU(Single Core) | 1,487 pts | 1,366 pts |
なおTMPGEnc Video Mastering Works 7のH.265/HEVCでのエンコードテストでは、EliteMini X500だとCPU利用率が80~85%だった。EliteMini TL50では100%使い切っていたことを考えると、アプリの最適化が進めばもっと大きな差が付く可能性はある。
MINISFORUM EliteMini X500 | MINISFORUM | |
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H.264/AVC | 1分46秒 | 4分52秒 |
H.264/AVC(Video Coding Engine/Quick Sync Video有効) | 32秒 | 42秒 |
H.265/HEVC | 3分31秒 | 8分 |
H265/HEVC(Video Coding Engine/Quick Sync Video有効) | 31秒 | 50秒 |
※解像度1,920×1,080ドットでbitレート15~16Mbps、約3分の動画を、H264/AVCとH.265/HEVC形式で圧縮、パラメータは標準のまま変更なし
高性能なCPUを小さなケースで動かすため、動作音も気になるところだろう。さすがに各所にメッシュ構造を採用するケースなので、音漏れがないということはない。ただアイドル時や軽作業時は「フー」という静かな音がする程度で、ほとんど気にならない。またアイドル時の消費電力は7.3W。CPU温度も外気温が23℃の状態で29℃とかなり低い。
負荷の高いベンチマークテストである「Cinebench R23」実行中の最大温度は、82℃。CPUクーラーのサイズ的にはもうちょっと上がるかと思ったが、意外と低い数値に収まった。
CPUファンはフル回転に近い状態で、それなりに動作音は大きくなる。ただテストが終わればファンの回転数はすぐに落ち着く。Cinebench R23実行中の消費電力は87.2Wだった。
Windows 11もOK、様々な用途で活躍できる小型PC
当たり前だがデスクトップPCとほとんど遜色がない性能を示し、CPU温度や動作音も個人的には許容範囲内。にも関わらず筐体は手の平サイズと、ケチの付けようのない小型PCだ。これだけコンパクトなら置き場所に困らないし、デザインも優れている。もちろん、Windows 11へのアップグレードも対応している。
リビングで目立たない場所に設置して、PCゲームや各種映像コンテンツの配信サービスを楽しむのもよい。またここまでパワフルなら、今まで使ってきたデスクトップPCやノートPCの置き換えとしても十分機能する。
会社と自宅など複数の場所を移動して作業するユーザーなら、ディスプレイだけは作業場所に置き、EliteMini X500のみを持ち歩くのもよいだろう。小型PCらしい可搬性やデザインに、小型PCらしからぬ高い性能が融合した非常に優れたPCだ。
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